侍ジャパン悲願の「金」!大胆な若手抜擢がもたらした新人守護神の躍動
元読売新聞・野球記者が2つの視点から大会回顧- 東京五輪の野球で日本が悲願の金。広島の栗林良吏投手が守護神として大活躍
- 準々決勝で見せた勝負強さ。昨夏はまだ社会人野球所属、大会延期で晴れ舞台
- 稲葉監督が実績や知名度にとらわれずに若手を大胆に抜擢したことも奏功
東京五輪・野球の決勝、日本代表「侍ジャパン」―アメリカ代表戦は7日、横浜スタジアムで行われ、日本が2-0で米国をやぶり、野球が五輪の正式種目となった1992年バルセロナ大会以来、初めて悲願の金メダルを獲得しました。日本は三回、村上宗隆(ヤクルトスワローズ)のソロ本塁打で先制、八回には吉田正尚(オリックスバファローズ)の安打に敵失が絡んで加点。5投手のリレーで米国を無失点に抑えました。
私は、侍ジャパンの戦いぶりは、準々決勝の米国戦と決勝の2戦をテレビで観戦していました。そのため、広島東洋カープの新人右腕・栗林良吏投手の活躍がひときわ、印象に残っています。私が広島市在住で広島東洋カープのファンだということを差し引いても、栗林投手は金メダルの象徴だという印象を抱いております。ただ単にファンが浮かれていると言われないため、それはなぜかを、「野球」と「組織」二つの側面から感じたことを説明します。
MVP級だった新人守護神
まず、野球的な側面から見た、栗林投手が果たす役割の大きさです。
侍ジャパンは予選ラウンドから決勝までの計5試合を戦いました。栗林投手は、最終イニングを抑える「守護神」として、侍ジャパンの投手でただ一人、全5試合に登板しています。そして、初戦のドミニカ共和国戦こそ九回に1失点して追いつかれはしましたが、その後の4試合はすべて無失点に抑え、守護神の責務を果たしています。
圧巻は、準々決勝での投球です。この試合では、同点の延長十回表からの登板となりました。つまり、タイブレークに入ってからのマウンドです。タイブレークは、無死一、二塁という投手にとっては絶対的に不利な状況から始まります。なおかつ、プロ野球の公式戦では採用されていません。どれほどの重圧がかかっているのか、想像に難くないでしょう。
そのような中、栗林投手は先頭打者を三振に抑えると、度胸満点のマウンドさばきをみせ、無失点でしのいだのです。その後はご存知の通り、裏の攻撃でサヨナラ勝ちが生まれるわけです。栗林投手は、プロ野球の公式戦では、開幕から14試合連続無失点の新人記録を更新すると、その記録を22試合まで伸ばしました。25歳の右腕は、公式戦での勢いをそのままに、快投を演じきったことになります。
堂々とベンチに戻る背番号20を見て、少々、話が逸れてしまいますが、人生はどこでどうなるか分からないのだなと、ふと感じてしまいました。
ここまで何度も繰り返していますが、栗林投手は新人選手です。つまり、昨年の今頃は、社会人野球の部員だったわけです。侍ジャパンの選手は基本的にプロ選手で構成されていますから、どんなに本人が侍ジャパン入りを切望しようとも難しいのが現実です。東京五輪が予定どおりに昨年行われていたら、金メダリストの称号を手にすることはなかったでしょうし、ひょっとすると、侍ジャパンの金メダルそのものが実現しなかったかもしれません。
さて、野球は競技の特性上、投手が有利だとみています。なぜなら、まず、投手が投げることから競技が始まるからです。その分、打者は受け身になります。打率三割が一流の証とされますが、この数字が意味するのはそのような点を含んでいます。つまり、野球は投手で決まると言いたいのです。そして、分業制が確立されている投手陣において、救援陣の役割は大きくなっています。ましてや、東京五輪ではタイブレーク制を採用しているため、救援陣の負担は、プロ野球の公式戦の比ではないでしょう。そうした戦いの中で、守護神の座を果たしたことこそ、MVP級の働きだと言えるのです。また、守護神が安定すると、投手リレーの”勝利の方程式”が出来上がります。岩崎、伊藤を軸にしたセットアッパーを加えた方程式が、侍ジャパンの屋台骨を支えていたと言えます。
稲葉監督の“抜擢人事”が奏功
次に組織面の話です。
侍ジャパン24人のメンバーで最年長は1988年世代の田中将大(楽天)や坂本勇人(巨人)、柳田悠岐(ソフトバンクホークス)、大野雄大(中日)です。正直なところ、若いチーム構成だなというのが実感です。栗林、伊藤大海投手(日本ハムファイターズ)はともにプロ1年目の20代。決勝で先発し、5回無失点と好投した森下暢仁投手(広島東洋カープ)もプロ2年目の23歳。稲葉監督の方針だと思いますが、過去の実績や知名度にはこだわらず、勢いのある若手を大胆に抜擢したことが、チームの活性化をもたらしたのではないかと思います。
短期決戦では、目の前の1勝が絶対的に求められます。一気に流れに乗せることが求められる中、こうしたチームづくりがぴったりはまったような気がします。私自身はいま野球記者から政治の世界に身を移しましたが、政界ももっと大胆に若手を登用し、組織の活性化を図ることが求められていると思います。侍ジャパンの活躍でますます、そのことを実感しています。
ナインやチーム関係者の皆様、悲願の金メダル獲得、本当におめでとうございました。
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