医療年金の放漫財政が呼ぶ「痛税感なき」増税

先送りのツケ、歯止めはあるか
2021年05月01日 06:00
歯学博士/医療行政アナリスト
  • コロナでの財政悪化を「医療年金の見直しの機会に」と筆者
  • 年金負担で貯蓄もできず。増税で賄うのももう限界
  • 増税の歯止めは国民の訴え。医療年金の特別扱いをやめよ
itasun/iStock

新型コロナ緊急事態宣言も3回目が発令される中、政府は2020年単年度で112兆円、例年倍以上の国債発行を行いました。リーマンショック(2008年)や東日本大震災(2011年)と比べても財政への悪影響は明確で、その出口戦略の見通しは全く立っていません。

同時にコロナ問題は国内の医療制度の硬直化や問題点なども浮き彫りにし、医療界への批判もいつになく大きく聞かれるようになりました。昨年夏から冬にかけて準備する期間は十分にあったのに、病床数や人的リソースの柔軟な活用に関し後手に回ったのは医療界の不作為です。

制度疲労を起こし硬直化した医療制度は、国民に負担を求めるばかりでサステイナビリティすら失いつつあります。このような状況だからこそ、政府の最大支出分野である医療年金の見直しをする機会なのではないでしょうか。

年金に消える僕らの貯蓄

医療年金予算はご存知の通り社会保険料で購われていますが、その歳入約70兆円だけでは不足するので、毎年33兆円程度を国庫からの支出で補っています。2019年度の消費税増税がその財源とするために行われたのは記憶に新しいと思います。

出典:財務省広報誌「ファイナンス」

ここ10年以内の一般会計税収は60兆円未満なので、単純化して計算すると社会保険料を含め我々が国に納めているお金の約7割を医療年金のために使っていることになります。この莫大な医療年金の予算が国民の可処分所得を低下させています。

政府の統計調査によると2000年以降可処分所得は減少し、現役世代はほとんど貯蓄ができていないことがわかります。消費支出は横ばいであることから、今の若い世代が贅沢になったわけではありません。

社会保険料の従業員負担分は2020年時点で約16%、20年前と比較すると5%程度の増加ですが、忘れてはならないのは雇用者が同じ金額をさらに国に納めていることです。企業の予算の中で人件費というのは業種ごとにある程度相場があり、この社会保険料の雇用者負担分も人件費の一部です。

つまり本来従業員に支払われるべきお金のうち32%が社会保険料として徴収されていると考えることができます。20年前と比較すると現代の従業員は年収の約1割を余分に国に納めていることになり、雇用者は何もしないのに人件費が1割増したことになります。可処分所得が伸びないまま現場人員削減・ブラック労働・サービス残業が蔓延するのはこれが原因です。

結果として仕事がきつくなり、貯金がなくなっても、社会保険が充実していれば国民の受益としては同等という意見もありますが、果たしてそうでしょうか。

気づいた時には手遅れな増税

本来そのお金は貯金・投資・自己研鑽・保険料など各々の判断とその時の必要性に応じて自由に使えるものであり、民間で消費することで経済活動も活発になります。年々給付が縮小する未来しか見えない医療年金とは、釣り合いがとれません。

第23回税制調査会 ― 内閣府(2015年10月14日)

新型コロナ対策で財政を悪化させた政府が、今後様々な手段での増税が試みるのは明白です。その理由付けとして医療年金など社会保障や経済復興、環境保護、将来世代に負担させないなどいった一見良識的な掛け声は政府にとって都合の良いものです。

政府の表現を借りれば「痛税感」なき増税と言えるでしょう。医療で「痛みを伴わず進行する病気」といえば、気づいた時には手遅れになりやすく、たいへん危険です。

しかし、いくら増税したとしても政府は新たな支出を作るので財政均衡に繋がることはありません。事実2019年の消費税増税後、その一部は社会保障費不足分の補填には使われず幼稚園保育園無償化の予算となり、2年もしないうちに社会保険料増や子供手当削減の話が始まったというのが現実です。

(関連記事:アゴラ拙稿より)

医療年金の特別扱いをやめよ

政府支出膨張に歯止めをかけるには、予算枠を堅持させる仕組みづくりで、医療年金をよく理解している者たち自身が制度全体の経済的合理性を高めるインセンティブをつけていかなければなりません。

これは昭和中期においては大蔵省が定める予算概算要求枠、あるいは歳出シーリング制度として実施されていました。しかし平成初期より数々の特別枠が設けられ、補正予算はシーリング対象外と骨抜きに。さらに予算枠としても医療年金分野は歳出増を認める特別扱いの青天井となっています。

この歳出シーリング制度に再度実効力を持たせるには、国民の側から「国民はこれ以上税金を払う余力はない」「政府は予算枠を堅持せよ」と強く訴えていかなければなりません。それらの声が票につながると政治家が気づき、増税案が可決しづらくなってようやく、先延ばしにしてきた抜本的な改革に本気で取り組まざるを得なくなります。

医療年金予算の自然増は不可抗力である、というのは思考停止にすぎません。医療年金を特別扱いしない歳出シーリングはスウェーデンの社会保障改革コンセプトの一つであり、イギリスにおけるエビデンスによる医療技術評価に基づく予算配分の導入や、ドイツにおける保険者間での競争原理の導入などで達成されてきました。

日本以外の先進国では1990年代に解決していった問題を今日まで先送りし、医療年金の高騰を容認し続ける不作為が、失われ続けた平成30年の「目を向けたくない」側面です。

(参考)イギリス及びスウェーデンの医療制度と医療技術評価(現地調査報告) (ndl.go.jp)

(参考)わが国の医療制度改革に向けて-ドイツとフランスの経験からの示唆-|日本総研 (jri.co.jp)

 

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