「食糧がない、ATMは破壊されている」現地民が訴える南アフリカ暴動の背景
日本人の理解を超えた「世界最凶都市」のリアル- 南アフリカ最大都市のヨハネスブルグで大規模な暴動が発生し「無政府状態」
- 発端は前大統領の収監だが、背景に格差と不況、コロナで不満がうっ積
- 現地在住者「銃声があちこちで鳴っている。食べ物が奪い尽くされた」
アフリカ大陸の南端に位置する南アフリカ共和国。その最大の都市ヨハネスブルグで9日から大規模な暴動が発生した。これまでに117人が死亡、1200人超が逮捕され、地元メディアは現地の様子を「無政府状態」と伝えている。
日本社会と無関係と言えば無関係なのだが、暴動が起きた理由を考察すると、“格差社会が行き着く先には暴動が起きる”という残酷な現実を思い知らされる。『世界最凶都市 ヨハネスブルグ・リポート』(彩図社)の著者で日本大学芸術学部講師の小神野真弘氏に、話を聞いた。小神野氏は現地の新聞社『メール&ガーディアン』でインターン記者として働いた経験を持つ。
不満と絶望…暴動の背景
ショッピングモールなどの商業施設が破壊され、街はめちゃくちゃになっていると報じられた。そもそも、暴動の原因は何なのか。
「2018年まで大統領を務めたズマ前大統領に対し、インド系富豪への便宜供与などの汚職疑惑があったのですが、ズマ氏は汚職調査を拒否。証言を拒んだことによって『法廷侮辱罪』が成立し、6月末に禁固刑が確定しました。7月7日に収監されたため、ズマ氏の支持者たちが抗議活動を開始し、暴動へと発展したのです」
南アフリカの人口は、約6000万人。黒人が約8割を占めるが、黒人はズールー人、コサ人、ツワナ人、ソト人など、多数の民族に分かれる。ズマ氏はズールー人初の大統領で、支持者の多くはズールー人だったと見られる。
「暴動に発展すると、ズマ氏の支持者以外も暴動に加わっていきました。背景にあるのは、政府や大企業に対する強烈な不満と、将来への絶望感だと思います。努力が報われず、真面目に生きていても報われない社会では、社会のルールに従うことに価値を見出せなくなる」

南アフリカは世界有数の金やダイヤモンドの産地だが、近年は枯渇気味で、経済的に行き詰まっていたという。
「長引く不況とコロナでフラストレーションが高まってるところに、前大統領の収監が起き、不満が爆発したのでしょう。ヨハネスブルグはエリアによって治安が大きく変わるのですが、一般的に白人や外国人はほとんど街を歩くことがありません。わずかな距離でも安全のため自家用車やタクシーで移動します。白人など富裕層の住む家は、高圧電流の流れる電線で囲われています」
銃声頻発、現地民「食べ物は奪い尽くされた」
小神野氏は15日、ヨハネスブルグ・ソウェトに住む現地民の知り合いとメールでやりとりをした。ソウェトは黒人貧困層が多く住む地域で、ヨハネスブルグのなかでも特に治安が悪いとされる。
「『銃声があちこちで鳴っていて、店が襲われていて食糧がない。食べ物は奪い尽くされた。銀行は閉まっていて、ATMも破壊されている』と言っていました。現地で非常にお世話になった相手だったので、なんとか送金方法を見つけて、いくらか支援しました。ただ、引き出した帰りに強盗に遭い、靴と携帯電話とともにすべて奪われてしまったと後日連絡を受けました」
現地では、さまざまな憶測も飛び交っているという。
「『ズマ氏あるいはその支持者が、全国のズールー人に対して“蜂起せよ”と呼びかけたのではないか』。現地ではこんな噂が流れているそうです。構図として考えられなくはないのですが、証拠はないので真偽は分かりません」
日本の50倍の殺人事件
ヨハネスブルグは、どんな街なのか。
「高層ビルやスタバもあって欧米の大都市と似たような雰囲気ですが、地元の人はよく『ワースト・アンド・ベスト』と形容します。大都市として文化や芸術が集まり、様々な民族が流入する包容力のある空間である一方、治安が非常に悪いためです。10万人あたりの殺人件数は35人ほどで、日本の50倍ぐらい殺人事件が起きやすい計算になります」

旅行者はほぼ立ち寄らず、ガイドブック『地球の歩き方』でもページ数は少ないという。
「私が滞在していた2019年にも電気代の値上げを発端に暴動が起き、スーパーや商店が襲撃されて、品物をかっさらっていました。現地の人は『お祭りだ』と言っていたのが印象的でした。社会への不満の吐け口として、暴動が起きやすい社会なのだと思います。日本人の常識の尺度では、なかなか測ることが難しい」
南アフリカでは人口10%の白人が7割の土地を所有しており、格差の大きさを示すジニ係数は世界最悪を記録している。総人口に占めるHIV感染者は約11%と、こちらも世界最悪の水準。黒人の失業率は3割を超え、若者世代は50%とも言われる。略奪や破壊行為は決して肯定できないものの、日本社会とはケタ違いの格差社会では、“ルールを守るのはバカバカしい”という考え方になってしまうのかもしれない。根本的な原因を解決するには、長い時間がかかりそうである。
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