田中角栄からの卒業 #4 インターネット時代を「予見」

後世がアップデートできず…
2021年05月04日 06:00
SAKISIRU編集長

先駆的な未来予想

田中角栄からの卒業

#3の話だけだと、角栄が放送行政や電波制度で負の遺産を残したようにばかり受け取られそうだが、先見性も指摘しておかねばフェアではない。大ベストセラーになった角栄の代表作『日本列島改造論』を読むと、「情報列島の再編成」(P158)というくだりがある。

大都市と地方の格差を埋めるためには、全国各地域を結ぶ情報ネットワークを先行的に整備しなければならない。

との書き出しで始まる中で、コンピューターによる情報処理化が到来する事を意識し、「データ通信と有線テレビが組合わされて新しい情報のシステムが生まれる」などと予見。その具体例として、

通産省で開発しようとしている映像情報システムでは、将来一台のテレビ受像機で無線テレビも有線テレビも楽しみ、さらにテレビ受信機に組み込まれた鍵盤を操作すると、情報センターやデータバンクにつながって「日本の国土面積はどれくらいか」「IMF(国際通貨基金)とはどういう機関か」といった知識を求めることができる。

とも言う。まさに「インターネット」だ。アメリカの大学でインターネットの原型が誕生したのは出版の3年前。日本にウインドウズ95が上陸してネット時代が到来するのはこの23年後だ(ちなみに角栄死去は21年後)。

小長啓一
角栄の手腕を振り返る小長(撮影:西谷格)

いくら先見の明があったとはいえ、大正生まれの当時54歳の角栄がそこまで情報通信の未来を見通せるものなのか。政治家の本はゴーストライターが下書きしたものが中心となるケースが少なくない。

しかし、同書の編纂に参加した小長啓一首相秘書官(当時)によると、角栄は1日8時間のレクチャーを4日連続で実施。その内容を、小長が骨組みを作り、のちに作家になる堺屋太一ら通産官僚、版元の日刊工業新聞社記者らが肉付けして執筆したもので、「普通のゴーストライターとは違った」と証言する。

しかも、この角栄の“ネット構想”について小長は「インターネット(社会の到来)を予見するところまでは当時の通産省も考えてなかった」と、構想の大きさを指摘する。

「オンライン診療」も!しかし後世は…

角栄の“ネット構想”はこれだけではない。地方を豊かにするためと情報システム構築の意義を壮大に語り、都市部に集中していた情報の分散で企業も人も地方に分散できると主張。その具体的な効果で熱を入れるのは次の二つだ。

人格教育は別としても専門的な技術とか語学は、地方にいながらにして大都市と同じ水準の勉強ができる。

と、オンライン教育を語れば、さらには

医療情報システムができれば県庁所在地の医療センターに通信装置でデータを送り、すぐに診断し、処方箋を出すこともできる。

などと“オンライン診療”も未来予想もしている。コロナ禍のいまも先進国で学校のオンライン化がもっとも遅れ、医師会がなおもオンライン診療に後ろ向きというのはなんと皮肉なことか。日本社会が角栄のシステムに安住、あるいは既得権益化したまま停滞しているというのに、その角栄自身は我々より先を見据えていたのだ

metamorworks/iStock

「コンピューター付きブルドーザー」の異名で知られるだけに「角栄=土建」の印象がありがちだが、テレビをはじめ、情報通信社会の到来を先読みし、良くも悪くも強固な利権システムを作るだけの先見性があったのは疑いようがない。金権政治でけなすだけや、今太閤などと礼賛するだけでも角栄を正確に評価したことにならないし、日本の立て直しに生かせまい。

あまり注目されなかった「ルールメーカー」としての田中角栄だが、いまから約40年前にそのことに気づいた先人がメディア界に2人いる。ともに今でこそ日本人の多くが知るビッグネームだが、発掘当時は知る人ぞ知る存在だった。(敬称略、『#5「天才」を生んだのは偶然か必然か?』に続く)

 

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