北海道新聞について他紙の若手記者「あんな対応されたら絶望する」

調査報告も突っ込みどころ満載「他人事じゃない」
  • 北海道新聞の新人記者が逮捕された事件について、他紙の若手記者が語った
  • 「何よりショックだったのが実名報道したこと。取材の指示系統も不明確
  • 逮捕は今回については「妥当」との意見。昔とコンプライアンス意識が変化

北海道新聞の入社わずか3カ月の女性記者が旭川医科大学を取材した際、建物内に無断で侵入したとして、建造物侵入罪の疑いで現行犯逮捕された事件が、報道関係者を中心に論議を呼んでいる。逮捕から約2週間後の7月7日、北海道新聞は「社内調査報告」を紙面で発表した。

だが、誰がどのように新人記者に指示を出したかは、LINEの記録が残っているにも関わらず、“はっきりしておりません”と結論付けており、批判が相次いだ。現場の一線で働く記者は、この問題をどう受け止めたのだろうか。SAKISIRU編集部は、逮捕・拘束された新人記者と同年代で、他紙に勤務する若手記者Aさんに話を聞いた。

北海道新聞東京支社(東京・港区=SAKISIRU編集部撮影)

「明日は我が身」

何よりショックだったのは、北海道新聞が記者を実名で報道したこと。その上で会社が“遺憾です”とコメントしたのは、記者に責任を押し付けているようにしか見えませんでした。会社の指示に従ってなりふり構わず現場に行って、それで失敗したときに会社にあんな対応をされたら、絶望的な気持ちになると思います。記者を守らないんだなって。不誠実かなと思います。

実名報道の重みを知っているからこそ、会社の対応に憤りが募る。

記者の名前を出すことが誠意だと思ったなら、それは違うと言いたい。すでにネットでは写真が晒されてしまったし、今後彼女が記者のキャリアを重ねる上でも、あれでは将来を断たれてしまう。可哀想だし、私にとってもまったく他人事ではない。明日は我が身だと思っています。なぜ実名で報じたのか。その理由についても、きちんと答えて欲しいです。

北海道新聞の朝刊部数は約87万部。これまで北海道警察の組織ぐるみの裏金問題を暴くなど、報道機関としての役割も果たしてきた。北海道においては、他紙を圧倒する存在感を持つ。

業界全体が右肩下がりのなか、ブロック紙として気骨あるジャーナリズムを守り続けていて、すごいなと思っていたんです。そういう新聞社があんな不誠実な対応をしたのは、本当にショックでした。あの内容なら、出さないほうが良かったと思う。

※画像はイメージです(Igor Vershinsky/iStock)

「誰も責任を取ろうとしていない」

調査報告には、突っ込みどころが満載だ。

“先輩の体験談を参考にして自ら判断した”と書いてあったけど、どんな体験談をどのように聞いたのか。具体的な話が何もないから、状況がまったく分からない。無断録音が社内では常態化していたのか、それとも特殊なことだったのか、そこもポイントだと思います。

調査報告の末尾では、“今回の事件にひるむことなく、国民の「知る権利」のために尽くしてまいります”と高らかに宣言した。

しゃらくせえ、としか思えません。“誰が指示をしたかはっきりしません”って、そんなことあります? 誰も責任を取ろうとしてないですよね。上から順に局長や部長、デスクが誰にどういう命令をして、最終的に現場でキャップが記者本人にどんな指示やアドバイスをしたのか。そこを明らかにしないと、何の説明にもならない。一番知りたい部分なので、それこそ読者の知る権利に答えて欲しいです。

“後ずさりをした”、“体験談をもとに自分で判断した”など、これまでの説明では、記者の対応に問題があったかのような文言が目立つ。

“記者の対応が悪かったんだと印象づけているように感じます。私もたとえば火事現場の取材をする際など、規制線を少し越えてしまったり、空き地にクルマを停車せざるを得ないときもあります。トラブルにならないよう細心の注意をしているつもりですが、本当に他人事じゃないんです。

事件の舞台となった旭川医科大学(公式サイト)

「逮捕に文句は言えない」

今回の事件では、“大学内で記者を逮捕するのはおかしい”との意見もあるが(※)、この点については、Aさんは見方が異なる。

逮捕の4日前にも大学からマスコミに対して立ち入り禁止の通告があったわけだし、逮捕については文句は言えないと思います。権力を闇雲に敵視するのは、それはそれでおかしい。もちろん戦うべき時は戦わないといけないが、今回の件は普通に建造物侵入だったと思います。

昔と今では、コンプライアンス(法令遵守)への意識も異なる。

警察署のゴミ箱をあさったとか、机の上から書類をかっぱらってきた、みたいな違法に近いギリギリの取材を武勇伝的に語る上司は、今もいます。新聞業界が血気盛んだった時代のジャーナリズムにプライドを感じている人もいるんですが、今の社会常識ではそんなことできません。ただ、いざとなったらそういう指示も出ないとは言い切れない。

論評ももちろん大事だが、安全圏からジャーナリズムを語る評論家と現場にいる記者では、切実さがまったく違う。

あのニュースは見ていて本当に辛かったし、暗い気持ちになりました。新聞記者を目指す学生がますます減るでしょうし、新聞業界の寿命を縮めてしまったのではないでしょうか。

北海道新聞が誠意ある対応を取り信頼回復できるのか。日本中の新聞社で働く多くの記者たちも自分ごととして注目しているはずだ。

(※訂正 22:55)初出の原稿で「大学内で警察が記者を逮捕」とありましたが、大学関係者による常人逮捕でしたので訂正し、「警察が」を削除します。

 

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