中川コージ氏語る:「安易な中国崩壊論」こそ日本を滅ぼす
インタビュー連載「目覚める獅子」はどこへ行く?#3日本よりも格段とデジタル化を進め、アメリカと世界の覇権を競い合うまでになった「目覚める獅子」は今後、世界の政治と経済にどんな影響を及ぼすのか。気鋭の中国ウォッチャーとして注目される中川コージ氏に展望を聞く連載インタビューの最終回。締めくくりはリアリズム的な発想から、日本が希望的な観測に流されず、中国に対して正しい現状分析を行い、生き残るための勝ち筋を見出す意義を論じます。

日本にしかできない、対中戦略とは
――ここまで、中国の「デジタル人民元」を巡る世界戦略を伺ってきましたが、そもそも仮に「デジタル人民元」が当初国内でのみ使われるとしても、14億人が使うとなればそれなりの規模になる。試験データや問題の洗い出しなどもやりやすそうです。

中川 「14億人が利用」という規模の大きさは、少なくともブロックチェーン技術を一部利用するならば、そのまま信頼力という価値にスライドされますから、これはチャイナにとっては日米欧を凌駕するジャンピングチャンスになり得ます。チャイナ都市部においてはすでに第三者決済のバーコード・QR決済が広く浸透しており、もはやデジタル経済を含めなければチャイナの経済事情を把握できない域にまで達しています。
また、マネー覇権を狙うという以前に、チャイナにとっては「デジタル人民元」を導入する国内的メリットが多くあります。例えば習近平指導部が当初から力を入れている「反腐敗」運動の強化。チャイナ当局だけが追跡可能な「デジタル人民元」というマネーによって、国内の汚職から発生する不正資金を追いかけることができます。また、通貨政策の実行・効果検証スピードの向上も期待できます。
――仮に覇権奪取には届かなかったとしても、またその狙いが「デジタルファシズム」と揶揄されるような監視・党による人民の掌握にあったとしても、積極的に構想を進めていく中国には、警戒するとともに見習うべきところもありそうですね。
中川 そうですね。人口も経済規模も巨大化する超大国である中国と、我が国は総合力で競争して優位に立つ必要はない、と思います。#2でも少し触れましたが、総合力で中国の優位に立とうとするのではなく、むしろ「どの分野ならチャイナの優位に立てるか」を計算して、協調と対立のメリハリをつける必要があります。
新著『デジタル人民元――紅いチャイナのマネー構想』でも具体的に日本に必要な5つの方策を説明していますが、「チャイナと同じ超大国であるアメリカにはできない、日本だからこそできるチャイナとの対峙の仕方」がある。そのことを意識する必要はあるでしょう。

「闘いません、勝つまでは」中国の戦略を超えよ
――「中国はどうせ崩壊する」「うまく行くはずがない」といった希望的観測は捨てた方がいい。
中川 もちろんチャイナにも「この問題が弾ければ中国共産党統治にとって大きな打撃となる」という、爆弾のような要素は複数あります。しかしだからと言って、相手を侮っていいことは一つもない。チャイナ自身もこうした「爆弾」が弾け飛ばないよう、様々な手を打ってきますし、何よりも「次世代のマネーとサイバー領域におけるパワー」は、こうした「爆弾」を「無害化」するほどのインパクトがあります。
――「デジタル人民元」にしろ、人民元がドルに代わって決済通貨、基軸通貨化するための「人民元国際銀行決済システム(CIPS)」にしろ、こうしてうかがってみると、あまりに日本は中国の狙いに無警戒だったのではないかと思います。
中川 チャイナの基本方策は「闘いません、勝つまでは」。米中覇権対立も、50年、100年というスパンでとらえており、マネーや軍事だけでなく、政治、統治機構、経済、文化、サイバーなどあらゆる領域で圧倒的にアメリカを上回ることがしばらく続いて初めて、アメリカと真正面から対峙し、最小限の力で相手を屈服させるのが最上だと考えています。
日本では「ようやく中国の横暴が世界に知られるところとなってきた。ついにアメリカも本気で中国を潰しにかかる」といった文脈で、「対中包囲網」によって中国が最終的に白旗を掲げるはずだ……とする見方もありますが、これはむしろ日本側の警戒心を下げるだけ。むしろ「対中包囲網など、砂上の楼閣である」という可能性、つまりチャイナが現体制のチャイナとして続いていく蓋然性の高さを見越した戦略を練ることが必要です。
「ドライなチャイナ分析」が必要
――日本も長期スパンで中国と対峙しなければなりませんね。
中川 相手にとって不足はありません。生き馬の目を抜く様な国際社会で、日本がチャイナと相対しながら生き延びていくためには、「チャイナは素晴らしい!」とか「チャイナは悪の権化、人類の敵だ!」といったウェットなものではなく、ドライなチャイナ情報の発信が増えていくことを望みます。
(連載おわり)
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