「空飛ぶクルマ」を支える「週一官僚」という働き方

連載『ビジネスで社会を変える共感力』#3
ビジョナル・インキュベーション株式会社 PR担当
  • 経産省の「空飛ぶクルマ」プロジェクトを民間の兼業・副業人材が支える
  • 「空飛ぶクルマ」が社会に受け入れられるよう、民間の経験・知恵で貢献
  • 官僚側も変化を受け入れ、学びにして新たに価値を生み出していく

「経済産業省がビズリーチで実施した副業・兼業限定の『週一官僚』公募に計1,338名が応募」。これは、2019年4月に、筆者が作成したプレスリリースのタイトルです。 その後、「『週一官僚』は壁を崩すか 社会変える官民連携」という大きなタイトルで、日本経済新聞に掲載されたのをはじめ、さまざまなメディアで紹介され、大きな反響がありました。

この「週一官僚」は、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」を通じて、経済産業省の「空飛ぶクルマ」プロジェクトのメンバーとして、有識者2名を副業・兼業限定で公募したもので、弊社において、省庁が副業・兼業限定で公募を実施したのは初めてでした。

やりがいを求める人材と未来づくりを結ぶ

当時、経済産業省のご担当者様から、技術の進化にともない、ドローンを大型化させた「空飛ぶクルマ」のプロジェクトを推進するために、ビジネスプロフェッショナルを招き入れたいというニーズを弊社の担当者が伺いました。そこで、弊社から副業・兼業限定の「週一官僚」を提案させていただいたのです。

ご提案の前に、ビズリーチ会員の方々にアンケートを実施したところ、回答者の83%が「今後、兼業・副業を行ってみたい」、そのうち半数が「自己実現の追求(幸福感の向上が図れる)」と回答し、多くの方々が社会の役に立ちたい、やりがいを求めていることがわかりました。また、そして、やりがいを通じて学びやキャリアアップを求めていることがわかりました。国のプロジェクトで日本の未来づくりに携われるのは、非常にやりがいと学びがあり、きっと多くの方々が参加したいのではないか。そのことをわかりやすく表現したいと、弊社の担当者が「週一官僚」というネーミングを考えました。キャッチーなネーミングでしたが、経済産業省のご担当者様がご理解してくださり、実施に至りました。

経済産業省によると、「『空飛ぶクルマ』は、単なる移動手段、輸送手段ではなく、日本が抱えるさまざまな課題を解消しうる『特効薬』としての期待もかかっている。災害時の救急搬送や迅速な物資輸送、少子高齢化やへき地に住む方々への公共福祉サービスの提供といった社会課題に対しても、革新的な一手を提示できる可能性を秘めている」とのこと。その可能性を聞くだけで、ワクワクします。

その「空飛ぶクルマ」の実現に向けて、官民の関係者が一堂に会する「空の移動革命に向けた官民協議会」が2018年に設立され、2023年に「空飛ぶクルマ事業スタート」をマイルストーンとし、日本として取り組んでいくべき技術開発や制度整備などについて協議されています。

写真:空飛ぶクルマの利用シーンイメージ(経済産業省提供)

行政が得意でないことができる人材を

では、なぜ「週一官僚」が必要だったのでしょうか。公募当時、経済産業省によると、「『空飛ぶクルマ』プロジェクトでは、テクノロジードリブンで新たな社会インフラを構築・普及させていく必要があります。行政は、技術開発やインフラ整備などの分野を得意とする一方、これらをどう既存の社会システムに組み込むか、またその安全性を訴えるだけでなく、真に安心してもらうにはどうすべきかを考えるといった社会受容性の向上が得意ではない。社会に受け入れられる土壌を育て、よりよい社会を実現していくためには、ビジネス視点を持ってサービスや技術を社会に広めてきたビジネスプロフェッショナルが必要」と考えたそうです。そこで、募集したのは、コミュニティマネージャーとパブリックリレーションズディレクターの2職種各1名。

1,338名の応募から選ばれた「週一官僚」のお2人に、応募の動機や活動内容、やりがいについて聞いてみましょう。

地方公共団体による「空の移動革命に向けた構想発表会」の様子=左が小菅隆太氏、右が吉田俊氏(写真は両氏提供)

企業広報PR顧問、NPO法人理事などに活躍の場を広げる小菅隆太氏が務めるコミュニティマネージャーの職務は、「空飛ぶクルマ」が持つポテンシャルを最大限に発揮できるよう、既存の公共サービスとの接続や社会課題の解決に導く利用方法を考案することです。 

小菅氏のコメントです。

「ビジネス(民間事業)、ソーシャル(社会・非営利)、パブリック(行政)のトライセクターという考え方がありますが、私個人の働き方として、ビジネスセクターと、ソーシャルセクターには籍(席)があり、年次相応の経験もあったのですが、パブリックセクターにだけは在籍したことがない中、セクターが異なる人や組織をつなげて新しい価値を創造する仕事に従事していた次第です。当時この公募を知った時パブリックセクターにも籍を置くことで、そのセクターで働く方々をより理解できるのではないかと強く思い、応募に踏み切りました。

