『鬼滅の刃』から学ぶ強い自分のつくり方
炭治郎や杏寿郎のセリフから読み取れるものとは?- 「『鬼滅の刃』流強い自分のつくり方」の著者が新生活を歩む皆さんに送る
- 炭治郎らは辛い経験を通して「気づき」を得て覚悟や使命感を得た
- 「誰かのために」という思いが試練を乗り越えさせる強さの源
なぜ彼らは度重なる試練に直面しても“強く”居続けられるのか?大ヒットした「鬼滅の刃」の登場人物たちの生き様を、キャリア専門家の視点から分析した井島由佳さんの「『鬼滅の刃』流強い自分のつくり方」(アスコム)が好評だった。同書の発売から1年、この春から新生活を歩み出した皆さんの参考になればと、井島さんがあらためて『鬼滅の刃』から学べる強さについて語ります。
劇場版「鬼滅の刃」無限列車編は、興行通信社によると公開から半年以上経った現在、公開185日間で動員2876万人、興行収入397億円を記録したと発表された。この興行収入を塗り替えるのは至難の業であろう。
映画は、その映像化により原作マンガの魅力をより引き出し、感動する場面を印象づけてキャラクターの個性を際立たせた。映像化によって、更に多くの人を魅了した「鬼滅の刃」は、物語の根幹に人を感動させ奮い立たせるエッセンスが込められている。
“強い自分”をつくるための教科書
全年齢層のファンをカバーするに至ったのは、そこに優しく、たくましく、しなやかな強さを持つキャラクターたちが、困難と逆境を満身創痍で乗り越えていく姿があるからである。テレビドラマの「おしん」に代表されるよう、苦労しても一生懸命に応えていく姿に、人は感動を覚える。
「鬼滅の刃」は、鬼による理不尽な暴力によって命を奪われることが前提にあり、生きるか死ぬかの瀬戸際でせめぎ合うシーンが多い。そして、命を懸けた困難にあって尚、志高く世のため人にために行動する若者たちは、心が強く折れずに立ち続ける力を持っている。これを見て心震わせずにはいられないのである。
「鬼滅の刃」は、“強い自分”をつくるための教科書のような存在とも考えることができる。拙著「『鬼滅の刃』流強い自分のつくり方」は、そうした強い心のあり方を「鬼滅の刃」から学ぼうとしたものである。“強い自分”には様々な視点があるが、ここではそのひとつである「誰かのために」という思いが人を強くすることを取り上げる。
最初から心が強い人はほとんどいない。竈門炭治郎や禰豆子、我妻善逸、嘴平伊之助や柱たちも、辛い経験を通して「気づき」を得て覚悟や使命感を持ったから、心が強くなったのである。その「気づき」とは多くの場合、他者のために役立つ自分となることである。
例えば、炭治郎は禰豆子を人間に戻すために鬼殺隊に入ったことに始まり、自分たちのように鬼によって悲しい家族がこれ以上増えないように鬼を倒す、という使命感を得ている。善逸は禰豆子や女性を守るために、伊之助は「強い敵を倒す自分がスゴイ!」から、周囲のために、託されたからこそ強くなると心決まったときに更にパワーアップしている。煉獄杏寿郎は母親からの教訓である、「強き者は弱き者のために」の精神を使命感に変えたときに、柱となっている。
「誰かのために」行動を起こす
そもそも鬼殺隊自体が「誰か」のために、鬼のいない平和な世の中にするという使命を掲げて結成されている。鬼殺隊を結成した産屋敷家は、鬼の始祖である鬼舞辻無惨を出してしまった血筋である。その因果から自分の血筋にけじめをつけるために鬼舞辻を倒そうとすることが当初の目的であったが、鬼に苦しむ人達を助け、鬼によって家族を失った子ども達を引き取り、育成するネットワークを築いていった。胡蝶しのぶの蝶屋敷も女性シェルターのような役割を担っており、これも他者貢献のひとつである。
炭治郎の有名なセリフの一つに、元十二鬼月の響凱と戦ったときのものがある。
頑張れ 炭治郎 頑張れ!! 俺は今までよくやってきた!! 俺はできる奴だ!! そして今日も!! これからも!! 折れていても!! 俺が挫けることは絶対に無い!!(3巻 第24話「元十二鬼月」より)
これは、満身創痍であってもここでは絶対に負けないために、自分で自分を鼓舞しているものである。非常に自己効力感(自分の能力を信じる力)が高いことを表わしており、心の強さを示すレジリエンス(再起力・回復力)も高い状態である。この戦いの始まりは、ある兄妹の兄が鬼にさらわれたことにあり、この鬼を倒さなければ自分も子どもたちも命が危ない。彼等を助けるために、今負けることができないという援助行為から発している。
多くの共感を呼ぶ杏寿郎のセリフにも、「誰かのために」行動を起こしている姿が見られる。
俺は俺の責務を全うする!! ここにいる者は誰も死なせない!!(8巻 第64話「上弦の力・柱の力」より)
胸を張って生きろ 己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと 心を燃やせ 歯を喰いしばって前を向け 君が足を止めて蹲っても時間の流れは止まってくれない 共に寄り添って悲しんではくれない(8巻 第66話「黎明に散る」より)
炭治郎のように“強い自分”になるには
他者の命を守ることが自分のするべきことであり、炭治郎を励ます言葉も心を守るために発せられている。杏寿郎の最期は、上弦の鬼・猗窩座との戦いであったが、鬼の誘惑に一切乗ることはなく、「鬼を倒す・人を助ける」の姿勢そのものであった。
誰もが炭治郎や杏寿郎の「強さ」を感じたであろう。その強さは剣技や力のことだけではなく、根本的な心の強さを受け取っていたと考えられる。その心の強さの源は、「誰かのために」という思いの強さなのである。
現実社会の中で、命を懸ける事柄はそうそう起きるものではないが、「誰かのために」という思いを持って行動することはできる。当初の善逸のように、自分のことだけを考えていたときにはヘタレ状態であったが、じいちゃん(育手)がかけてくれた思いを無駄にしないために、禰豆子を守るためにと行動したときには、大きな力を発揮することができる。
自分の身近な人達に喜んでもらえるように、役立つようにと行動していく先に、炭治郎たちのような心の“強い自分”に近づけるのではないだろうか。「鬼滅の刃」は、“強い自分”になるためのヒントをたくさん与えてくれているのだ。
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