Googleのpring買収、真の狙いは?インドの例から見えること

PayPayの覇権に仕掛ける異次元の競争?
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
  • Googleによるpring買収。PayPayが制覇しつつあるスマホ決済市場で勝算はあるか
  • インドではPaytmが先行したが、資金移動サービスUPIが急成長。Paytmも接続
  • UPIは加盟店の普及よりも銀行口座間の資金移動の円滑化。pringも?

スーパーやコンビニのレジでスマホを端末にかざしたり、スマホでコードを読み込んだりして支払をする光景をしばしば目にするようになり、スマホ決済市場が成長していることを肌で感じるようになったが、Googleのスマホ決済サービスのGoogle Payは、存在感があまり大きくない。Google Payは、単体で決済ができず、他社ブランドのクレジットカードや電子マネーと連携して支払いを行うしかなかったためだ。

そうした中で、7月13日、Googleは資金移動業者のpring(プリン)を買収することを発表し、遅ればせながらGoogle Payが自前でシェア争いに参加する態勢が整った。

シリコンバレーのGoogle本社(JHVEPhoto /iStock)

しかし、スマホ決済市場はQRコード決済各社がキャンペーン合戦を繰り広げた結果、すでに各社が相当数のユーザーと加盟店を確保しており、中でもPayPayは全国に拠点を設けて大量の人的資源を投入し、6月時点でユーザー数4000万人超、加盟店申込数328万カ所超を獲得して断トツのトップとなっている。

PayPayが市場の覇権を握ろうとしている状況の中で、Googleはこれからユーザーや加盟店獲得競争に参入して勝算があるのだろうか。今回の買収額は100億円以上とも言われているが、Googleはそれだけの投資をしてpringを使って何をしようとしているのだろうか。

Googleの狙いをインドに読む

市場関係者の間では様々な憶測や意見が飛び交っているが、私はこの疑問を解くカギはインドにあると思っている。

インドでは2010年に設立されたPaytm(ペイティーエム)が瞬く間に急成長して数年でインドのスマホ決済市場を牛耳る存在となった。Paytmは技術的にもビジネスモデル的にも中国のQRコード決済のAlipay(アリペイ)に倣って作られており、現在もAlipayを運営するAntFinancial社がPaytmの約30%の株を持っている。

インド国内で普及する「Paytm」(Naturecreator /iStock)

PaytmはAlipayと同じように、Paytmのウォレットにチャージしたお金はPaytmの加盟店や他のPaytmのウォレットに送金・支払いすることが期待されており、Paytmのウォレットから銀行口座への出金には手数料がかかるようになっている。つまり、Paytmのウォレットに銀行口座等から入ったお金はできるだけPaytm経済圏内で使ってもらうという、いわば囲い込み型のビジネスモデルが基本となっている。

一方、キャッシュレス化を推進するインド政府の後押しで、2016年にNPCI(National Payments Corporaion of India、インド決済公社)という機関がUPI(Unified Payments Interface、統合決済インターフェース)というスマホを使った資金移動サービスを始めた。UPIを使えば、スマホのウォレットがどの決済事業者のものであるかに関係なく、低コストでスムーズに銀行口座間の送金ができることが特長で、このサービスを使うために様々な決済事業者がUPIに接続して取引量を競い合っている。

このためUPIはインドのスマホ決済市場で急成長し、今年7月には月間の取引の処理が32億回を超えており、今ではPaytmさえUPI接続をしている。

今年5月時点のUPI接続事業者のシェアは、アメリカのウォルマート傘下のPhonePeが45.27%、Google Payが34.67%に対してPaytmは11.44%となっている。

資金移動サービスの利便性を宣伝するNPCIのインフォグラフィック(公式Twitterより)

pringのインフラ化が目的?

ところで今回Googleが買収したpringはこのインドのUPIによく似た点がある。pringは、銀行口座間の資金移動を低コストでスムーズに行うサービスを提供することを主目的としていて、加盟店を開拓してそこでの支払いにpringを使ってもらうことは二の次と考えているのだ。

pringを使えば銀行口座からpringのウォレットに手数料なしで即時入金ができ、個人間の送金には手数料はかからず、送金を受けた相手のウォレットから銀行口座への出金は原則手数料ゼロで、当日中ないし翌営業日には口座にお金が入る。7月13日付の日経新聞が今回の交渉関係者の発言として報道しているところによれば、グーグルは「幅広い事業者向けに展開するプリンの独自路線を評価した」そうだが、GoogleはpringをUPIのように、Google Payを含む様々な決済事業者がそれに接続して送金・支払に使うインフラのようにしたいのではなかろうか。

もちろん、pringはまだメガバンク3行を含む50行余りと提携している程度で、UPIのように260行を超える銀行が提携しているわけではない。今後Googleがpringの提携銀行をどれだけ速いペースで増やせられるか、Googleの広告宣伝力でpringの認知度をどれだけ向上させられるか、Googleがpringを使った斬新なサービスをどれだけ多く提供できるかなど、課題は多いが、Googleの資本力、知名度の高さと技術力をもってすれば、意外と簡単に課題をクリア―する可能性がある。そうなれば、pringがスマホ決済市場の重要なインフラとなるだけでなく、pringへ接続したGoogle Payもスマホ決済市場でのシェアを大きく伸ばすこととなるだろう。

Google Payのpring買収は、単純なシェア争いとは次元の違った、ビジネスモデルの競争を仕掛けるものだ。ライバルたちはGoogleの深謀遠慮を見抜いて、この挑戦に備えなければならない。

 
タグ: , ,
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)

関連記事

編集部おすすめ

ランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

人気コメント記事ランキング

  • 週間
  • 月間

過去の記事