アフガニスタンで敗北したのは、自由主義諸国全てである

膨大な人命と巨額援助の末に...
2021年08月17日 07:01
国際政治学者/東京外国語大学大学院教授
  • アフガニスタンのタリバン掌握は膨大な人命と資金を投入してきたアメリカの敗北
  • タリバンに負けるべくして負けた現政権。守るべき価値を持たない軍隊の脆さ
  • 日本を含む自由主義諸国全体の敗北。戦略の練り直しは「劣勢」の現実認識から

タリバンが、電光石火の進撃で、アフガニスタン全土を掌握した。米軍の撤退が完了する前に、カブールのアフガニスタン政府はもろくも崩れ去った。この衝撃の大きさは、計り知れない。今後も長きにわたって、この事態の衝撃は語られ続けるだろう。だが一つはっきりさせておくべきことがある。

敗北したのは、アフガニスタン政府だけではない。アメリカもまた、アフガニスタンで、敗北した、ということだ。建国史上最長の戦争に、2,400名以上の人命と1兆ドル以上の資金を投入したうえで、アメリカは、敗北した。

アフガニスタン情勢について演説するバイデン大統領(ホワイトハウスYouTubeより)

しかも、それだけではない。9.11テロ事件に接して、「われわれは皆アメリカ人だ」と考えて、アメリカと共にアフガニスタンで長期に渡り戦い続けたNATO構成欧州諸国などの同盟国も、やはりアフガニスタンで、敗北したのだ。アメリカの同盟諸国も、500名近い犠牲者を出したイギリスを筆頭に、1,000人以上の犠牲を出した。巨額の援助も、アフガニスタンに投入し続けた。そして、敗北した。

日本は、軍事部隊は派遣しなかった。しかしアメリカの同盟国として、他の地域では考えられない規模の巨額の援助と政治的な関与を、アフガニスタンに対して行ってきた。タリバン政権崩壊後のアフガニスタン復興会議のホスト国として復興支援の調整にあたり、DDR(武装解除・動員解除・社会再統合)担当国として治安部門改革にも携わり、OEF(永続的な自由作戦)支援のための給油をインド洋で行い、約70億ドルという巨額のODAをアフガニスタン警察などに投入し続けた。今さら他人事にはできない。日本もまた、アフガニスタンで、敗北したのだ。

自由主義諸国は全て、共にアフガニスタンで、敗北した。この深刻な事態の客観的な認識なくして、われわれは次の一手を構想することはできないだろう。

守るべきものを持たない軍隊の脆さ

タリバンのアフガニスタン全土の制圧にあたって最も衝撃的だったのは、アフガニスタン政府の軍・治安部隊(ANDSF)がほぼまったく戦うことなく、タリバンに降伏し続けたことだ。

首都カブールを制圧したタリバン部隊(写真:AFP/アフロ)

この事態の背景には、様々な軍事的要素、心理的要素、政治的要素がある。アフガニスタン政府の腐敗や怠慢は、今回の事態を招いた決定的に重要な構造的要因だが、それを責めるだけが全てとまでは言えないかもしれない。だがいずれにせよ、20年に渡る巨額の投資の受け入れ先となりながら、アフガニスタン政府は、戦わずして、降伏した。

代わりに絶望した民衆が、カブール空港で離陸する飛行機にしがみついたり、逃亡先を求めて流浪したり身を潜めたりしている。SNSに絶望の声を投稿しているアフガン女性たちは、自分たちが信じているものが、タリバン政権下では尊重されないと感じているがゆえに、涙を流している。しかし、アフガニスタン政府の高官たちは、そのようには感じていなかった。ただ妥協し、取引し、最後は逃亡することだけを考えていた。

結局、アフガニスタン政府は、タリバンと戦ってまで、守るべき価値を持っていなかった。米国とその同盟諸国は、「Operation Enduring Freedom(永続する自由作戦)」や「Operation Resolute Support(強固な支援作戦)」をアフガン人たちと展開させ続けながら、遂に自由の価値をアフガン人に信じさせることはできなかった。

われわれは、アフガン人に失望して、撤退することを決めた。アフガン政府高官は、その裏切りを呪った。しかしその感情を、自由を守るために戦う自らの姿で表現しようとはしなかった。

守るべき価値を持たない軍隊は、無用の長物であり、朽ち果てていくだけの存在だ。タリバンは、狂信的な宗教的な教義であっても、強く信じるものを持っていた。それが彼らに20年間の長い闘いを耐え抜く強靭な組織を作り上げさせた。アフガニスタン政府は負けるべくして負けた。同時に、アフガニスタンを起点とする「対テロ戦争」を、自由を守るための戦いとして勝ち抜こうとした米国とその同盟諸国も、やはり敗北した。

自由主義陣営は劣勢にある

米軍撤退の是非や、その方法について、米国内では議論が起こっているようだ。間違いだった、拙速だった、稚拙だった、様々な評価がありうるだろう。いずれにせよ、受け止めなければならないのは、敗北の事実だ。

代わって中国がタリバンと蜜月関係を築いて一帯一路の影響圏をアフガニスタンに広げる。アメリカと敵対するロシアやイランも、タリバンによるアメリカの影響力の駆逐を歓迎している。「クアッド」でアメリカと結ばれたインドの影響力が、アメリカの撤退によってアフガニスタンから消滅することを、パキスタンは喜んでいる。アフガニスタンからの撤退は、バイデン政権が見通す「民主主義諸国vs専制主義諸国」の世界において、自由主義陣営の退潮を象徴する事件だ。自由主義諸国は、明らかに劣勢にある。

アフガニスタンからの撤退は、自由主義陣営の防衛ラインの修正にすぎない、とは言えるだろう。だが果たして防衛ラインは、どこまで後退していくのか。見定められない不安が漂う。

果たして自由主義諸国は、劣勢を余儀なくされたまま、国際秩序の担い手としての立場も放棄していくことになるのか。
まずは、アフガニスタンにおける敗北を認め、自由主義陣営の劣勢を認めよう。現実をふまえた新しい構想を始めるのは、それからだ。

 

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国際政治学者/東京外国語大学大学院教授

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