「アフガン・ショック」が文在寅を直撃!「こうふくの日」8.15に何が起きた

いまや朝日新聞も素っ気なく、金与正は激怒
2021年08月20日 16:00
東京通信大学教授/早稲田大学名誉教授
  • 文在寅大統領が任期中最後の8.15「光復節」演説は、アフガンショックの影響も
  • 「アフガン」で日韓関係を悪化させられず演説は批判を抑えたが、時すでに遅し
  • 北朝鮮を激怒させる演説とは?文在寅批判を一時抑えた金与正の怒りが再燃した理由

米軍撤退・アフガニスタン崩壊という「アフガン・ショック」を我がこととして受け止めたうちの一人が、韓国の文在寅大統領だろう。在韓米軍撤退を求めてきた左翼政権には大きな衝撃だった。そのため、日韓共に「こうふく」の日――日本は「無条件降伏」の日で、韓国は日本から独立の「光復節」の日――であった8月15日に文在寅大統領が大統領として行った最後の「光復節」演説は、その「アフガン・ショック」の影響を色濃く示すものとなった。

演説する文在寅大統領(大統領府HPニュースルームより)

その演説内容には、韓国左翼のハンギョレ新聞さえ、「日韓関係に対する新提案がない」と突き放さざるを得なかった。朝日新聞も8月17日付の朝刊で〈文氏、対話呼びかけ 日本批判は避ける「光復節」演説〉との見出しで演説内容を紹介はしたが、小さな扱いだった。日本批判したときだけ大きく扱うのではなく、「日本批判を避けたこと」、さらには文在寅が日韓関係悪化の原因を作り、最悪の状態にしながら放置した責任を指摘すべきだろう。

なぜ「新提案」もなく、日本批判もない演説となったのか。文政権は、同じく8月15日に起きたカブール陥落という「アフガン・ショック」により、日韓関係を悪化できない状況に至ったからだ。一方北朝鮮は、在韓米軍撤退が可能になると判断し、韓国外しの米朝会談に向かいそうだ。韓国は行き詰まったことになる。

いまさら遅い文在寅の「日韓」発言

文大統領は、演説で「(日韓は)分業と協力による経済成長を一緒に成し遂げてきた」「これからも共に歩まねばならない」「民主主義と市場経済という共通の価値を基盤にしている」と述べた。

この言葉には、実は日韓関係悪化の原因が自らの決断にあり、韓国経済に悪影響を及ぼしたとの反省が込められている。だが、今更もう遅い。就任当初に、そう発言していれば事態は変わっていたことだろう。

日韓の経済関係を「分業と協力」とする表現は、かねて専門家が使ってきたものだ。韓国経済は日本から原材料や素材を輸入して製品輸出で成長し、韓国企業の海外での資金調達は日本の金融機関が行っている。

だが文在寅大統領と高官たちはこの分業システムを全く理解せず、政権発足当初には自信満々に「日韓協力不要論」「(サムスン標的の)財閥解体論」を掲げた。それが、2018年の韓国最高裁の「徴用工への慰謝料支払い判決」を生んだ。

これが、日韓関係最悪の決定的要因になったが、大統領にはその認識がなかったのだ。

徴用工裁判についての韓国での問題点は以前にも説明した通りだが(参考:「慰安婦判決が180度転換~文在寅の「バイデン・ショック」)、こと慰安婦問題の混迷は、日本政府にも責任がある。河野洋平官房長長官は1993年の慰安婦問題談話で「直接、間接に日本軍の関与があった」と表明し、日本政府として軍の関与を認めたから、今更取り消せない。

徴用工問題も慰安婦問題も、個人としては痛ましく対応する余地があると思うが、政府間ではすでに処理された問題だ。それを無視してきた文在寅大統領の責任は重い。

南北統一に言及もセンスのなさが露呈

光復節の式典で万歳する文在寅大統領ら(大統領府Facebookより)

文在寅大統領は、日韓関係だけでなく南北関係も悪化させている。

例年の光復節演説では、南北首脳会談や統一問題に多くの時間を割いたが、今年の演説では北朝鮮への言及は驚くほど少なく、逆に次の問題発言をした。

「ドイツは普遍主義、多元主義、共存共栄を目指す『ドイツ・モデル』を構築しました」

「統一まで時間がかかるとしても南北が共存しながら『韓半島モデル』を作り上げることができるはずです」

この発言は、北朝鮮をいらだたせたことだろう。だが、文大統領はそのことを全く理解していない。大統領は2019年の演説で「2045年南北統一」と「2032年五輪南北共同開催」を大々的に提案したが、北朝鮮の怒りを招いた。大韓民国の存在を公式には認めていない北朝鮮は、今も韓国を「南朝鮮」と呼ぶ。それゆえ、南北の「平和共存」体制に同意しない。朝鮮半島での唯一合法で正統な国家は、朝鮮民主主義人民共和国だけだとの「フィクション」を維持している。

そのため、「平和共存」は、北朝鮮の合法性と正統性の放棄を意味することになるため、絶対に受け入れない。にもかかわらず、文大統領は演説で「共存共栄」と「ドイツ・モデル」に言及した。ドイツ・モデルは、西ドイツが東ドイツを吸収統一したもので、朝鮮半島では韓国が北朝鮮を吸収統一することを意味するから、北朝鮮は反発する。

大統領は、今回は「統一まで時間がかかる」と認めつつ、「韓半島モデル」を提唱した。北朝鮮は、北朝鮮が韓国を吸収する「朝鮮(北朝鮮)モデル」しか認めないのだから、とんでもない話である。

また金与正を怒らせた「米韓軍事合同演習」

金与正氏(韓国大統領府撮影)

南北統一を進めたいのであれば、文在寅大統領は南北対話再開を呼びかけなければならなかった。だができない事情があった。

実は7月27日、北朝鮮が南北の連絡通話回線を突然、再開したため、当初文在寅大統領は「通話回線再開」を、大々的に光復節演説に盛り込む予定だった。ところが、北朝鮮の金正恩総書記の妹の金与正氏は8月10日午前に次の談話を発表した。

「米国と南朝鮮軍が情勢の不安定を一層煽る合同軍事演習を始めた」

「米国が南朝鮮に展開した侵略武器と戦争装備をまず撤去すべき」

金与正氏は昨年、文在寅大統領を「天真爛漫で希望あふれる夢のような話ばかり吐き出す」「鼻もちならない振る舞い」となど非難していた。一時トーンダウンしていたが、米韓軍事合同演習の開始で、怒りの感情を再び噴出させたようだ。しかも、誰も指摘していないが、北朝鮮による「在韓米軍撤退の要求」は米朝首脳会談後は初めてで、これは政策の変更を意味する。

そして、この日の夕方に、南北連絡通話回線は不通になった。通話回線再開には、韓国からの資金供与疑惑も指摘され、これに平壌内部の勢力争いも絡んだとの観測もある。文在寅の南北対話再開への夢は金与正氏にまた蹴散らされたため、光復節演説に盛り込めなかった。

日韓関係も、南北関係もうまく行かない。韓国外しの米朝会談さえあり得る。「バイデン・ショック」に加えて「アフガン・ショック」の直撃を受けた文在寅大統領は、まさに八方ふさがりの状況にある。

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東京通信大学教授/早稲田大学名誉教授

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