デジタル庁トップに伊藤穰一氏は「適任」か?専門家も不安視するワケ

「MIT」や「小山田圭吾」だけではない
  • デジタル庁の事務方トップに元MITメディアラボの前所長、伊藤穣一氏が就任と報道
  • 五輪で炎上した小山田圭吾氏のはとこの話題もあるが、前職退任時にスキャンダル
  • 事務方トップ組織間調整などの内向きな仕事。ビジョナリーな伊藤氏に適性は?

来月1日に発足するデジタル庁で事務方トップとなる「デジタル監」の役職に、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の名物研究所「メディアラボ」の前所長、伊藤穣一氏を起用する方向で最終調整に入っていると報じられた。

デジタル庁は、国のデジタル改革を担う上で菅政権が最も力を入れている政策。「デジタル監」はそのなかでもとりわけ重要なポストとなる。「伊藤氏の国際的な知見や経験を期待する」との政府内の声で起用の方向になっているというのだが、一報をきいた世間は「彼は世界的な疑惑の渦中の人物では?」と、波紋が広がっている。

伊藤穰一氏(MIT Media Lab /flickr:CC BY-SA 2.0)

エプスタイン疑惑に小山田問題

というのも、伊藤氏は少女への売春斡旋疑惑で問題になった「エプスタイン疑惑」という世界的大スキャンダルの、ディープな関係者として米メディアから追及され、その結果、MIT メディアラボ所長の職を2019年秋に解任されたばかりだからだ。

これに加え、何の因果か同氏は先にイジメ問題でオリンピックの音楽担当を辞任した小山田圭吾氏と、はとこ(伊藤氏ブログによる)関係にあるというのだ。

関連記事:いじめ問題で小山田圭吾氏辞任へ:専門家「あの謝罪は『命乞い』と同じ」

折しも、小山田氏の問題が起こった際に、同氏のいとこという音楽プロデューサーの田辺晋太郎氏が小山田氏の辞任時に「正義を振りかざす皆さん、良かったですねー!」という“逆ギレ”ツイートをして、身内びいきと不興をかったばかりだ。この件では、田辺氏が仕事で関わっていたヤマサ醤油までもが謝罪する事態となった。この騒動では、小山田氏の周辺は身内も含めて激しい炎上が広がり続けた。

小山田氏と親族であったことは単なる偶然であったとしても、これだけオリンピックの辞任劇が続くなかで、政府やオリンピック委幹部の「人選センス」の無さや「人権感覚の鈍さ」が世の中から疑問視され、批判を受けている最中にまたもや、エプスタイン疑惑の関係者、伊藤穣一氏の名前が出てきたことは、世の中の怒りに火に油を注ぐ事態となっている。

アメリカでは“アウト”の判定

伊藤氏は1966年生まれの55歳。joi(ジョーイ)氏という名で著名なベンチャーキャピタリストとして知られていた。2011 年にアメリカ のマサチューセッツ工科大学メディアラボの所長に就任した。紛れもない世界トップ大学 の名物研究所の所長に日本人の伊藤氏が就任したことで、就任当初は当時は華々しい経歴が注目を集めた人物である。

MIT時代の伊藤氏(Tomo Saito /flickr CC BY-ND 2.0))

華々しい経歴を持つ彼の社会的評判が急落したのが、件のエプスタイン疑惑である。 伊藤氏は少女への性的虐待などの罪で起訴された大富豪ジェフリー・エプスタイン氏から秘密裏に多額の資金提供を受けていた問題で辞任したためだ。その辞め方も、疑惑を否定したあと追い詰められ突然辞任するという、後味の悪いものであった。肝心な経緯の説明も行われてはいない。

辞任は、MIT ラボにとどまらず、ハーバード大学、マ ッカーサー基金、ナイト財団、Pure Tech Health、ニューヨーク・タイムズカンパニーなど 、数々の職務から辞任に追い込まれている。

少なくとも米国のモラル規範では、伊藤氏は完全に“アウト”な行為をしたと判断された人物ということになる。そしてこのエプスタイン事件は消して古傷ではなく、現在進行系の疑惑である。

デジタル庁が入居する東京・赤坂の「東京ガーデンテラス紀尾井坂」(右のビル)=7maru /iStock

政府は、通常ならやるはずの最低限の「身体検査」をするまでもなく、世界を騒がした疑惑の人物に、この国の目玉政策の超要職を打診しているのだから、波紋が広がるのは当然だ。

デジタル専門家「他に適任者が…」

日本政府の規範意識では、こうした疑惑は関係ないということなのだろうか。そもそも昨年9月にはデジタル庁トップには、女性が就任するという話だった。その話が頓挫し、目玉の役職に最終的に少女買春の関係者なったというのでは、世界にジェンダー意識の低さをアピールしているようにも映りかねない。

こうしたスキャンダルがあっても、伊藤氏は他に代えがきかないほどデジタル庁の「デジタル監」職に適任な人物なのだろうか。この要職に求められる人材像について、情報社会学者の庄司昌彦・武蔵大学教授は語る。

この任務は”事務方トップ”。デジタルによって生活をより良く変えるために、国の法令やガイドラインの整備などを踏まえ、”神は細部に宿る”といってもいくらいの、かなり細かい作業を進めていけるよう、スタッフに動いてもらう必要があるのです。

伊藤氏が得意とする、ビジョンを示したりリーダーシップを発揮することももちろん大事です。デジタル改革がはじまった頃だったら、そういう人材が必要だったと思います。

ただ、今のデジタル庁に必要なのは、政府と自治体、府省間、民間の連携を良くすること。それによってシステムの標準化や、データ連携の高度化を目指すことが今のミッションです。それはどちらかというと、組織間調整などの内向きの仕事だといえます。

伊藤さんが再チャレンジするなら、本来の投資家や、ビジョナリーとしての役割をお願いしたいと思います

MITラボでは、主に多方面からの寄付集めを任務としていた伊藤氏。「なぜ彼だけに責任があるのか」と同情の声もないわけではなかった。

MITを辞めた経緯には同情する方もいるとは思います。辞めさせた人たちだって、彼が無理して金を集めてくることを期待してたんじゃないか、と私も当時は思いました。でも、あのとき率直に正しく説明できなかったというのは、彼の失敗です。トップとして言い訳が許されない状況を引き受けるのもあのお仕事だったのでしょう。デジタル庁トップには、コミュニケーション力が必要と考えると、他に適任の方がいるのではないかと思いました」(同氏)

今のデジタル庁の新ポストに、無ければ成り立たないほど絶対に必要不可欠な人材というわけでもなさそうだ。もちろん、伊藤氏の業績をすべて否定すべきではないだろうが、公職につく以上は一定のクリーンさが必要であろう。彼が日本の舵取りを担う任務に就くことが、適任だとはいえなさそうだ。

 

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