西村大臣なんか屁でもない!酒取引停止「撤回劇」リアルな背景
飲食店と大違い。酒屋の政治団体のリアルパワー- 政府の飲食店への酒取引停止要請「撤回」に見る業界団体の政治力
- 撤回前日、自民党本部で業界と下村政調会長の会談に同席した前大臣
- 業界団体は前大臣らに長年寄付など関係性。飲食店より強い政治力
政府は13日、新型コロナの感染防止対策に協力しない飲食店との取引をやめるよう、酒類販売業者に要請するとしていた方針を撤回した。先に金融機関への働きかけが融資制限につながる圧力だとして猛批判を浴び、矢面に立った西村経済再生担当相が大炎上したばかりで、菅政権には更なる打撃となった格好だ。一方で、撤回に至った背景として新聞やテレビはあまり報じていないが、飲食店業界を大きく上回る酒類販売業界の“隠然たる政治力”も挙げられそうだ。

撤回させたのは世論の怒りだけか
今回、西村大臣に対して抗議をしたのは、全国の酒屋約5万件が加盟する「全国小売酒販組合中央会」(吉田精孝会長)。終戦8年後の1953年、酒税の保全など業界の公益活動を行う団体として、酒類業組合法に基づいて設立された。9日付で送った抗議文では、新型コロナ収束への取り組みに理解を示しながらも、
酒類提供を続ける得意先からの注文を拒否することは、長年にわたり培ってきたお客様との信頼関係を棄損する引き金となり得ます。また、「酒類の取引停止」に対する補償もない中で毅然とした対応をとることは、商慣習の常識から言っても困難です。
などと主張。加盟する店舗から「注文を断れば他店で購入してしまう」「今後一切の取引がなくなる。その責任を政府はとるのか」「週明け(12 日以降)の注文が来ており、仕入れた分の補償はあるのか」と言った不安や怒りの声が渦巻いているとした。西村大臣をはじめ今回の取引停止を主導した政府関係者らがビジネスの常識や現場の実情を理解していないと批判されたが、こうした不満が吹き出す事態になることは想定以上だったとみられ、一般国民の世論も後押しする形で撤回に追い込まれたのは紛れもない結果だった。
自民党本部で業界側に同席議員

一方で、全国小売酒販組合中央会が実質的に持つ「政治力」が影響した可能性は高い。撤回の前日、組合幹部は自民党本部を訪れ、下村政調会長と面会している。東京新聞によると、下村氏は「厳しい現状を深く認識して努力する」と応じたというが、注目したいのはこの新聞記事に「同席者」として挙げられているのが、田中和徳前復興相の存在だ。
田中氏は衆議院神奈川10区選出の当選8期で、業界との付き合いは古い。法的に政治活動ができない全国小売酒販組合中央会が、政治家の支援のために全国小売酒販政治連盟(酒政連)を組織し、「組合と政治連盟は表裏一体の関係」(資料より)だが、共産党機関紙「赤旗」はかつて2001〜03年、酒政連から田中氏に対し計850万円の献金があったと報じたこともある。近年も良好の関係のようで、政治収支報告書によれば酒政連は2018年、田中氏の関係団体に少なくとも20万円は寄付している。“族議員”として田中氏がパイプ役となり、業界側が与党幹部への働きかけを強めたことは想像にかたくない。
酒政連は田中氏以外にも自民党議員への寄付を行っており、2019年参院選では、今回の撤回劇で事務局長としてメディアにコメントしている水口尚人氏を組織候補として擁立したこともある。水口氏は候補者33人中32番目の得票に終わり、議席を得ることはなかったが、政策決定に及ぼす力は小さくない。2016年には量販店などによる酒類の安売り競争に歯止めをかけるため、議員立法による改正酒税法が成立したこともある。

政治力で好対照の飲食業界
全国津々浦々の街の酒屋さんが支持基盤でいることは自民党からすると政治的リソースとして貴重なことだ。その反面、政策形成にも隠然たる影響力があり、下村氏との会談では衆院選の話題までは出なかっただろうが、都議選で苦戦した自民党側からすると、秋の衆院選に向けて「怒らせたくない」組織であることは確かだろう。西村大臣や官僚が思いつきで要請や圧力発言をしたところで、業界側が本気になれば「屁でもない」わけだ。
これとは対照的に、酒を納入する側の飲食店サイドは、大手中堅を中心に加盟する「日本フードチェーン協会」系の政治団体「外食産業政治研究会」が存在するが、自民党議員への寄付額は他業種よりは低調。小規模店舗も含めて統一的な組織力にも欠けるとされ、この辺りの政治力の弱さが感染対策での「悪者扱い」につながってきたとみる向きは少なくない。「票とカネ」を集める力を使う余り、規制を強化し、政策を特定団体の利権確保のために歪めて一般国民の利益を損ねるのは感心しないが、表層的な政治報道ではあまり取り上げられることのないリアルな裏事情に目を向けて見る意義はありそうだ。
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