動物愛護法改正「8週齢規制」の真実 #2
押し切られた「正当な理由なき除外規定」- 改正動物愛護法の骨抜きの生々しい舞台裏を杉本彩さん回顧
- 土壇場で業界団体のねじ込み「日本犬6種は8週齢規制から除外」
- 寝耳に水で手立てを打てず。除外規定の撤廃へ課題残す
(編集部より)2019年に動物愛護法が改正され昨年6月に施行されてから1年が過ぎた。“ペット業界ありき”の発想で、どう骨抜きにされていったのか--。公共財団法人、動物環境・福祉協会Eva代表理事として、法改正のプロセスに深く関った女優の杉本彩氏が改正法の問題点を指摘する論考の続きは、問題の核心に迫ります。
※本記事は:著書『動物たちの悲鳴が聞こえる 続・それでも命を買いますか?』(ワニブックス)から、杉本さんの訴えを再構成させていただきました。

寝耳に水だった除外規定
日本犬6種については8週齢規制から除外する――私たちが超党派議連の会議の場でこの除外規定の存在を知らされたのは2019年5月22日。改正案がほぼ固まり、議連の総会で「改正案の報告と承認」を行っていたときのことです。翌週には衆議院の環境委員会に上げられるという、法改正の可決に向けての土壇場のタイミングでした。
今回取りまとめた改正案における8週齢規制に対して、公益社団法人「日本犬保存会」(会長・岸信夫衆議院議員=自民党)と同「秋田犬保存会」(会長・遠藤敬衆議院議員=日本維新の会)から日本犬6種については規制の対象外にするよう最後の最後にねじ込まれ、超党派議連がそれを受け入れたというのです。
あまりにも突然のことで、ただただ呆気にとられるばかり。”寝耳に水”とはこのことです。これまでの超党派議連プロジェクトチームの会議ではそんな議題が挙がったことはただの一度もなかったのですから。
しかし超党派議連におけるEvaは、あくまでもアドバイザーという立場でしかありません。私たちが何も知らない裏側で超党派議連とふたつの「保存会」とが協議を重ねていたということ。そこで除外規定を盛り込むという話がついていたのです。
そもそも、なぜ「日本犬」が除外されるのか。そこに正当な理由は見当りません。
「日本犬は親離れが早く、早めに人間と一緒に暮らしたほうが精神も安定する」
「日本犬は繁殖業者からの直接購入がほとんど。ペットショップで販売される犬とは分けて考えるべき」
「日本犬が飼育放棄や捨て犬、殺処分に至ることは少ない」
といった意見があるとも聞きました。しかしどれも生物学的根拠に乏しく、統計データとの整合性もないおかしな理由ばかり。それに、ペットショップから衝動買いした独居高齢者が入院し、誰も引取手がなく殺処分になるところだった1歳の柴犬を、私は個人的に保護して里親に譲渡したこともあります。
また、地方の動物管理センターに収容されている秋田犬を何頭も見たことがあります。
ですから、前述の「日本犬がペットショップで販売される犬とは分けて考えるべき」や「殺処分に至るケースは少ない」など事実とまったく異なるのです。
逆に考えれば、むしろ天然記念物であればなおのこと、8週齢規制で貴重な種を守るべきなのではないでしょうか。
結局のところ、消費者に人気のある日本犬を小さくてかわいい幼齢期のうちに販売したいというのが本音だと考えざるを得ません。

議員立法を逆手にとられた
Evaからも除外規定の撤回を求める要望書を出しましたが、あまりに急すぎる事態だったため、残念ながら何ら有効な手立てを取ることができませんでした。
またこのギリギリのタイミングで撤回活動を起こそうものなら、今回の改正そのものがストップしてしまうリスクもありました。動物愛護法は議員立法でもあり、議員立法で提出する法案は全会一致が基本となっています。そのため、「ここでゴネるなら改正案など提出しなくてもいい」などと1人でも反対者が出ると、これまでの活動のすべてが水泡に帰してしまう恐れがあったのです。ここが議員立法の難しいところと言えるでしょう。

今にして思えば、この除外規定は、あえてこうした土壇場でねじ込まれたのかもしれません。百戦練磨の強者たちに議員立法を逆手に取られ、土俵際で巧みに”うっちゃられた”という感じでした。
結局、除外規定を含んだ改正案によって衆参両院の本会議で可決され、そのまま6月12日に改正動物愛護法は成立の日を迎えたのです。
こうした経緯もあって、8週齢規制については今後に大きな課題を残すことになってしまいました。この理由なき除外規定をどうやって撤廃させるか。すべての犬猫の心と身体を守るために、どうやって例外のない8週齢規制を実現させるか 、これから先も続いていきます。
なお、8週齢規制とともに、飼養又は管理に関する基準を具体的に定める「数値規制」も施行されました。内容は大きく7つあります。
① 飼養施設の設備構造・規模、管理
犬や猫を飼養したり保管する際のケージの大きさや床材の素材
② 従業者の員数
繁殖犬猫、販売犬猫等、1頭あたりに対する従業員の数
③ 飼養・保管の環境管理
温度や湿度の管理、また臭気及び光環境の基準
④ 疾病等に係る措置
年1回の定期的な獣医師の健康診断の義務付け
⑤ 展示・輸送方法
長時間連続して展示を行う場合や輸送後の観察の義務付け
⑥ 繁殖回数・方法
生涯における繁殖回数や年齢
⑦適正飼養に関しての必要事項
被毛に糞尿等が固着してないか、体表が毛玉で覆われてないか、爪が異常に伸びていないかなどの具体的状態
なかには経過措置が付いた項目もありますが、今後は施行された8週齢規制や数値規制がしっかり運用できるかどうかがカギと言えるでしょう。これまでは具体的な数値や状態についての規制がなかったため、取り締まることが出来ませんでした。でも、それを言い訳にしていた部分もあって、現行の法律でも業の取消しなどやろうと思えば出来たのです。今回は、こうした規制とともに行政指導や行政処分の手順などを示し、環境省に自治体の相談窓口までできたので、行政には厳格な運用に向けしっかり進めていただきたいものです。(おわり)
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