音楽エンタメでも、世界市場で”日韓の差”:何が明暗を分けたか?

連載『日本経済をターンアラウンドする!経済再生の処方箋』#2
2021年08月05日 06:00
  •  BTSやKARAは最初から「世界で勝つ」ことを目標に戦略を構築していた
  •  日本の音楽業界はストリーミングという世界の潮流に致命的に遅れた
  •  日本の音楽市場の雄、エイベックスはコロナ禍もあり2020年度には赤字転落

株式会社ターンアラウンド研究所
西村健(代表取締役社長)
小寺昇二(共同代表、主席研究員)

「ターンアラウンド研究所」による連載第2回目--。前回は、当研究所の西村健が日本も成長しつつある「韓国に学べ」と書きましたが、今回はその具体例としてK-POPについて、小寺昇二・ターンアラウンド研究所主席研究員が書いていきたいと思います。

音楽エンタメでも  世界市場で日韓の差

BTS、KARAを始めとして、世界を席巻しているK-POP。現在の興隆は決して”何となく”起こったのではありません。その背後には最初から「世界」をターゲットにした明確な戦略があったのです。そもそも、韓国という国とそこでのポップスに関するビジネスは、ハンディだらけだったといえましょう。そのハンディとは何だったのでしょうか。

それは、

  • 韓国の国内マーケットが狭小すぎること
  • 世界進出において韓国語という言語がネックであること
  • 韓国は欧米市場から地理的に距離があること

などです。

この韓国の国内マーケットが狭小であることについては、音楽業界に限ったことではなく、韓国ではどの産業においても同じようにハンディを抱えていました。それゆえに、これまで韓国は財閥中心の寡占によって発展の道を歩んできたのです。サムスン、LG、ヒュンダイといった韓国を代表する企業は、世界を相手にしたビジネスを展開してきました。K-POPについても同様に、お隣の日本から世界へと進出を進めていったのです。国内マーケットの狭小さゆえに「自然」に世界を相手にせざるを得なかったわけです。

Cesare Ferrari/istock

また韓国が世界展開する際には、言語の問題を克服するために、歌詞よりもダンス主体にして欧米のマーケットで受入れられやすいノリの良い楽曲を戦略的に展開していきました。ショー・ビジネスであることに徹底的に振り切り、ビジュアルを中心とした映像を重視したのです。結果的に、これがK-POPの特長となっているのです。そしてこのやり方は、商業主義が進んでいるアメリカやハリウッドのやり方にも通じる手法であるともいえます。

地理的なハンディについては、韓国は今はむしろ、地理的な遠さを逆手にとっているといえます。各国のファンがネットで交流できるITの長所に力点を置いた、デジタル時代のマーケティングを前面的に押し出したのです。その結果、いま大成功を収めているのです。

韓国のハンディは「何もない」「成功体験がない」ということでした。これによって逆に、過去のしがらみに絡め取られることもなく、世界戦略に邁進出来たというわけです。

日本は何がガラパゴス?

かたや日本のポップス、J-POPはどうなのでしょうか?最近相次いで亡くなった筒美京平、なかにし礼、阿久悠を始めとした昭和歌謡の巨匠たちの独特な楽曲、バンドブーム、フォークソング、そしてJ-POP…と、様々な「イノベーション」により、平成の途中まで活況を呈してきました。J-POPには、まさに数々の成功体験があったのです。

特に、三人娘、アイドル、おにゃんこ、モー娘。、AKB、男性ではジャニーズ…などと、素人っぽさ、親しみやすさを強調したひとつの流れは、世界的なプロフェッショナルによる「ショービズ」とは全く違うもので、日本独特の「ガラパゴス」であったといえるでしょう。

過去に、世界的にパッケージドメディア(CD)の売行きの悪化が起きたことに対して、日本ではアイドルによる握手会、選挙などの「イノベーション」によって、ガラパゴスの寿命を延命させてしまったきらいがあります。AKBスキームの東南アジア進出にしても、あくまでもJ-POPは世界的にはガラパゴスな存在であり、日本的なものを日本贔屓の東南アジアにそのまま輸出したということです。このやり方は、最初から巨大な欧米市場を視野に入れ、そこで売れるものを徹底的に鍛えあげていったK―POPの手法とは全く違います。

