私が仕掛けた中曽根康弘のイメージ戦略:「タカ派」印象をどう変えたか
田村重信『政策現場発:型破りサラリーマン道』第4回- 中曽根政権の初期は米メディアへの「不沈空母」発言などでタカ派イメージに
- 実は文化や福祉に対する思いも。ソフトな一面を伝えようと資料配布に着手
- ボランティアや三世代スポーツなど数々の仕掛け。なぜ成功したのか
(編集部より)政党職員とは思えない、類まれなPRの手腕を発揮し、新しい政策から宰相候補となる政治家まで、世に浸透させてきた政治評論家・田村重信氏の連載。第4回は「戦後政治の総決算」を掲げ、国鉄民営化などの業績を残した中曽根康弘元首相のイメージ戦略について振り返ります。

1978年、自民党の職員となった私は全国組織委員会に配属された。そこで私は、党員の獲得や党支部の活動を盛り上げるため尽力していた。
その頃、中曽根康弘内閣が誕生する。当初の中曽根氏に対する世間の評判は、意外にも悪かった。それは、83年の訪米時にワシントン・ポスト紙の社主との食事会で、中曽根氏が「日本列島を不沈空母のようにして協力に防衛する」「日米は運命共同体」などと発言したことを、マスコミがこぞって批判的に報道したからだ。この発言によって、中曽根氏には過激な“タカ派”のイメージが決定づけられてしまっていた。
しかし、私は中曽根氏の別の側面に注目していた。それは82年の所信表明演説である。
“タカ派”イメージ覆す「文化国家」観
「終戦直後、人々は空腹を抱え、トタン屋根の仮住まいの中で、文化国家、福祉国家の理想を掲げました。昭和22年、私は初めて国会議員に当選して、瓦礫と闇市の間を縫って登院しました。その時の光景が目に浮かびます。
焼け跡に立っての文化国家、福祉国家の叫びは、戦前の日本の軍事優先の考え方や、自由の拘束された時代から開放された国民が熱望した新しい価値であります。(中略)私は今こそ戦前の日本に対して、戦後の日本の理想として『たくましい文化と福祉の国』を作るという新しい目標を高く掲げるときが来ていると思うのであります。(中略) 国民の皆様の幸せは、いったいどこにあるのでありましょうか。家族が家路を急ぎ、夕べの食卓を囲んだ時にほのぼのとした親愛の情が漂います。このひとときの何とも言えない親愛の情こそ幸せそのものではないでしょうか」
たった一言で 世間では“タカ派”のイメージばかりが独り歩きした中曽根氏だったが、本当の中曽根氏はこの所信表明のように、戦後の焼け野原からこの日本を文化国家、福祉国家となるよう目指すソフトな一面があったのだ。
私は中曽根氏のこうした側面をもっと皆に知ってもらいたいと、氏の発言からソフトな発言を集めた資料を作って配布することにした。すべては「総理への偏った印象を解消したい」との思いからだった。当時、自民党婦人部の活動家研修会が定期的に開催していたので、中曽根氏にそこで講演してもらった。講演の内容は、外交や安全保障だけでなく、癌の撲滅、花や緑の保護、家族の団らんの大切さなどを訴える中曽根氏の優しい思いが込められた内容だった。中曽根氏は初期のイメージの悪さにも関わらず、その後5年もの間、長期政権を築く事ができた。私のこうした試みが、氏のイメージアップの一助になっていたとするならば嬉しいものだ。
ボランティアのネットワークを作りたい
その後、総理が「対話シリーズ」という対談をやるといって相談を受けることになった。第一弾は大分県の平松知事と一村一品運動の対談をするというのだが、その第二弾でボランティアの活動家を呼びたいという。普通、総理なら厚生省(当時)を通じて人を集めるものだ。あとで厚生省関連の社会部会の担当者から「ボランティアの活動家を田村さんがあつめたんですね」と驚かれた。
この場で中曽根総理は「ボランティアのネットワークを作りたい」と発言したので、それをベースに私は「ボランティアのすすめ」という本を作ることにした。今では誰もが当たり前のように行っているボランティア活動だが、当時はボランティア活動という概念はあまり存在していなかったので、目新しい提案だと世間には映った。
麻生太郎氏とつくった三世代スポーツ大会
その後、麻生太郎さんから「田村さん、文化活動に関する本は作れないかな?」と相談され『文化活動のすすめ』という本を作った。さらに私は全国遊説で麻生さんと回る中で、各地でゲートボールが盛んに行われているのをみて、青年局主催の「ゲートボール大会はいかがでしょうか?」と提案した。地方を廻っていると、老人たちは皆ゲートボールをやっている。そこで「青年が高齢者のためにゲートボール大会を開催する」というのはどうでしょうかと。「高齢者だけでなく、大人も子供も含めた三世代で大会を開けば、地域社会の三世代交流が活性化するでしょう」となった。
「悪いアイデアではないけれど、自民党が特定のスポーツ大会をやるのは政党色がついているから、良くないだろう」と麻生氏はこの提案を渋った。
ところが、反対で終わらないのが麻生氏の素晴らしいところで、対案を出してくれたのだ。「そうだ、JC(青年会議所)でやるのはどうだろう?」と。麻生氏はJCに所属しており、過去には会頭も務めていたので影響力があったのだ。
「いますぐ来てくれ」麻生氏によばれて個人事務所に行くと、そこには後の青年会議所の次期会頭となる斉藤斗志二がいた。麻生氏はこの場で斎藤にゲートボール大会に取り組むよう指示を出した。
こうして、JC主催のゲートボール大会の開催が決定した。大会は私のアイデアを元に「3世代交流」を謳った。世代を超えた交流を大きな目的にして、高齢者のみならず若者と子供も参加した。私は、せっかくだからこの大会をもっと盛り上げたいと思った。そして総理大臣の中曽根康弘に「優勝カップを出してもらえないか」と官邸におもむいて中曽根弘文秘書官に相談をしてみたが、「それは無理です」という。
根底で共有していた熱い理念
スポーツ大会に対して、簡単に総理大臣杯は出せないのだそうだ。そう言われても、引き下がるわけには行かなかった。
「中曽根総理が所信表明演説で語った、最後の日本の理想としてたくましい文化と福祉の国を作るという新しい目標を高く掲げる時が来ていると思うのです!」
私はそう訴えた。「JC主催のゲートボール大会も、首相が所信表明演説で謳ったように、たくましい文化と福祉の国を作るためのものです。“三世代交流”という新たな地方活性化策でもあると思うのです」

あの所信表明で「文化国家」「福祉国家」を訴えていた中曽根氏なら、わかってくれるに違いない。そう信じていた私の熱意が伝わったのだろうか。秘書官は理解してくれ、中曽根総理を説得してくれた。最終的には、中曽根総理が優勝カップを提供してくれることになったのだ。
完成したカップを総理大臣官邸に持って行く時には、麻生のほか、青年局次長の平沼赳夫と古賀誠も同行した。大会は世田谷区内の公園で行われ 開会式には厚生大臣の渡部恒三も来てくれた。こうして、大会は盛況に終わることができた。
私が提案した大会の開催が、麻生氏など様々な人の協力を得ながら、最終的には総理の協力も得て実現することができたのは、戦後の貧しい焼け野原から立ち上がった日本を、もっと「文化国家」、「福祉国家」として立派な国にしたいという熱い理念を共有していたからではないかと思うのです。
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