田中角栄からの卒業 #3 電波制度で残した遺産と病巣

先見性と利権性が相半ば
2021年05月03日 06:00
SAKISIRU編集長

田中角栄の「遺産」は、連載#2で述べたような、道路などの土建インフラだけではない。郵政大臣としてテレビ草創期に政治的らつ腕をふるい、現在につながる電波制度の基礎を作り上げた。

連載#1 の生い立ちでは割愛したが、電波に関する「角栄伝説」としてメディア関係者の間で語り継がれているのが、テレビ局の「一本化調整」だ。

角栄の郵政相時代に電波塔として建設が進んだ東京タワー(出典:写真AC/内閣広報室の写真アレンジ)

荒技伝説「一本化調整」

日本では1953年(昭和28年)にテレビ放送が開始。最初期はテレビが高嶺の花で保有世帯は少数だったが、開設が認められた民放局の数も郵政省が審査を厳しくしたため、6年で6社しかなかった。

しかし昭和30年代になると、テレビが加速度的に普及するとともに、全国各地での開設申請が急増した。捌ききれなくなった中で、1957年、39歳(当時戦後最年少の入閣)で郵政大臣に就任した角栄は、「1日100件」ともいわれる膨大な陳情を即決で捌いてきた手腕を発揮。その頃の地方は「1県に1局」が主流だったが、各県の申請者を集めて出資比率や役員構成も含めて申し渡した上で、申請社を一本化。わずか数日で30超の免許を一斉に交付した。

角栄の調整力により、申請者はテレビ事業に応分に参画できたわけだが、反面、ローカル局の資本構造は複雑化。今日もテレビ局の統合や再編が進まない要因とされる。

また、何よりも「一本化」という荒技は、郵政省の審査にすらかけない密室で物事を決めていくやり方でもある。結果として電波行政の裁量性を極大化し、不透明性や、放送業界への政治的影響力を強く残す「禍根」を残した。

経産省OBで、規制改革を専門としてきた政策コンサルタントの原英史は「旧郵政省は政策系の仕事は弱いが、とにかく政治力が他の省庁よりも強かったのが特徴的。90年代から情報通信政策の改革論議で事あるごとに(改革派と)ぶつかったが、政治力で潰してきた」と指摘する。

霞が関でもっとも閉鎖的かつ独善的な体質を突き詰めた結果が「電波オークション」への根強い抵抗だ。同オークションは審査プロセスが透明化され、海外では数千億円規模が国に入る電波改革の象徴。昨年のノーベル経済学賞は、電波オークションの発展に寄与した2人の研究者に送られ、いまやOECD35か国中34か国で実施した趨勢がある中で、唯一実施したことがないのは日本というのは、ネット民にはおなじみだが、テレビ、新聞はほとんど報じない。

報道がなければ国民の関心は高まらないが、これも角栄が郵政族のドンとして君臨した70年代、新聞社がテレビ局の経営に参画する「クロスオーナーシップ」が進められ、言論の画一化が進んだ結実かもしれない。

はむぱん/写真AC

電波オークションに見る「病巣」

電波オークションは、道路公団や郵政を民営化した小泉政権でもこの問題は進まなかった。民主党政権当時に閣議決定まで進んだが、安倍政権になり白紙に。その安倍政権の後期に機運がみられた時期もあったが、結局は見送られた。放送行政に詳しい菅義偉が首相になった時、推進派は多少の前進を期待したが、今年2月、東北新社社員の首相の長男が総務省幹部を何度も高額接待をしていたことが週刊文春報道で判明して逆回転した感がある。

同社は、8つの衛星放送を運営。許認可に影響するやりとりがあったのではないかと疑念を呼んだ。東北新社は、放送法の外資の出資比率規制違反で子会社の免許を取り消され、総務省も幹部が更迭された。官民ともコンプライアンスが厳しくなっているご時世に、昭和期を思わせる「接待劇」が行われていたこと自体、角栄の遺産がいまなお根強く、その歪さとともに露見した格好だ。

同時にそうした郵政省時代からの「病巣」は、省庁再編で自治省と統合し、総務省になっても健在だったともいえる。構造的な背景について、前出の原はこう見ている。

総務省としては規模は大きくなったが、自治省と融合するでもなく、放送行政は狭い世界のまま。担当するテレコム3局(電気通信、放送行政、通信政策の3局)で人事が行き来し、再就職リストを見ても関連業界に行っている。しかも象徴再編後に郵政民営化で旧郵政省のうち、通信と放送の部分が純度がより高く残ってしまった」。

つまり、角栄が戦後基盤を整えた放送行政は、霞が関の中で専門性と政治性を強く帯びた「異能的存在」のまま、平成で温存。令和に入ってもなお時代遅れの体質であり続け、メスが入る目処はない。

さて、ここまで書くと、角栄が放送行政や電波制度で負の遺産を残したようにばかり受け取られそうだが、先見性も指摘しておきたい。(敬称略:『#4  インターネット時代を「予見」』に続く)

(#3 参考文献)

  • 村上聖一『放送局免許をめぐる一本化調整とその帰結』(NHK『放送研究と調査』2012年12月)
  • 原英史『岩盤規制』(新潮新書)
  • 池田信夫『新・電波利権ver.2』(アゴラブックス)

 

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