「副業先生」プロジェクト:高校生にビジネスシーンのリアルを伝えたい!
連載『ビジネスで社会を変える共感力』#4- 「副業先生」を導入した高木学園英理女子学院高等学校のエピソード
- 高木理事長「生徒にビジネスシーンのリアルを肌で感じてほしい」
- 外資ITのマーケティング担当者が先生に。生徒を魅了したマジックとは?
「副業先生」をご存じですか?副業先生とは、各界の第一線で活躍するビジネスプロフェッショナルが、高校などの教育機関で本業の経験を生かして実践的な授業を担当する先生です。2019年4月、学校法人 高木学園英理女子学院高等学校(横浜市)は、同校に新設した課外授業のグローバルプレゼンテーション講師を、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」上で、副業・兼業限定で公募しました。
日頃から「人を巻き込むプレゼンテーション」を得意とするビジネスプロフェッショナルから、生徒たちが情報収集法や論理構成力を学び、生きた英語力を身につけるという課外授業です。そして、150 名の応募者から採用されたのは、大手外資系 IT 企業でマーケティングに従事するビジネスプロフェッショナル。当時、ビズリーチにおいて、学校が副業・兼業限定で講師を募集するのは初めてでした。

「副業先生」を募集した理由
その「副業先生」を導入したのは、学校法人高木学園の理事長である高木暁子氏です。トヨタ自動車やロレアルを経て、海外でMBAも取得するなど、長年ビジネスの分野で活躍してきた高木氏。
高木氏は、2019年4月に文理融合学部「iグローバル部」を開設しました。文理融合学部では、IoT研究の第一人者で東京大学名誉教授の坂村健氏の監修のカリキュラムで、理数系や論理思考の学習を中心にした専門カリキュラムや設備を整備し、プログラミング言語の習得や、Webサイトやアプリケーションの作成なども実践。3Dプリンターなどを完備した電子工作室も設置。
総合学習では、SDGsをテーマに3年間研究し、2年生でスタンフォード大学とオンライン講座を開催してSDGsの各ゴールについて深く学んだり、米国修学旅行中にスタンフォード大学で探究結果を英語でプレゼンテーション。そのカリキュラム内容を聞くだけで、充実した学びを得られることが想像できます。

このような充実したカリキュラムがあるなか、なぜ、高木氏は「副業先生」を導入したのでしょうか。高木氏によると、「新設した文理融合学部は、これからのグローバル・ビジネス社会を担うために文理融合の教養を身につけてもらうことが目標ですが、最新の施設を整え、新たなカリキュラムに沿って学んでも、ビジネスシーンの空気感や実情まで再現することは容易ではありません」とのこと。そこで、弊社の担当者とディスカッションを重ね、ビジネスシーンのリアルを肌で感じられる課外授業を設け、民間プロフェッショナルによる「副業先生」を公募することになりました。
この新たな取り組みに共感して応募し、「副業先生」として採用されたのは、大手外資系 IT 企業でマーケティングに従事する上原 正太郎 氏です。上原氏は、自動車メーカーやIT企業でキャリアを積んできたそうですが、プレゼン講師をするのは初めてのこと。その上原氏と高木理事長にお話を伺いました。
高木氏「ビジネスシーンのリアルを肌で」
――なぜ、文理融合学部を開設し、そのなかで、副業先生を導入したのですか?
高木氏:「iグローバル部」を新設したのには2つの理由があります。1つは、変化のスピードの速い今後の社会でも通用する普遍的な力、「創造力」を養う必要を感じたためです。技術や情報の進化のスピードが速くなり、従来の教育で身につけた知識は今や、数年で使えなくなることもあります。そのような状況に鑑みて、これからの人生のあらゆる場面で役立つ「知の基盤づくり」の教育をしたいと考えたのです。
もう一つは自身の経験からです。私は、大学卒業後、日系の大手自動車メーカーや外資系の化粧品メーカーで商品開発やマーケティングに従事し、海外でMBAも取得しました。その経験から、社会に出たあとには文系も理系もない、文理融合の知識や技術、英語力が不可欠と痛感しました。将来社会に出る生徒が多様化するビジネスシーンに対応できるようになるためには、文・理が融合し、グローバルな視点を養える教育が必要です。そのなかでも、生徒たちに、ビジネスシーンのリアルを肌で感じてほしいと思い、本講座を新設しました。