ストリーミングへの致命的な遅れ

欧米では、既に街からはCDショップが姿を消しています。そして現在は、ストリーミングによるサブスクリプションサービスが主流となっているのです。そのお蔭で、音楽産業は2010年代前半の不振から完全に脱し、急速な回復を示しています。その一方で日本は、インターネットの通信速度やキャパの拡大によって可能になったストリーミングサービスや、規制緩和やビジネスモデルの見直しによるサブスクリプションサービスへの方針転換には、ずっと躊躇してきたのです。

日本の音楽業界では「CDが売れなくなって音楽産業は斜陽産業だ」と嘆く人が最近まで多かったわけですが、目を世界に転じてみれば「構造不況」はガラパゴスの中だけに限られたことでしかなかったのです。

世界の音楽産業売上推移

(出典:IFPI issues Global Music Report 2021 / IFPI)

ようやく日本市場も、ダウンロードの売り上げ(約300億円)や、今後の牽引役であるストリーミング(約590億円)が上回ってきているとはいえ、まだまだ売上の中心がCD(約1,300億円)であることには変わりがありません世界の音楽産業全体が、ストリーミングを中心にして、既に過去最高売上高の更新が視野に入ってきたのとは対照的です。日本の音楽産業は、2020年のコロナ禍の影響を勘案しても、まだまだアップトレンドへの転換には時間がかかりそうです。

(出典:一般社団法人 日本レコード協会 「Statics Trends 日本のレコード産業 2021」)

エイベックスもイノベーションのジレンマに

日本の音楽業界の典型例がエイベックスの業績トレンドに見て取れます。

エイベックスの業績推移

<単位:百万円 %> (出典:エイベックス社の決算数字から筆者作成)

日本的な「イノベーション」の積み重ねにより売り上げを伸ばしてきたエイベックスですが、過去の人気アーティストの凋落、新たなスターの不在によって、売上はコロナ禍前の2019年度から急落。コロナ禍の2020年度にはついに赤字に転落し、南青山の本社ビルを売却せざるを得ない状況に追い込まれました。

業績不振により所有権が売却されたエイベックス南青山の本社ビル

過去の株価を見ると、最近10年間の最高値が2013年の9月の3,770円に対し、現在は1,700程度と半値以下でしかありません。

では、売上・利益も絶好調で株価がピークでもあった2013年、2014年あたりには、エイベックスではどんなことがあったのでしょうか。振返ってみましょう。

オリコンの2013年7月19日ニュースでは「2013年上半期の音楽ソフト(シングル・アルバム・音楽DVD・音楽Blu-ray Disc)の売り上げをまとめた市場レポートを発表しました。メーカー別売上シェアでは、昨年の上半期に4年ぶり首位に返り咲いたエイベックス・グループ・ホールディングスが215.1億円(市場占有率14.7%)を売り上げ、2年連続でトップに。上半期26.1億円を売り上げたKis-My-Ft2を筆頭にEXILE、東方神起、安室奈美恵、SKE48らが貢献した」とあります。

そして2013年11月に、絶好調の業績の中、南青山の本社建替えを華々しく発表したのです。

経営分析の世界では「本社の建替え、建設、購入を発表したときが業績のピーク。タイムラグを経て、竣工したときには業績は落込んでいることが多い」といわれます。このことはまさに、エイベックスについても然りだといえます。

欧米において、この2013年~2014年頃というのは、世界ではダウンロード配信が頭打ちとなった時期です。その後ストリーミング配信の伸びが顕著になり、CDに代わってストリーミングが拡大していきました。振り返ればこの時期は、音楽産業のターニングポイントだったのです。

実は、エイベックスも2015年にサイバーエージェントと共同してストリーミングへの進出を行っています。ところが本腰を入れ出したのは、業績悪化に火がついた昨年からというのが実態でした。

olaser/istock

かつて革新的なビジネスモデルで既存の企業を打ち破っていた企業ですら、大企業になると革新性を失ってしまう。エイベックスを始めとする日本の音楽産業もまた「イノベーションのジレンマ」の例だったといわざるを得ません。

K-POPの世界戦略の成功例をみて、日本企業が最も見習うべきポイントとは、やはりグローバル戦略だといえるでしょう。特に、エイベックスが生み出せなかった世界的なスターが、韓国で登場しました。

それはBTSです。ターンアラウンド研究所の西村健は「まさにBTSはイノベーション」だと指摘します。

次回は、BTSが生み出したイノベーションについて西村が具体的に書いていきます。

 

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