増資か融資か…上場請負人が語る、財務戦略のコツ
なぜあの会社は「上場ゴール」で終わってしまうのか?#3- 3社のIPO経験「上場請負人」佐々木義孝さんが財務戦略のコツを解説
- 損益や投資計画などから将来のB/S作成、必要な資金額や資本政策を検討
- 増資と融資、どちらの調達方法か。どのタイミングでいくら調達するか
コーポレートファイナンスとして財務戦略を考えていく上では、資本政策だけでは不完全で、予想B/S(貸借対照表)とあわせて考えるべきです。ファイナンスもデット(銀行借り入れや社債発行)とエクイティ(株式発行)では調達コスト、返済義務の有無が異なります。その違いによって自己資本比率やROE(株主資本利益率)、D/Eレシオ(負債資本倍率)など財務バランスも変わってきます。
したがって、財務状況を見ていく上では予想B/Sの策定が必要です。将来の損益計画や投資などの条件をもとに、将来のB/Sを作るとともに、必要な資金の額および調達方法、そして資本政策について検討し、事業計画を立てる際に重要な「必要な調達資金の額」を算出するための考え方を解説します。

予想B/S策定する手順
必要な資金を算出するための方法はいくつかありますが、まずは以下の手順で予想B/Sを作成します。
- 所与の条件で将来のP/L(損益計算書)を作る。
- 売上や売上原価に連動する運転資金(売掛金、買掛金、棚卸資産)の金額を確定させる。
- 固定資産投資の金額を入れる。
- 必要最低限の現金預金の金額を入れる。(何日分の売上高に相当する現金を有すべきか、と考えると算出しやすい)
- B/Sの残りの項目に数値を入れる。
- B/Sがバランスするために必要になる金額(=資金調達すべき金額)を算出する。
P/LとB/Sは連動しています。P/Lから丁寧に順を追っていけば適正なB/Sを作ることができます。
増資か融資か、選ぶ際のポイント
予想B/Sを作ったことで、例えば、今回の事業計画を遂行するに当たり必要となる資金は総額5億円あまりになることがわかったとします。ここで考えるべきポイントは以下の2つ。
- 増資と融資、どちらの調達方法を採用するか。
- どのタイミングでいくら調達するか。
これらについて最終的な意思決定を下さなければいけません。増資(資本金)で調達するか、融資(借入金)で調達するかを判断するには、それぞれの調達方法の特徴を押さえておく必要があります。一般論ですが、2つの調達方法のメリットとデメリットをまとめると下記のようになります。
融資と増資、それぞれの資金調達方法の特徴
融資(借入金) |
増資(資本金) |
|
メリット |
|
|
デメリット |
|
|
意思決定のポイントになるのは以下の2つになります。
- 投資(システムおよび広告宣伝費)に対する売上増加、利益増加の確度がどのくらい高いのか?
- 仮に資本金による調達を選択するのであれば、投資家の希望に見合う条件になっているのか?
これらの点を踏まえて議論を進めて最終的に意思決定をします。確度が高ければ、返済義務があり返済スケジュールが決まっている融資であっても、低い資本コストの融資(借入金)で調達するほうが合理的です。キャッシュの出入りがほぼ見えているような運転資金などの調達は融資で行うのが鉄則です。
一方、将来のキャッシュフローの不確実性が高いのであれば、そのリスクを負える人から調達するほうが望ましいです。リスク許容度が高いのは一般的には投資家ですから、この場合はエクイティによる調達を選びます。投資家のお金が「リスクマネー」と呼ばれるのはそういう理由によるものです。

ただし、経営者が「将来の不確実性が高いのでリスクマネーであるエクイティで調達しよう」と考えても、投資したい投資家がいなければ調達はできません。ベンチャーキャピタルなどはそのような小規模ビジネスに対する投資家の代表格ですが、彼らが期待するビジネスサイズもそれぞれ違いがあります。
数百億円、数千億円の事業規模になりそうなビジネスに絞って億単位を投資するベンチャーキャピタルが存在する一方、数千万円規模の投資ですぐにイグジット(投資回収)できる複数の案件に興味を持つベンチャーキャピタルもいます。そういった投資家との交渉や契約締結にも時間がかかりますが、あらかじめ投資家の期待値を確認したうえでエクイティファイナンス(株式発行による資金調達)を行うことも重要です。
そしてエクイティファイナンスでは、計画策定が必須です。イグジットまでを見据えた資本政策を策定し、それを踏まえて、投資家に対し、いくらのバリュエーションで、何株発行することで、どれだけの資金調達を実施するかを検討していくことになります。
次回以降は数回にわたって、資本政策において常に意識すべきこと、想定すべきことを、より解像度を細かくして述べて行きます。
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