増加するRSウイルス感染 〜 小児には新型コロナよりも脅威?

有効な対策は?治療法は?
医学博士、医療ジャーナリスト
  • 子どもたちの間でRSウイルス感染症が急増中。新型コロナの影響も取り沙汰
  • 小児にはRSと新型コロナ、どちらが脅威か。各国の研究研究で見えてきたこと
  • 対策や治療法の現状は?言葉が発達途上の幼児の重症化サインに注意を

最近、子どもたちの間でのRSウイルス感染症の増加が問題になっており、先日、筆者の子どもが通う保育園でも、玄関ドアのところに注意喚起を促す貼り紙が掲示された。2020年は、新型コロナウイルス感染症対策に伴った感染対策の影響か、大人の間でも風邪やインフルエンザに罹る人は減った。

では、RSウイルスに関しては、新型コロナウイルスの流行に伴い、何か変化を受けたのか、また、今回の流行は何が原因なのかを、医師である筆者がいくつかの文献をもとに考えてみたい。

isayildiz/iStock

RSウイルスとは?

RSウイルスは、正確にはrespiratory syncytial virus という名前で、呼吸器感染症を引き起こすことが知られている。生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の乳児が感染すると言われており、何度でも感染を繰り返す。特に、生後数か月の時期においては、重症化しやすいことが知られている。症状は、潜伏期間は2〜8日で、鼻水や発熱などの風邪症状で発症し、風邪症状のみで治る例もあるが、2〜30%は、気管支や肺に炎症が起き、重症化することがあるとされる。ほかに、重症化しやすい要素としては、はじめての感染の場合や、低出生体重児・心臓や肺に基礎疾患がある場合・免疫不全の場合などがある(1)

小児には、新型コロナより脅威か

RSウイルスは、年齢にかかわらず感染するが、重症化するのは小児が多い。現在、新型コロナウイルスによるパンデミックで、行政や医療は様々な対応を迫られているが、小児においては、RSウイルスと新型コロナウイルス、いずれが脅威となりうるのだろうか。新型コロナウイルスは、高齢者で重症化しやすく、小児は無症状が多いといわれている。

2020年冬の、両者の致死率を複数の国で比較した研究によると、5歳以下の小児においては、新型コロナウイルスよりもRSウイルスのほうが致死率が高く(2)、他の研究でも新生児期にRSウイルスのほうがより重症化しやすい可能性が示唆されている(3)

なぜ今年流行しているのか

2020年と、2021年のRSウイルスの流行状況を図に示したが(資料1)、2020年は、3月くらいからRSウイルスの件数が顕著に減少しているのがわかる。

これは日本だけの傾向ではなく、オーストラリア、ニュージーランド、フィンランドなどの諸外国においても、同様の期間に、RSウイルスやインフルエンザウイルスなどの、新型コロナウイルス以外の呼吸器ウイルス感染症は著明に減少し、9割以上の減少がみられたという報告もある(4,5,6)。新型コロナウイルスの流行にともなった休校や都市のロックダウン、ソーシャルディスタンス、手指消毒、マスクなどの感染対策によって、インフルエンザウイルスやRSウイルスにおいても、感染の減少が見られた可能性があるほか、ウイルス干渉(他のウイルスが先に感染していると、感染しにくくなる)の可能性も指摘されていた。

RSウイルスに関しては、昨年の感染減少に伴って、抗体を持っていない子どもたちが増え(7)、その中の誰かが感染して保育園などに持ち込むことにより、ここにきて急激な感染増加が起こっているというのが大方の見方だ。

コロナ前からRSは夏期にシフト

夏に呼吸器感染症が広がっていることを不思議に思う人は多いかもしれない。インフルエンザなどの呼吸器感染症が流行するのは冬であることが多い。かつて、RSウイルスも冬の流行が一般的であったが、2016年頃から、徐々に夏から秋にかけての流行にシフトしており、2019年になると7月頃から流行がみられるようになっている(添付資料2)。季節的なシフトの原因は、温暖化などの気候変動の影響、海外からの旅行者数の増加といった人の移動の活発化などが挙げられているが、まだ定かではない(8)

気をつけたい重症化のサイン

RSウイルスには、迅速診断キットがあり、鼻に綿棒を入れてこすり、鼻の中の液体を採取してその場で診断することが可能だ。ただし、これは全ての人に行うわけではなく、重篤になりやすい人、つまり、月齢の低い乳児や基礎疾患のある児などに主に行われる。この検査の感度(RSウイルスの感染者が陽性と出る確率)はPCR法を基準とすると9割を超え、特異度(感染していない人が陰性に出る確率)は100%近いとされるが(9)、検査をする人の技術などによっては低くなることもある。

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RSウイルスには、有効なワクチンや治療薬はまだない。低出生体重児、2歳以下の肺や心臓に疾患のある乳幼児、2歳以下の免疫不全のある乳幼児、2歳以下のダウン症児などは、重症化を予防する注射薬を、流行期間中に投与する方法がとられる。ハイリスクではない通常の乳幼児には、予防注射は行われない。RSウイルスも、新型コロナウイルスと同様、飛沫感染と接触感染がおもな感染経路であり、手洗いや手指消毒、マスクが感染予防の手段となるので、小さい子を持つ親は特に、感染対策を怠らないようにしたい。

また、小さな子どもは自分の症状を言葉で伝えるのは得意ではないので、重症化のサインを見逃さないことが必要だ。具体的には、咳がひどくなったり、ゼーゼー・ヒューヒューと行った喘鳴が聞こえる、呼吸困難になり唇が青くなるなどの症状だが(10)、そういったものが見られたら、入院治療が必要なケースもあるので、自宅で様子を見ずに、小児科や、場合によっては救急外来を受診するようにしたい。

【参考文献】

  1. https://www.niid.go.jp/niid/ja/rs-viruせs-m/rs-virus-idwrc/3972-idwrc-1336-01.html
  2. Wei JS et al. “ How lethal is SARS-CoV-2 pneumonia when compared with respiratory syncytial virus and influenza in young children?” Aust J Gen Pract. 2020;49(10):683-686.
  3. Ozdemir SA et al.” Is respiratory syncytial virus infection more dangerous than COVID 19 in the neonatal period?” J Matern Fetal Neonatal Med. 2020 ;1-6.
  4. Yeoh DK et al. “ The impact of COVID-19 public health measures on detections of influenza and respiratory syncytial virus in children during the 2020 Australian winter.” Clin Infect Dis. 2020 Sep 28 : ciaa1475.
  5. Trenholme A et al. “COVID-19 and Infant Hospitalizations for Seasonal Respiratory Virus Infections, New Zealand, 2020.” Emerg Infect Dis. 2021 Feb;27(2):641-643.
  6. Kuitunen I et al. “ Effect of Social Distancing Due to the COVID-19 Pandemic on the Incidence of Viral Respiratory Tract Infections in Children in Finland During Early 2020.” Pediatr Infect Dis J. 2020;39(12):e423-e427.
  7. https://emergency.cdc.gov/han/2021/han00443.asp
  8. Wagatsuma K et al. “Shifts in the epidemic season of human respiratory syncytial virus associated with inbound overseas travelers and meteorological conditions in Japan, 2014–2017: An ecological study.” PLoS One. 2021;16(3):e0248932.
  9. 大澤ら 小児感染免疫28(4)、2016年
  10. https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/rs_qa.html

【おしらせ】 松村むつみさんも監修に参加した『超リテラシー大全』(サンクチュアリー出版)がこのほど発売されました。

 
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