入試改革挫折:英語民間試験を拒絶した「ガラパゴス病」の本質
だから日本が“オワコン”になる- 文科省の有識者会議で、大学入試共通への英語民間試験と記述式導入が正式に見送り
- 英語コミュニケーション能力獲得に劇的変化をもたらす改革策が提示されず
- 英語民間試験問題の是非は偏ったファクトで議論。「ガラパゴス病」を克服できず
東京オリンピックが紆余曲折を経て開幕しました。国会議員時代に超党派で招致をめざした議連の事務局長を務め、国立競技場の建て替えに際しては明治神宮などの関係者の調整に奔走しました。そうした思い出に耽りたいところですが、現実はといえばコロナ禍での大会開催を巡る国民の意見が割れる中で本番を迎えてしまい、忸怩たるものがあります。
感染防止で無観客となり、日本の子どもたちや若い人たちが世界の一流アスリートのプレーをその目でみられず、各国選手も「バブル方式」の管理下に置かれ、観戦のために訪日する観光客もいなくなるなど、招致時に期待された国際的交流が大きく制約されてしまいました。これが今回、私としてはもっとも残念なことです。
20年停滞した英語教育
いまの10代は21世紀後半にかけ、加速する人口減少とグローバル化、デジタル化の荒波を泳ぎきっていかねばなりません。しかし日本国内で普段生活しているとなかなか「世界」を意識しづらい。だからこそ、オリンピックという機会を彼らのために生かし、外国人や異文化に直接触れることで世界への興味、関心を自然と高め、グローバル社会の中で自分自身がどう身を立てていくか考える、大きなきっかけにしてもらいたかったのです。
繰り返しますが、平成、令和生まれの世代は「ガラパゴス日本」に閉じこもることは許されなません。ところが現実はどうでしょうか。英語力でいえば、2006年にセンター試験にヒアリングが導入され、英語教育に実用性が90年代以前よりは意識されるようになってきたものの、高校生や大学生の英語コミュニケーション能力が格段に向上したわけではありません。
実際、この20年間、高校の学習指導要領に明記され続けながら改善できませんでした。教育振興基本計画で中学校卒業段階で英検3級、高校卒業段階で準2級がそれぞれ50%と目標が掲げられても、高校で達成したのは47都道府県のうち、わずか4県のみにとどまりました。これでは社会人になっても語学力があがらないわけで、TOEICの平均点は相変わらず韓国や中国の後塵を拝したままです。
どうすれば日本の若者たちの語学力を底上げできるか。私が国会議員時代の12年間、研究を重ね、近年は文科大臣補佐官として実行してきたのは、現行の教育システムで実効性をもたせるには大学受験の仕組みを変えることでした。受験勉強というインセンティブがあれば、高校以下、塾産業も含めて一気呵成に変革へ適応しようとする構造があるからです。マークシート方式から記述式導入による思考力強化とともに、大学入試改革を試みましたが、道半ばで頓挫したことは周知のとおりです。
本来議論されるべき課題は?
そしてオリンピック開幕の3週間前、文科省の大学入試に関する有識者会議で、大学入試共通への英語民間試験と記述式の導入が正式に見送られました。導入が困難なことは既に自明のことでしたので、英語に関して言えば、むしろ内なるグローバル化や国境を超えたテレワーク増加でますます重要性が高まっている「英語コミュニケーション力」の向上させるためにどうすべきかをしっかり話し合うべきだったのではないでしょうか。日本の高校生の英語学習があと10年このままでいいのか。だから日本はオワコンになってしまっているのではないでしょうか。結局、英語コミュニケーション能力獲得に劇的な変化をもたらす学校教育改革策が何ら提示されませんでした。
公教育に期待することが望めないことが確定してしまった今、自力で我が子に語学力向上のための対策を打つには「自助努力」が増すばかりです。経済力のある家庭とそれ以外の家庭の格差、あるいは都市部と地方との格差や、デジタルデバイドによる格差が顕在化してしまいますが、そうした格差拡大に対する対策の議論は、有識者や学校関係者の間でなされてきたのでしょうか?
英語民間試験の導入の是非はメディアも含めて、部分的なファクトで論じられがちでした。
共通テストでの受験会場の方が、民間試験会場より、かなり少ないことは何故問題にならないのでしょうか?
経済困窮家庭の子女向けに検定料の引き下げが決定されていたのに、そのことを何故隠蔽するのでしょうか?
インフルエンザが一番流行りやすい1月の寒い時期に、年1回しかテストをおこなわず、そのときにたまたま風邪をひいてしまい本当は実力ある受験生が一年棒にふる不条理には目をつぶり、放置し続けるのでしょうか?
世界中のほとんどの大学が長年導入し品質が保証され、東大でも大学院入試では使い、ほとんどの大学のAO入試でも選考の材料に使われているTOFEL及びそのローカライズしたものを使えないのか?
本来問われるべき論点について、有識者会議は説明すべきだったのではないでしょうか。誤解や曲解に基づく批判が非難となり、世論を形成する「ガラパゴス病」を克服できないまま、現状維持へと力学が進んでいきました。
英語力向上へ本質的な解決策を
なお、これらの課題についても処方箋は存在しています。経済格差の問題は、すでに低所得者向け低料金が設定されることは決まっていました。それでも不足しているのならば、低所得者層に対して検定料に対する補助金を出せばいい話です。会場問題も、共通テストの会場よりはそもそも多い予定でしたし、もっと増やしたいならば高校や中学校や小学校の施設を使う手もありました。試験監督自体は、要件が難しくないので日当さえ出せば集まったことでしょう。
大学共通テストは2025年からなので、まだ時間はあります。技術的にもオンラインでの実施もほぼ完全に可能になりますし、その頃は本人確認が進み、試験も統計理論を生かしたIRT(項目反応理論)を導入することで試験日や難易度が異なっても学力を測れるようになってますから、毎日、PC上で試験を実施することができます。
ここまでの改革策の挫折のウラには、試験のDXによりこれまでの多くの課題を解決して、若者の英語コミュニケーション能力向上できる選択肢があるのに、それを犠牲にしてでも阻止したい人がいるということでしょう。改革に反対するなら、若者の英語コミュニケーション能力向上機会の代案も示すべきですが、寡聞にして存じません。
ただ、打開策がないわけではありません。前回の拙稿で早稲田大学政治経済学部が入試の数学必修化を評価しましたが、文科省としては個別の大学の努力を促すため、補助金制度を活用する。これにより英語4技能を向上させ、記述式問題の導入を増やしていくことは可能です。本来なら国として統一的、戦略的に進めた方が学力の底上げに効果的なわけですが、いまの状況ではこれしか打ち手はありません。「世論」におもねることなく、建設的な議論がなされるか、当面は見守っていただければと思います。
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