鴻海が接近!ホンダはEV市場で「台風の目」になるか
「アップルカー」受託生産説もある台湾の雄がなぜ?- ホンダが10月に本社直属の新規部署。電動化へ全社横断的に戦略を束ねる必要
- 「アライアンスにも躊躇しない」三部社長、鴻海とのトップ会談可能性の指摘も
- 「アップルカー」の受託生産の噂もある鴻海がなぜホンダに接近するのか?
ホンダは10月1日付で本社直属の組織として電動事業推進室を新設する。これまでは四輪事業本部内にある次世代電動事業企画室がEV戦略を推進していたが、格上げする。四輪車のEVシフトだけに限らず、二輪車、ライフクリエーション(汎用機)の両事業でも電動化を推進させるため、全社横断的に戦略を束ねる組織が必要になった。
ホンダが組織再編を急ぐ背景
世界の潮流として、二輪車も電動化が進む方向だ。ホンダはライフクリエーション事業では、エンジンを使う除雪機や耕運機、草刈り機などを生産しているが、こうした分野でも電動化が進むと見て、全社的な対応を急ぐ。
組織の新設に合わせて役員の担当も変える。これまではホンダの収益源である北米担当だった青山真二常務執行役員が電動化を兼任で担当していたが、北米担当を外れて電動化担当専任となる。新設の電動事業推進室は、経営会議の傘下に置かれる。収益に対して責任がある事業本部内に開発投資がかさむ割に利益がすぐに出づらい次世代事業を任せていては、目先の利益にこだわるあまりに大胆な戦略を打ち出せないと三部敏宏社長が判断した。
ホンダはすでに2040年に全世界で販売する四輪車を100%EVとFCV(燃料電池車)にする計画を打ち出している(関連拙稿:『2040年までに「EV、FCV100%」ホンダの「賭け」勝算あるか』)。大きな方向としては「脱エンジン」だが、完全にエンジンを捨てるわけではなく、クリーンなエネルギーを使って生産する合成燃料「e-fuel」の開発にも取り組んでいる。電動事業推進室はEVやFCVだけに限らず、次世代のカーボンニュートラルに関する総合的な技術開発にも取り組む。
鴻海とトップ会談シナリオ
ホンダは今年4月に就任した三部社長が、前任の八郷隆弘氏が敷いたハイブリッド中心の電動化戦略を大幅に軌道修正した。こうした動きに合わせて三部氏は「アライアンスにも躊躇しない」などと述べ、他社と新たな提携関係を結ぶことも視野に入っている。こうしたホンダの動きを虎視眈々と見つめているのが電子機器受託生産サービスで世界最大とされる台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業だ。ホンハイはホンダとの提携を視野に入れ、「近くトップ会談が開かれる可能性が高い」と、ある台湾の関係者が明かす。ホンハイの狙いは、ホンダの北米でのプレゼンスと人材にある。
ホンハイグループはいま、EV戦略を強化している。ホンハイは台湾の自動車メーカー、裕隆集団と昨年10月に合弁会社「鴻華先進科技」を設立、EV事業に進出した。EV向けのオープンプラットフォーム「MIH(メイド・イン・ホンハイ)」を開発し、相手先ブランドによるEVの設計と生産を行う戦略だ。台湾からの報道によると、合弁会社は、中国の吉利汽車や、フィアットクライスラーとプジョーシトロエンが経営統合してできた「ステランティス」とも提携し、MIHを使ってEVの合弁生産を行う計画だ。ホンハイは「MIH」をEVのOS(基本ソフト)のような存在として位置付けている。
ホンハイは、EV事業で協力を得られるサプライヤーが1200社を超えたことを公表している。日本勢では日本電産がトラクションモーターシステムを供給する。他には、中国の電池大手CATL、半導体の独インフィニオン、米マイクロソフト、クラウド大手のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などが協力する方向だ。
鴻海側の思惑は?
ホンハイの動きが注目されるのは、米アップルのスマートフォンiPhoneを受託生産してきた信頼関係から、「アップルカー」の受託生産もするのではないかと見られている点だ。ホンハイは米国内やメキシコに新工場を建設する計画も進めている。一方でホンハイにとって自動車づくりは未知の世界。乗り心地や安全面などでクルマの完成度を高める能力が欲しいところだ。こうした局面の中、北米に大きな生産・開発拠点を持ち、強い調達ネットワークを持つホンダとの関係を構築したいとの考えがあるようだ。当然ながらMIHをホンダに売り込みたいとの考えもある。
また、ホンダは最近、EVシフトに備えて希望退職を募集し、約2000人が応募した。退職金を大きく積み増した代わりに競業他社への再就職には制限があると言われている。ホンハイでは自動車関連の技術者が不足しており、ホンダを退社した技術者を特例措置で獲得したいとの思惑もあるようだ。
三部社長は7月に行われた複数のメディアとの共同インタビューで「生産ビジネスモデルの変化を意識している。過去の延長戦ではやっていけない。アライアンスを組み、守りに入らず攻めの姿勢が重要」と語った。この発言は、ホンダ1社の力だけでは早期にEV事業を成り立たせることは不可能と受け止めることもできる。
もし、ホンダとホンハイが手を組めば、ホンダは産業界で急激に進むEVシフトの流れの中で一気に「台風の目」のような存在となるかもしれない。
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