採用が決まった後、初登庁からしばらくは、やはり文化の違いに戸惑うことも多く、なかなかお役に立てていない感覚が拭えませんでしたが、当時のリーダーから週一とはいえ、ちゃんと官僚の仲間として接します民間で活躍されているままを持ち込んでくれれば結構ですという言葉をもらい、自分は自分らしく振る舞えば良いのだ、ということを感じたこと、今でも鮮明に記憶しています。

初登庁後、すぐに動き出したのが、地方公共団体による空の移動革命に向けた構想発表会という大型イベントです。これは次世代空モビリティの利活用に積極的な知事をはじめとする都道府県の担当者に、地域での取り組みや掲げているビジョンを舞台で発表いただくプレゼンテーションイベントだったのですが、私たちの狙いはメディアに広く周知し、次世代空モビリティの社会受容性向上の一助とすること、そして地方公共団体と事業者のキーパーソンを繋ぎ、未来の産業育成を加速させることの二つがありました。

前者は同じく週一官僚のパブリックリレーションズディレクター吉田俊氏が力を発揮する場で、後者が主に基礎自治体とデザインの力で課題解決してきた私が力を発揮する場でした。2人とも半分は民間なわけですから、やや無機質で単発で終わりがちな行政のイベントとは一線を画し、次に繋げていくことを重視して企画しました。結果、テレビや新聞など幅広いメディアの注目を集めることに成功したとともに、マッチングイベントでは、行政関係者と事業者が積極的に意見交換をする機会となり、のちのさまざまな連携のきっかけを作ることができました。このイベントは初登庁から1か月半という短い時間での立ち回りでしたが、週一官僚の価値を存分に発揮できたと記憶しています」

イベント終了後にメンバーで記念撮影(小菅氏、吉田氏提供)

「空飛ぶクルマ」の社会受容へ模索

初登庁からのこうした特殊な働き方は、NHKの「ニュースウオッチ9」でも報道され、週一官僚と若手官僚の方々による新しいチームは一気に存在感を高めていきました。

こうしたメディア対応など、各種ステークホルダーとの関係構築・マネジメントを行い、俯瞰的な視点でPR戦略を立案・実行しながら、国民の「空飛ぶクルマ」への理解や協力を促進するのが、もう1人の週一官僚であるパブリックリレーションズディレクターの役割です。就任したのは、業界団体の広報室長を務めるなど、PRのエキスパートである吉田俊氏。週一官僚への応募のきっかけについて、「空飛ぶクルマというテーマはもとより、週一官僚という斬新かつ新しい働き方に強い関心を持ち応募しました」とのことです。

吉田氏は今後の抱負をこのように語ってくださいます。

「自身の知見や経験を活かし、報道関係者をはじめとする多様なステークホルダーとの良好な関係構築を推進して、空飛ぶクルマに対する社会受容性を高めていくことが私のミッションです。そのためには空を飛びたい人たちを応援することはもちろん、空飛ぶクルマが活躍する新しい暮らしを社会全体で受容するための機運や土壌づくりが大切になります。パブリックリレーションズのあるべき理想を追求する丁寧なコミュニケーション活動を通じて、空の移動革命の実現、そして、新しい働き方のモデルケースとなるべく、今後も週一官僚として積極的に取り組みます」

変化を受け入れ学びにする

週一官僚の二人が箱根→東京間のヘリコプターに乗車して”空の移動”を体験=小菅氏、吉田氏提供

週一官僚の2人の幅広い活躍に比例するように、いまや空飛ぶクルマは広く社会に知られるようになりました。最近は空飛ぶクルマに限らず、ドローンの利活用にも週一官僚たちは携わるようになり、オンラインによる「全国自治体ドローン首長サミット」(各地域の首長が次世代空モビリティの未来についてセッションする場)の企画も、チームのメンバーとともに成功に導きました。

新しい働き方としての週一官僚の成功の秘訣を尋ねると小菅氏はこう教えてくださいました。

「私たち週一官僚の働き方がフォーカスされがちですが、丸2年務めてきて改めて思うことは、私たちのような“イレギュラーな人材を受け入れる側の官僚たちの柔軟性と、適応力の高さです。チームの一員として迎え入れ、積極的に変化を受け入れ、それらを学びとして価値を生み出していく。そのようなスタンスが、私たちの働き方を、持続可能なものにしてくれているのです。そんなことを日々感じながら仕事をしています。なにぶん週一ではありますが(笑)」

お二人の活躍ぶりについて、経済産業省 製造産業局 産業機械課 次世代空モビリティ政策室 室長補佐 伊藤貴紀様は、「多様な方を巻き込んでいく場づくりも伝えるためのコミュニケーションも役人の苦手分野なので、お二人の強みをいかんなく発揮いただいています。チームの一員として議論に参加していただくことで、官の論理に染まらない”普通”の感覚を持ち込んでもらえることもとてもありがたいと思っています」とコメントされています。

その後、国土交通省や内閣府でも、ビズリーチ経由で副業・兼業で政策の現場に携わるビジネスプロフェッショナルを募るなど、ビジネスプロフェッショナルを省庁に招き入れ、共感の輪が広がっています。

(本連載は、毎月第3土曜日に掲載します:次回は8月21日予定)

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