――応募のきっかけについて教えてください。
上原氏:外資企業で働いていると定年退職まで働くイメージがあまりなく、40代になりセカンドキャリアを考えておく必要があると感じていました。そのようななか、ビズリーチが副業・兼業求人特集をしていたのを見て、たまたま目に留まりました。教えた経験はないものの、プレゼンは仕事でしてきたこと。
高木理事長から、「初めての試みなので、一緒に授業をつくりましょう」と言われたのですが、本業でマーケティングを担当しており、営業向けに製品トレーニングをしているので、プレゼンや人に教えること自体は慣れています。また、米国本社向けのプレゼンも英語で行っていますので、論理的、多角的なプレゼンも慣れています。そして、グローバル企業に身を置くことによって得られた、必要とされるマインドセットなども共有することで、少しでも生徒たちの刺激になればと思いました。でも、大人ではなく生徒、しかも女子高生に教える経験はこれまでなかったので、私自身学ばせてもらいながら新しい経験ができればと思いました。

上原氏の「マジック」生徒を魅了
――どのような点でやりがいを感じましたか?
上原氏:実は、選考の面接の際に、「上原さんの授業をうけると皆さんはどう変わるのですか?」という質問があり、言葉に詰まったことがあります。上っ面な回答はしたくないと思って「一旦、持ち帰らせてください。次回お会いする機会があれば、それまでに考えておきます」と伝え、その次の回に回答したことがあります。そんなやりとりがあったのですが、10回講演のファイナルプレゼンテーションを終えたときに、生徒たちの自信に満ちた姿を見て、「授業を受けると、皆さん自信に満ちます」というのが答えだと生徒から気づかされました。
――どのような学びがありましたか?
上原氏:生徒の多様な視点に気づかされることが多く、本業に生きます。多様な視点は、私が勤めるテクノロジーを提供する会社として、「これは倫理的に正しいのか?」などと常に考えることが必要不可欠です。ボランティアではなく仕事だからこその緊張感もあります。
高木氏:上原さんはマジックを起こせる人なんです。学校に企業の方に来ていただくことは、これまで単発であればあったかもしれませんが、継続して伝えて頂ける機会はなかなかありませんでした。そのようななか、土曜の午前中に希望者に対してプレゼンの課外講座を実施し、継続して生徒たちは学ぶ機会を得ることができました。
実は、上原さんの講座がコロナ禍の影響で昨年2月に一旦ストップしてしまったのですが、上原さんの授業を受けたある生徒は、その後も練習を続けて、今年10月に北海道大学の高校生対象の海洋研究のコンテスト(最終選考の課題には、研究内容のプレゼンテーションも含まれる)で全国2位になりました。生徒の成長を実感しています。生徒からは、「上原さんは凄い人。あんな人に来てもらえて私たちはラッキーだ」「話の間の取り方や資料の作り方など、いつも真摯に答えてくださった。上達するのが自分でもわかってうれしい」などの感想が寄せられています。

この「副業先生」の取り組みは、メディアの方々にも共感していただき、日本経済新聞の「働き方innovation」というコーナーで、「『副業先生』学校に現る~報酬発生、双方に緊張感 応募殺到、生徒と化学反応~」というタイトルで、大きく掲載されたのをはじめ、さまざまなメディアで紹介され、大きな反響がありました。
その後、独立法人国立高等専門学校機構でも、2021年7月に、国立高専で唯一サイバーセキュリティ専門のコースを設置する高知工業高等専門学校のセキュリティ領域の授業を担当する副業先生をビズリーチ上で募るなど、ビジネスプロフェッショナルを学校に招き入れ、共感の輪が広がっています。
(本連載は、毎月第3土曜日に掲載します:次回は9月18日予定)
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