オリンピック開会式の「思わぬ」成功 〜 国際政治の視点から
時代の集合意識がつくる「ありのままの世界」- 渡瀬裕哉氏が、国際政治の視点からオリンピック開会式の演出を振り返る
- パンデミック、各国の入場行進、イマジンが一連の流れでの構成に興味
- 開会式の演出を通じて見えてきた、いまの世界と日本が存在する「現在地」
東京オリンピックが1年延期を経て開催に至ったことは素直に賛辞を贈りたい。そして、菅総理を始めとした政府関係者の交渉、緊急事態宣言下での東京都民や医療従事者の方々の我慢・努力は歴史的評価に値する。
そして、オリンピックの開会式の演出をデザインした人物は「天然」の才覚を持った逸材だと思う。なぜなら、無味乾燥かつ地味な演出にも関わらず、世界の現状をシニカルにイデオロギーとして表現し尽くしたものになっていたからだ。ほとんど何の脈絡もない開会式の演目が相互に繋がることによって、無意識のうちに現代社会が有する時代性を表す一つの「作品」が完成していたと言えるだろう。
驚いた「無頓着」な演出
一例を挙げよう。開会式の構成として興味深かった点は、パンデミック、各国の入場行進、イマジンが一連の流れの中で構成されていたことだ。
たしかに、パンデミックはアスリートの方々に苦難と孤独を与えたことは間違いなく、それらを乗り越えてオリンピックが開催されたことは称賛に値する。そして、オリンピックは各国代表がスポーツで平和的に鎬を削るナショナリズムの祭典であることも当然だ。各国代表が各々の国家を代表して入場するシーンなど、まさに国威発揚のシンボリックなシーンだ。今回の東京オリンピックにおいても、いずれの国民にとっても各国アスリートがこの名誉ある日に参列したことは誇らしいことだと言える。
しかし、パンデミックは同時に国境を超える人の動きを鈍化させて、各国の偏狭なナショナリズムを再び喚起する結果を生み出したことは周知の事実だ。パンデミックによる災厄に関する暗い色彩の演出後、各国のナショナリズムを体現する構成を無頓着に並べる演出感性にはいささか驚かされた。
また、その後の演出として「イマジン」の動画が唐突に流れたことも合わせてみると更に興味深い。おそらく演出担当者は「イマジン」は作詞などでオノ・ヨーコさんが関わったとされることで、日本人も関わった国境を否定する平和の曲として採用したのだろう。ただし、映し出された動画には歌い手は五大陸を代表するとしながら白人・アフリカ系しか登場せず、世界の多様な人種は置いてけぼりとなったポリコレの上滑り感は半端ではない。米中対立のような大きな文脈だけでなく、宗教や民族紛争などを抱える国々の苦難などを無視した、欧米の建前の押し付けぶりを見事に表現できていたように思う。(子どもたちの合唱団は深夜にも関わらず頑張ったと思う。)
開会式で「成功」したことは?
各国の入場行進中に流れたドラクエやロマサガなどの楽曲は、筆者も幼い日々の記憶が蘇る素晴らしいものだった。自分も一人のゲームファンとして嬉しい。しかし、日本のゲームが世界中で人気があること自体は喜ばしいことだとしても、ゲームの楽曲を日本のハイコンテクストな文化の産物と言い切るのは難しいだろう。むしろ、ゲーム楽曲の位置づけは各国の文化的な誇りを侵害しないローコンテクストな面での文化浸透と見做すべきだろう。したがって、ゲームの楽曲を背景として各国代表に入場行進をさせたことは、商業主義的な面を超えた根源的な面での文化的多様性の包摂の困難さを暗に示した深さがあったように思う。(一方、日本の伝統文化などの日本独特の「らしさ」は、欧米かぶれの演出で徹底的に骨抜きされていたことにも注目したい。)
このほかにも演出内容や登壇人選の謎など一事が万事、興味深い演出ばかりの開会式であったが、東京オリンピックの開会式におけるイデオロギーの混合と流転がもたらしたカオス感は1人の演出家がワザと狙って実現できるレベルを超えている。まさに、演出家も含めた時代の集合意識が作り出したアートであり、いまの世界と日本が存在する時代の「現在地」を示すものだった。
今回の東京オリンピックでは演出担当者らが開会式直前に過去の言動を巡るスキャンダルなどで辞任する事態が発生した。その事自体は組織委員会の危機管理上の問題はあったと思うが、あえて政治思想や人権問題などに対する識見が甘い人々を選ぶことによって、むしろ知性で取り繕われていない「ありのままの世界を表現することに成功した」と言えるかもしれない。
念のため、断っておくが、開会式の現場で頑張られた皆様やアスリートの皆様には他意は一切ない。世界のアスリートの皆様が本大会でより良いパフォーマンスを上げ、多くの日本選手がメダルを手にすることを願う。
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