デジタル人民元が、アリペイとウィーチャットペイを踏み潰す日
「目の仇」にする決定的要因とは- 中国がデジタル人民元を推進する理由。基軸通貨化に加えて中国固有の理由
- 2大キャッシュレス、アリペイとウィーチャットペイの市場支配終焉を目論む
- 個人情報やビッグデータの独占許さず。デジタル人民元の優位性も分析
(編集部より)中国が人民元のデジタル化を推進し、近い将来の本格実装に近づいていることは周知の事実ですが、通貨のデジタル化の国際的な覇権をめざすウラで、あまり語られていない「中国固有の理由」とは?

先月2日、北京市当局は抽選で20万人にそれぞれデジタル人民元(中国の中央銀行デジタル通貨、正式名称はDCEP, Digital Currency/Electronic Payment)200元(約3400円)を配布すると発表した。当選者は20日までの間それを指定された商店で使うことができる。北京でこうしたデジタル人民元の試行が行われるのは今年2月に続いて2回目だ。
4日には上海でも同様に35万人にそれぞれデジタル人民元55元(約900円)を配布するという発表があった。
また、北京、上海以外でも、蘇州、深圳、成都、長沙で昨年以来同様の試行が行われている。そして30日には、北京の地下鉄全線でデジタル人民元を試験的に使うことができるようになった。
人民銀行(中国の中央銀行)は、来年2月の北京オリンピックでデジタル人民元を使って決済ができるようにするために、着々と準備を進めているようだ。
中央銀行デジタル通貨の発行は、慎重な姿勢を崩さないアメリカを除くと、世界の多くの国の中央銀行が前向きになっていて、バハマとカンボジアでは既に発行されている。主要国ではフランス、スウェーデン、日本などの中央銀行が実証実験を行っているが、人民銀行はぶっちぎりで先頭を走っている。
許しがたい民間のデータ独占
世界の多くの中央銀行が中央銀行デジタル通貨の発行に積極的になっている理由の一つは、フェイスブックが主導するディエム(旧称リブラ)をはじめとする暗号資産が、各国の法定通貨の通貨としての地位を脅かすようになってきていることがある。しかし中国の場合はそれだけでなく、中国固有の理由もある。一つの理由は中国がデジタル人民元を使ってドルに代わる世界の基軸通貨になろうと目論んでいることだが、これにはまだ時間がかなりかかる。
もう一つの理由は、アリペイ(Alipay)とウィーチャットペイ(WeChat Pay)という二つのQRコード決済が、中国のキャッシュレス決済を牛耳っている状況を変えることだ。中国ではスマホのアリペイやウィーチャットペイを使って支払ができないと、道端の露店で朝粥を食べることも、タクシーに乗ることも、何もできず生きていけないことは良く知られている。

しかし経済社会に対する政府の統制を強めている中国政府にとって、これらの巨大IT企業が決済サービス市場を支配して個人情報や膨大なビッグデータを独占することは、許しがたいことだ。昨年11月にはアリペイのサービスを提供しているアントフィナンシャルの香港上場が政府の横やりで突然中止となり、今年4月にはアントフィナンシャルを傘下に持つアリババグループに対して独禁法違反があったとして約182億元(約3080億円)の巨額の罰金が課された。
そして今度はデジタル人民元の実用化によって、アリペイやウィーチャットペイの天下を終わらせようとしているのだ。
もっとも、人民銀行デジタル通貨研究所の ムー・チャンチュン(穆長春、Mu Changchun)所長が今年3月にBIS(国際決済銀行)主催のパネルディスカッションで述べたところによれば、デジタル人民元はアリペイなどと競合するものではなく、むしろ補完するもので、仮にアリペイなどに何らかの障害が起きたときには、デジタル人民元がバックアップの役割をするそうだが、これを額面通り受け取る人はいないだろう。
ムー所長は先月11日に上海で開催されたフォーラムでも「デジタル人民元とアリペイ、ウィーチャットペイは競争相手ではない」と言ったが、これは私には彼が「アリペイやウィーチャットペイはデジタル人民元の敵ではない」と言っているようにさえ聞こえる。なぜなら、まともに両者がぶつかれば法定通貨であるデジタル人民元の方に分があるのは明らかだからだ。
デジタル人民元「支配」の決定打
デジタル人民元の優位性をいくつか上げると、デジタル人民元は法定通貨なので強制通用力があり、中国全土で誰に対しても支払い手段として使えるが、アリペイはアリペイの加盟店でしか支払ができない。それに、ブロックチェーン技術を使ったデジタル人民元はアリペイなどよりも不正利用に対する防御がしっかりしている。またデジタル人民元は商品の購入者が商店にデジタル人民元で支払うと、その瞬間に通貨の所有権が購入者から商店に移って入金されたことになるのに対して、アリペイでは商品の購入代金は購入者の預金口座から商店の預金口座に金融機関のネットワークを経由して振り込まれるため、入金までにタイムラグがある。
さらにアリペイはスマホのアプリで支払い等の処理が行われるため、スマホを持っている人しか使えないし、アリペイは銀行の預金口座に紐づいているので、預金口座を持ってない人は使うことができないが、デジタル人民元は法定通貨である以上、スマホのない人も、また預金口座を持たない人もそれらを持っている人と同様に利用できるように設計されている。具体的にはデジタル人民元カードというカード形式のウォレットが開発されて既に試験運用もされており、これがあればスマホがなくてもまた預金口座がなくてもデジタル人民元のやり取りができる。
もちろんアリペイやウィーチャットペイがここまで広く普及したのは、決済サービスの便利さによるものだけでなく、アリペイやウィーチャットペイの口座を使って高利回りの資産運用や小口の消費者ローンなど様々なサービスを利用できることが大きな理由となっていたので、こうした事業との連携をテコにしてアリペイなどがデジタル人民元との競争に生き残る可能性はあった。
しかし今年4月、人民銀行はアリペイに対して決済事業を消費者金融や信用情報などの事業から切り離すよう命じ、アリペイを含むグループの事業を人民銀行の厳しい監督下に置くこととした。デジタル人民元がアリペイとウィーチャットペイを踏み潰す日は遠くない。
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