駐韓公使「自慰発言」は渡りに船?「訪日見送り」命拾いの文在寅
「いわくつき」テレビ局の報道に便乗- 韓国・文在寅大統領の訪日見送りを重村智計氏が独自の視点で解説
- 原因となった相馬公使の発言を報じたのは「いわくつき」テレビ局
- 文大統領は首脳会談で成果を見込めず、相馬発言に便乗した格好
韓国の文在寅大統領は、東京五輪の機会に訪日しないことを決めた。その理由として、文大統領は、駐韓日本大使館公使が文政権の対日外交を「マスターベーション(自慰行為)」と失言したことを問題視した。これにより、文氏は日本公使の「セクハラ発言」で「勝利」を演出、外交危機を回避する口実として巧みに利用したことになる。日本政府は、はらわたが煮え繰り返る思いだ。

問題の始まりは、7月15日だった。日本大使館のナンバー2・相馬弘尚公使が、ケーブルテレビJTBCの女性記者との昼食懇談に応じた。この際の公使の発言を、翌16日夜にJTBCテレビが「日本公使が性的表現で文在寅大統領を非難した」と報じた。
相星孝一駐韓日本大使は、翌17日早朝に「在大韓民国特命全権大使の報道資料」を韓国メディアに配布し「相馬公使の発言は懇談中のものだとしても、外交官として極めて不適切で、非常に遺憾で厳重注意した」と述べた。
だが、韓国の報道と大使館の説明には、明らかにされていない真実がある。
「いわくつき」テレビ局の女性記者が相手
まず、JTBCは普通のテレビ局ではないというのが、日本のソウル特派員の常識だ。かつて、李明博政権を「狂牛病報道」で弱体化させ、朴槿惠大統領追い落としのスキャンダルをスクープした。報道された側は後に「誤報」や「事実を捏造」などと批判したが、手遅れだった。
そうした「いわくつき」のテレビ局だと知りながら、相馬公使が女性記者の昼食の誘いに応じ「マスターベーション」との言葉を使ったのは、あまりに軽率だ。文大統領の「対日外交」を「独りよがりの自己満足外交」と表現したつもりだろうが、明らかに表現力不足だ。
仮に外交問題にならなくとも「セクハラ」で訴えられる。現代の韓国社会と女性パワーへの理解がなっていない。この女性記者は日本語も使えるといわれ、以前から接触があったという。

相馬公使は、韓国語を上手に話すキャリア外交官で、韓国記者からの評価も高かった。そこに油断と慣れがあったのではないか。韓国語で懇談に応じたのだろうが、日本語で対応しないと言葉のニュアンスの違いを攻撃される。
韓国の取材記者は、たとえ「オフレコで」と言っても書いてしまうのが常識だ。日本の記者とは比較にならないほどに社会的地位は高く、官僚や外交官は書かれたら終わりだ。
JTBCの報道では、公使が一応は発言を取り消した事実を「取り消し」でなく「謝罪」との表現で誤魔化した。また、報道からは発言を録音していたことも明らかだ。日本大使館も、公使がこの表現を使った事実を認めているが、録音の事実を突きつけられてのことだろう。公使が懇談中にJTBCの記者が録音している可能性を考慮しなかったことも、非常識だ。
韓国メディアは、日本大使館の対応に納得せず、政府系のハンギョレ新聞は批判の社説を掲げ、テレビ局は大々的に報じた。他の主要新聞の扱いは比較的冷静だったが、影響力はテレビにかなわない。
追い込まれた文大統領が日本に責任転嫁
では文大統領は、この公使発言をどう「利用」したのだろうか。
公使個人の発言が、日本政府の対応として受け止められる報道が広がったことで、「日本けしからん」の感情が広がった。文大統領はこの感情を利用し、「日本の無礼な発言で訪日できなくなった」との空気を作り、責任を日本に転嫁したのである。
JTBCの報道によると相馬公使は、「日本政府は韓国が思っているほど両国関係に気を使う余裕がない」と述べたうえで問題の表現を続けたという。さらに「文大統領の訪日に丁寧に応じる」との菅首相の発言についても「外交的表現に過ぎない」と説明したのに、JTBCは「韓国政府を刺激する発言を続けた」と悪意ある姿勢に徹した。報道は韓国政府を刺激するものであり、世論に対しても「文大統領は日本が無礼だから訪日をやめた」との印象を強める報道だ。
文大統領は、バイデン政権から「日韓関係改善」を求められ、野党の大統領選出馬候補からは「日韓関係を悪化させた」と激しく批判されていた。この追い詰められた状況を改善するために、大統領は東京五輪を口実に訪日する予定だった。ただ、「訪日して首脳会談」しただけではなく、何らかの成果が必要だった。そこで韓国側は半導体材料についての輸出緩和を求めていたが、日本政府は応じなかったため、困っていたという前提がある。そこに相馬公使の「セクハラ発言」があり、これにうまく乗じた、というわけだ。

後手に回った日本大使館の危機管理
JTBCの報道姿勢と、日本大使館の危機管理にも問題があった。JTBCは、報道まで一日置いている。相馬公使に発言を確認し、コメントを求めると同時に、この事実を大統領府に連絡し、どう報道すべきか大統領府と相談したはずだ。JTBCは、周りを固めた上で報道したのである。
それに対し、日本大使館の対応は危機管理のイロハを理解していなかった。報道対応のリスク管理は、落第点だ。
JTBCは16日に相馬公使に再取材しているから、この時点で報道されると理解しなければならない。JTBCに「トクダネ報道」をさせないためには、この日に記者会見するか文書で懇談の一問一答を公開し、「バックグラウンド説明の懇談で公式の発言でなかった。オフレコの約束もあったが、取り消し謝罪する」と先手を打って説明すべきだった。
取材記者からすれば、後追い取材でなく誰もが知っている事実なら、大きな報道にはならない。16日に対応すべきだったところ、報道後の17日に対応しているようでは時すでに遅し、だ。
韓国社会には日本への悪意が存在
さらに日本側の対応には問題があった。韓国外交部に呼び出された相星大使は「懇談中の発言とはいえ、外交官として極めて不適切であり、大変遺憾だ。厳重に注意した」と述べた。だが、日本語で「遺憾に思う」と述べていれば韓国語では「謝罪する」の意味になったところ、日本語で「遺憾である」と表現したために、韓国語でも「残念である」との意味にしかならなかった。こうしたニュアンスをうまく利用できなかった語学力がさらに災いした。
韓国語に堪能な相馬公使も、韓国人記者を信頼し善意で本音を話したのだろうが、悪意を持って受け取られた。日本を背負う外交官としては、韓国には日本人への悪意が存在する社会であるとの理解が弱かったと言うしかない。
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