格差、飲酒運転、路上寝…「酒税減免」が蝕む沖縄の経済と社会
沖縄の自立を阻む酒税軽減措置をめぐる攻防 #2- 前回の流れから沖縄特例の酒税軽減措置の効果を検証。酒造所は一定保護
- 泡盛は本格焼より出荷減少幅が大。優遇税制を前提とした保守的な経営が背景
- 軽減措置で、安価に酒を入手でき飲酒運転や路上寝にも。措置廃止を主張
目下、政府と沖縄県とのあいだで、沖縄特例の酒税軽減措置の延長をめぐってちょっとした攻防がつづいている。沖縄県や酒造業界は延長を望んでいるが、果たしてそれでいいのか。「酒」をめぐる沖縄の闇に斬り込む。

沖縄だけ特別「酒税軽減」
前回も述べたように、沖縄県には、1972年の本土復帰の際に設けられた、沖縄特例の酒税軽減措置(沖縄だけに特別に認められた酒税軽減措置)がある。その目的は県内酒造業を保護し、県民に安価な酒類を供給することだ。ビールについてはすでに言及したが、沖縄特産の焼酎である泡盛の場合、本則より35%軽減された税率65%が適用される。これにより、他県産の焼酎に比べ1升(1.8リットル)あたり189円分、小売値が安くなる計算である。ただし、県外に出荷される泡盛には適用されない。
目下泡盛業界は、政府に対してこの軽減措置を延長するよう強く求めている。7月30日には、酒造業界の代表が玉城デニー沖縄県知事を訪ね、2022年5月に期限を迎える酒税軽減措置の期限延長を要請した。酒造業界は、「将来の特例廃止はやむをえないが、来年から10年間、特例の期限を延長してもらえないか」という。
しかしながら、この措置の延長には問題が多い。その理由は2つある。この措置が、県内酒造所の経営改善には必ずしも役立っていないというのが1つ、もう1つは、この措置が、「飲酒に甘すぎる沖縄」あるいは「泥酔社会・沖縄」という負の特性の一因となっていると考えられるからである。
減税に効果なし
復帰時に46箇所あった酒造所のうち、これまでに廃業したのはわずか1箇所である。酒税軽減措置が酒造所の保護にある程度役立ってきた可能性はある。軽減措置の恩恵を受けられない、九州の酒造所数が年々漸減していることを思えば、この措置には一定の効果があったといえるかもしれない。
だが、泡盛業界は本当に守られているのだろうか。沖縄県酒造組合の報告書『令和2年 琉球泡盛の移出数量等の状況』によれば、泡盛業界が軽減措置の延長を求める最大の根拠は、「酒造所の経営の悪化」である。近年焼酎類の人気は徐々に落ちているが、泡盛は本格焼酎に比べると出荷数量の減少幅が大きい。2005年から昨年2020年まで16年間にわたり、泡盛の出荷数量は減少をつづけ、2020年の出荷数量は、ピークだった2004年の2万7,700キロリットルの約半分、1万3,800キロリットルまで落ちこんでいる。一方、泡盛以外の焼酎の出荷数量の下落幅は30〜40%減の範囲で踏みとどまっている。
もちろんその間、酒税軽減措置は適用されている。税制上優遇され、相対的に低価格なのに出荷数量が激減しているのだから、その原因は価格以外にある。常識的には、他の酒類に比べて魅力が劣るからこそ需要量が大幅に減ったと見るほかない。であれば、泡盛各社は、「魅力ある泡盛を開発する」「県外・海外に販路を拡大する」「泡盛以外の他の酒類製造に移行する」といった経営改善策を検討してもよさそうなものだが、大半の泡盛酒造所は、優遇税制を前提とした県内出荷中心の保守的な経営にこだわり、新機軸が打ち出せないままだ。今さら酒税軽減措置を継続しても、その効果はたかが知れているだろう。

