琉球新報が減資で「中小企業」に…節税サバイバルは功を奏すか
沖縄では報道されない新聞事情のリアル- 沖縄2大紙の一つ、琉球新報が1億円に減資「中小企業扱い」に
- 沖縄では長らく2大紙が全国紙や保守系紙を圧倒。県民世論に影響力
- コロナ禍で業績悪化に勝てず。減資による節税対策に批判的な意見も
沖縄の2大地元紙の一つ、琉球新報を発行する琉球新報社が資本金を税務上「中小企業扱い」となる1億円に減資していたことが明らかになった。
同社は5月に発表した3月期決算で売上高が18%減、2期連続となる赤字だった。中小企業への「格下げ」をしてまで生き残りを図る減資策は、毎日新聞でも明らかになっているが、同社も先ごろの決算公告で4期連続の赤字が続いており、コロナ禍を背景にした新聞経営の厳しい実情が浮かび上がってくる。
県民世論に絶大な影響力
琉球新報のサイトは16日午前9時30分の時点ではこれまでの資本額、1億9,232万2,500円を記載しており、沖縄県内の主要メディアでは一両日報道されていない模様だが、15日の決算公告によると、1億円にし、減額した分は「全額を資本準備金にする」としている。沖縄の新聞市場は戦後長らく琉球新報と沖縄タイムスの2紙が取材や販売で激しくしのぎを削っており、全国紙の本格的な進出も許さなかった。2019年時点の販売部数(公称)でタイムスが15万7,173部、新報が15万5,508部とまさに互角だ。
ただ両紙とも論調は左派的で似通っており、特に国政が安倍政権下だった2010年半ば以降、基地問題で国と激しく対決してきた翁長雄志知事の県政を強く支持してきた経緯がある。地元紙の政治的な論調に差異が少なく、県民の世論形成に強い影響力を発揮。翁長氏が率いた政治勢力「オール沖縄」の県内選挙での躍進につながった経緯がある。
こうした「メディア」事情に関して、県内外の保守層は長らく「偏向している」と不満を募らせている。作家の百田尚樹氏が2015年6月、自民党議員の勉強会で「沖縄の2つの新聞は潰さないといけない」と発言。新報、タイムスが揃って抗議声明を出す騒ぎもあった。保守層の受け皿として2017年4月には八重山日報(本社・石垣市)が「第3の新聞」として本島に参入。産経新聞とも一時提携するなど保守層には歓迎されたが、新報、タイムスの「壁」が厚い上に、そもそも若者を中心とした「新聞離れ」が進んでいて2年近くで撤退を余儀なくされた。
攻めのDXもコロナ禍で打撃
八重山日報を“撃退”し、翁長前知事の後継である玉城デニー県政が国政と対立した時も、新報、タイムスは県政に友好的な論調が目立つ一方で、ともに部数低下には悩んでいる。両紙ともに小泉政権時代の2005年ごろはシェアが40%前後で争っていたが、前述した2019年時点ではともに24%台にまで落ち込んでいる。新報については以前から“DX”には積極的で、数年前にはヤフーニュースと協業した動画コンテンツで沖縄戦を取り上げるなど新しい試みも積極的に行なってきた。しかし会社全体の業績を牽引するまでには至っていないようだ。コロナ禍で沖縄の主要産業である観光業は空前の大打撃を被っており、県内企業の広告出稿も厳しい見通しだ。
新聞社の資本政策を巡っては、毎日新聞が今年1月、41億5,000万円から1億円に減額したことがビジネス誌やネットメディアで大きく取り上げられて注目された。毎日新聞に限らず、旅行業界「最大手」のJTBもコロナ禍の大打撃を受け、3月に23億400万円から1億円へ減資した。税務上、1億円以下にして「中小企業」としての要件を満たすことで法人税率が下がり、欠損金の繰上控除も認められるなど、税負担の軽減メリットを享受したい考えのようだ。
なお、琉球新報のライバル、沖縄タイムスは資本準備金を含めると3億を超えるが、資本金としては1億円で、以前から中小企業扱いにしているようだ。
メディアが「中小企業へ格下げ」をしてでもなりふり構わない生き残り策をすることには批判的な見方もある。ツイッターでは、メディア各社の業績をウォッチしている新聞記者OBが「中小企業化による節税は昔から色々な企業がしていたが、マスコミに関しては毎日新聞社がシャープと違い何の摩擦も無く成功した事例を作ってしまったのは非常にマズイですね。おそらくこれから様々な弱小ゾンビ新聞社や放送局が法人税を節税し始めるでしょう」と懸念していた。
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