コロプラ創業者で注目のSPAC米国上場、東証と菊池桃子ダンナはヤキモキ?
和製スタートアップ有望株の“大谷化”加速も- コロプラ創業者が社外取締役のSPACが米国で上場。日本のスタートアップ買収狙う
- SPACとは何か?米国で近年急増。欧州や韓国にも拡大。メリット、デメリット
- 日本では政府の成長戦略に入るも導入は未定。有望スタートアップの米国流出も
アメリカの株式市場で昨年来、株式未公開の企業を短期間でIPO(上場)させるSPAC(特別買収目的会社)が急速に増加している。日本でもその導入が議論されているが、その鈍い動きを先取りするように、日本のスタートアップを対象にしたSPACによる米ナスダックでの上場が相次いだことで、日本の株式市場の「空洞化」が現実味を増しつつある。

アメリカの貪欲さ象徴
今年に入り、ソフトバンクグループが複数のSPACを上場させ、数千億円を調達。2月にはプロ野球ロッテの元監督、ボビー・バレンタイン氏を社外取締役に迎えた「Evoアクイジション」が上場し、8月に入ってからも、コロプラ創業者の千葉功太郎氏が社外取締役を務める「ボノ・キャピタル」が上場した。とくに後者の動きは日経電子版が報じてから、千葉氏の知名度もあって日本国内のスタートアップ界隈を色めき立たせている。
SPACは未公開企業を買収する形で、通常1年程度はかかるとされる煩雑なIPOの手続きを半年程度で済むように簡略化。新興企業にとっては上場による資金調達を効率的に進められるのが魅力だ。
米SPAC Recearchによると、2015年〜19年、SPACのアメリカでの上場件数は20→13→34→46→59だったのが、昨年(2020年)になって248件と急増。これはSPAC以外の上場を含めた中でおよそ半数を占めた。勢いは加速し、今年も8月のここまでで413件、全上場件数のおよそ6割に達した。時に「空箱上場」とも言われるほど資金調達の特化した仕組みは、金融資本市場のスキーム進化が著しいアメリカ市場の貪欲さを物語るようだ。
各国に広がるSPAC、日本は…
SPACの特徴の一つが世界各国のスタートアップの「受け皿」となっている点だ。ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、ここ最近のSPACはトルコやブラジル、イスラエルといった新興国のテクノロジー企業を対象にしている。先述したボノ・キャピタルは日本を含むアジアの、ドローンやAI関連の銘柄をターゲットにしていると目されている。
アメリカの動きに刺激されて、イギリスでも今年3月に上場規制を緩和し、SPACをさらに活用できるようにした。欧州各国でもドイツ、フランス、イタリアなどで続々と広がっており、アジアでは韓国がすでに導入し、アメリカに次ぐ上場件数で活発に動いていて、シンガポールや香港でも導入へと動いている。
各国への広がりは、市場の活性化が主な理由だろうが、「空洞化」への危機感もあるのではないだろうか。新興企業の資金調達がやりづらい環境のままでは、いわゆるユニコーン企業(時価総額が10億ドル以上の未公開企業)のような有望株が出てきた場合、アメリカへの流出につながりかねない。

そして、この手の規制改革がいつもながら鈍重な日本は、2008年に東証がSPAC解禁を一時検討したものの、見送った経緯がある。しかし各国での動きを受け、政府がこの6月の成長戦略にようやく載ったところだ。「旗振り役」は経産省。タレントの菊池桃子さんとの結婚で話題になった前経済産業政策局長の新原浩朗氏(現在は内閣官房成長戦略会議事務局長代理)が主導してきたが、金融庁がSPAC解禁に難色を示している。
金融庁などが反対しているのは、通常の上場よりもリスクが大きく、投資家保護が主な理由だ。時に「裏口上場」とも揶揄されるだけに手続きをスキップした分、実力が伴っていない企業が紛れたり、粉飾決算のような問題が起きたりしかねないなどの懸念がつきまとう。アメリカでは投機性が増して、株価が乱高下して投資家の損失を出したことが挙げられている。
これに対し、経産省はアメリカやシンガポールの規制案を参考に、徹底したデューデリジェンスや買収など開⽰の厳格化や一定割合の株主による承認、運営者のロックアップ(買収後の⼀定期間の売却禁止)による安易な買収規制などを対策に挙げてはいるが、この辺りはリスクとリターン、国益とのバランスを睨みながらになりそうだ。
スタートアップ界の「大谷」流出も
SPAC導入で市場が投機的に過熱するのは好ましくはないが、しかし、現実として東証などの日本市場が空洞化する懸念が突きつけられているのではないか。日経の記事は既存の株式市場に気を遣ってか、「日本企業を合併対象とするSPACが増えれば、国内のIPOプロセスに不満を持つスタートアップの受け皿になる可能性もある」といった書き方にとどめているが、今後物心ついた時から日本の低成長時代しか知らないZ世代の起業家らが和製ユニコーン企業を成長させたとき、東証以外に選択肢を持つ意味は、小さくないのではないか。野球で言えば、大谷翔平のような有望株が日本のプロ野球を経験せずにメジャーリーグに直接流出するようなものだ。
専門家はどう見ているか。SAKISIRUでも連載中の、IPO請負人の佐々木義孝氏は「日本はカルチャー的に投資に対してネガティブな国。未上場ベンチャーや新興上場企業に投資家が多額の金額を投資することや、赤字だが投資資金さえあれば成長できるベンチャーをどんどん上場させようということにはなりにくい」と根本的な問題を指摘する。その上で、プロ野球に関する著書もある佐々木氏は「IPOも野球にたとえると、“NPB”を経ずに“2A”や“3A”に行く流れが今より進みそう」と見立てる。ビッグボードと呼ばれるニューヨーク証券取引所の“MLB”デビューはやはりハードルが高いが、ナスダックのような“マイナーリーグ”をめざすスタートアップが増える可能性はありそうだ。
一方で佐々木氏は課題も指摘する。「ネックは日本のベンチャーには英語できる人が少ないのと、海外市場は審査のハードルが低いぶん、上場申請書類や開示書類作成に関して、会計監査人や弁護士に多額のコストがかかるとも聞きますので、そのコストを賄えるのかどうか」。ただ、少なくとも語学力に関しては世代による意識の変化はあるかもしれない。野球で言えば、大谷選手の花巻東高校の先輩、菊池雄星投手はMLB進出を意識し、高校時代から英語の勉強にも力を入れていた。日本で新興企業の資金調達環境が今後も変わらないようであれば、最初から世界を目指すZ世代のユニコーン起業家が台頭してくると局面が変わる気もするが、いずれにせよ、日本市場を狙うSPACがアメリカで増えるほど東証や、新原氏ら推進派の胸中は穏やかではないかもしれない。
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