酒造所間の驚くべき格差
新機軸が打ちだせないのは、酒造所の規模の問題でもある。現在45事業所ある泡盛酒造所のうち、30箇所は年間出荷数量100キロリットル以下の零細事業所である。家族やわずかな従業員の労働に支えられ、立地する地域の需要に応えるだけで手一杯だ。酒造組合は、「零細企業が大部分だから酒税軽減措置が今後も必要」との姿勢だが、零細事業所が軽減措置で得られる利得はそれほど多くない。
たとえば、年間出荷数量100キロリットル以下の下位30事業所の場合、1事業所あたりの酒税の平均軽減額は推計355万円である。家族経営の零細事業所であれば、それなりの金額だ。だが、軽減があっても下位30事業所の大半は赤字である。酒税軽減措置が赤字の一部を相殺しているとはいえるが、それだけではとても足りない。むしろ、酒税軽減への依存度が高い故に、商品の多様化や県外出荷の拡大などといった経営改善策に消極的になり、事業の成長は見込めなくなっている。
これに対して年間出荷量600キロリットル超の上位7事業所の場合、1事業所あたりの酒税の平均減免額は推計1億4,187万円にのぼる。上位事業所の多くは黒字経営であり、この場合は減免額が利潤を嵩上げする効果がある。「残波」ブランドの泡盛で知られ、泡盛大手3社の一角を占める比嘉酒造(読谷村)は、こうしたプロセスを経て蓄えた利潤約20億円を、親族からなる4人の役員の退職金および賞与として分配して大きな話題となった。
身内4人で20億円を山分け?
比嘉酒造は、2010年2月期までの4年間で、役員4人に役員給与計12億7千万円、創業者に退職金6億7千万円を支払い、それぞれ税務上の損金に算入して申告した。ところが、国税当局は、これらの賞与と退職金について、同業他社と比べて「高すぎる」と判断、総額19億4千万円のうち、約6億円分を「不相当に高額」として追徴課税を行った。比嘉酒造はこれを不服として訴訟を提起したが、一審、二審、最高裁とも、「役員4人に計12億7千万円は高すぎるが、創業者の退職慰労金6億7千万円は妥当」と判断して、追徴処分の一部を取り消している(2018年1月)。
判決はともかく、県民のあいだでは、「比嘉酒造は、酒税減免で得られた20億円近い利益を身内で山分けした」というイメージで語られている。さすがに「身内での山分け」という表現は不適切だが、酒税軽減措置が大手泡盛酒造所にもたらす利益に初めて光が当たったという意味で、注目すべき事件だった。
沖縄は飲酒運転パラダイス
沖縄特例の酒税軽減措置の廃止が望ましいもう一つの理由は、この制度が、飲酒に対して他地域よりはるかに寛容な沖縄社会の暗黒面の象徴だからである。
軽減措置によって潤うのは酒造所だけではない。一般県民にも恩恵がある。安価にビールや泡盛を入手できるため、沖縄県民1人当たりの酒類消費量は他県より多い。2018年度における沖縄県における1人当たりの酒類消費量を推計すると105.1リットル。これは同年度の東京都における酒類消費量107.8リットルに次いで多く、47都道府県中第2位である(3位は高知県の94.2リットル)。
しかし、酒類の消費量が多いことは歓迎すべきことではない。警察庁の資料によれば、2019年の人口千人当たりの飲酒運転検挙率は、沖縄県が1.532で断トツの1位だ(2位の茨城県は0.525)。検挙件数は2,226件と全国の総検挙数2万5,434件の1割に達する。遵法意識が欠落しているというより、人命を軽視しているといわざるをえない。さらに、未成年による飲酒運転の摘発件数も全国でいちばん多いという。
「路上寝」沖縄社会の闇
また、泥酔して路上で寝る、いわゆる「路上寝」が沖縄では社会問題になっている。沖縄県警によれば、「路上寝」の通報は、統計を取り始めた2008年以降、2016年が最多で7,159件だったという。2017年は前年比143件減となったものの、それでも通報は7,016件にのぼり(1日平均19件)、3名が死亡し、12名が重軽傷を負っている。2018年も1月から6月までの上半期で3,015件と前年同期比187件増で(2名死亡)推移した。著者の知るかぎり、2018年下半期以降、警察による路上寝データは公表されていないが、「路上寝事故」の報道は後を絶たない。他県には見られない、沖縄固有の暗黒である。

飲酒運転と路上寝を、たんなる酒好きの「県民性」の問題として片づけるわけにはいかない。根っ子はやはり制度にある。飲酒を特に奨励するかのような制度、つまり沖縄特例の酒税軽減措置の存在が、常識を逸脱した飲酒を認めてしまっているのだ。
酒税の軽減措置を廃止すれば、路上寝を含む泥酔者によるトラブルや死傷者、全国最悪の飲酒運転事犯数、さらには慢性アルコール中毒者数も抑えることができる。もちろん、警察の負担も軽減され、観光産業にとってもプラスとなる。酒造所は競争に晒されるが、かつて九州の焼酎業界がそうであったように、創意工夫と経営効率の改善による品質の向上、売上や利潤の増加を達成するための大きなチャンスも得られる。
まさによいことずくめではないか。
路上寝の経験がある沖縄在住のある公務員氏は、「割安な泡盛が大好きで毎日せっせと飲みつづけたけれど、今ではカラダはボロボロ、家族にも逃げられた。むしろ沖縄だけ酒税率を上げたほうがいい」と、アルコール中毒で震える左手を右手で庇いながら、悔しそうに語った。それが正解とはいえないが、説得力はある。「沖縄の闇」は深くて暗い。
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