「引き抜き」巡り、大手コンサル会社と元役員が法廷で全面戦争 #2

世界的な会社ブランド失墜リスクも
  • 大手コンサルDTCと元役員の訴訟。会社側の証拠に疑義が続出
  • 引き抜き禁止の役員規定違反への疑義に続き、メールの捏造疑いも
  • 人材流出による業績低下で、経営トップが焦りから無理を重ねた可能性

デロイトトーマツコンサルティング合同会社(以下DTC)が、退職後にDTC時代の部下を引き抜いたとして元社員を相手取り、1億2000万円の損害賠償を求めた訴訟。DTC側が主張する根拠には存在が疑われるものが出てきていることは前回も触れたが、もう一つ、被告のDTC元役員が引き抜いたとされる元部下が、社内に混乱を招くべく、被告の指示に基づいて“なりすましメール”を送り付けたという証拠にも疑義が生じている。この元部下はホワイトハッカーとして日本でも有名な人物である。

※法廷の画像はイメージです(whim_dachs /iStock)

元部下は証人としてこう語った。

「提出された証拠がメールの画面の写真であったことに驚きました。なりすましの立証には、メールサーバーなどの監査ログデータを添付することが一般的です。原告側がメールを受信した際のメールサーバーのログや、せめて電子メールのヘッダー情報などの詳細情報や、正当な方法でメールが送付されていないことを証明するログが添付されて然るべきです」。

要は原告側が証拠として出してきた、なりすましメールの画面だけでは、証拠にはならないし、そのなりすましメール自体が原告側の捏造ではないかと主張しているのだ。

「無理筋」背景にトップの問題

この裁判を傍聴していて、原告側の証拠には稚拙なものが多く、企業に経営戦略や危機管理などのアドバイスを送ることを生業とするコンサル会社の行為とはとても思えないことが多い。

しかもDTCといえば、米国に本部がある世界的な監査法人である「デロイト」の看板を掲げており、社会的信用も高く、多くのクライアントを持っている会社だ。そうした企業を指導する立場にある会社がなぜ、こうした無理筋と指摘される裁判を強行するのか。そこにはDTC経営トップ層の果てしない「金欲」がある。

この一連の「捏造疑惑」を主導したのは、「近藤氏の後任としてDTC社長に就任した韓国人の宋修永氏と、宋氏の子飼いだった現DTC経営会議議長の川原均氏だと見られる」(DTC幹部)。その後、宋氏はDTC社長を経て、韓国デロイトに移った。

川原氏は元セールスフォースの社長として業界では有名だったが、DTC転職後は、コンサルティングの営業になじまず、売上を確保できずに宋氏から更迭寸前だったと言われる。さらに近藤氏退任後に多くの役員や幹部も逃げるように辞め始め、DTC全体で売上高が減少した。宋氏の年俸は業績連動で年間5億円程度だったと見られる。

宋氏にはこのままでは5億円の年俸が維持できないとの焦りがあって、何とか人材の流出を食い止めたかった。その方策として正式な社内手続きを踏まずに規定を改定した。だから規定捏造と被告側に詰め寄られても仕方ない。切られる寸前だった川原氏も宋氏に取り込もうとそれに協力したことが訴訟の背景にある」(同前)。

DTCが入居する丸の内二重橋ビル(Kakidai /Wikimedia CC BY-SA 4.0)

つまり、金に執着した韓国出身社長と自分の地位保全を狙った川原氏の思惑が一致し、他の役員に対する見せしめを効果的に行う方法として、役員規程に法外な損害賠償額を盛り込むことを捏造したと見られるのだ。被告を提訴後、DTC社内では退職しそうな役員が個別に呼び出され、「二の舞になりたくなければよく考えろ。家族が路頭に迷うぞ」と言われたという。

社内で内部告発の動きも

宋氏は韓国に転出したものの、川原氏は依然として経営会議議長のポストにある。この職位には、社長ら経営トップが出資者であるパートナーの利益を損なわない意思決定をしているかを監督する機能がある。

いまDTC社内では「宋氏や川原氏が自身の報酬や地位の保全のために会社の費用を使って無理筋の裁判を仕掛けたのであれば、これは特別背任にあたる可能性がある。裁判資料の捏造も詐欺容疑として問われかねない」といった声が出始め、内部告発する動きが出ているという。

今回の裁判では被告側には、“無罪請負人”として知られる喜田村洋一弁護士が付いた。喜田村氏は薬害エイズ事件や小沢一郎氏の政治資金に関する事件などで無罪を勝ち取ってきた実績がある。被告側は、世界最大の監査法人グループとの対決になると見て、剛腕弁護人に依頼したと見られる。

米エンロンの破綻や東芝問題など世界規模で起こる企業の不正会計などの事件の背景には、不祥事企業を担当していた監査法人の一部会計士集団が、自分のノルマを追求するために所属する法人をも欺いていた問題があった。大きな予算を請け負っているパートナーの影響力は大きく、監査法人ではそうした人材が幅を利かせるために、会社全体が悪事に巻き込まれる構造だった。

今回のDTCの「捏造疑惑」も監査法人での不正の構造と同じく、一部の役員の行為によって、会社全体の信用が毀損しかねない。これまでデロイトグループは幸いにも大きな事件、不正には関与してこなかった。しかし、宋氏や川原氏が行った行為は、世界的なブランドである「デロイト」の看板を地に落とすことに繋がりかねない。

 

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