横浜市長選で自民完敗!コロナ総選挙で政権交代の序章なのか

菅首相は“党内クーデター”最大の試練
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 横浜市長選で立民推薦の山中氏が早々と当確。菅首相は大きな痛手
  • 自民党の負け方は“最悪”だが、想定内。それでも政局は菅おろしの動き必至か
  • 一部には秋の衆院選で政権交代の予測まであるが、本当にそうなのか?

史上最多の8人が立候補し、異例の注目を集めた横浜市長選は22日、投開票が行われ、立憲民主党推薦の新人、山中竹春氏が、前国家公安委員長の小此木八郎氏、現職の林文子氏らを破り、初当選を確実にした。

各陣営が勝敗の基準としているNHKの当確速報が出たのが20時の「ゼロ当」で、出口調査の数字などから山中氏の圧勝が予期される。これにより、秋の衆院選を前に菅首相が「選挙の顔」として相応しいのか自民党内で異論が一気に噴出するのは避けられない情勢だ。

官邸サイトより

予測通りの“最悪”の結末

政界関係者によると、この日昼前後に行われた複数の出口調査で山中氏が小此木氏にダブルスコアに近いリードの傾向が出ていた。近年のNHKは誤報の反省で当確に慎重になっていた中で、横浜市長選クラスの選挙で、野党系の新人候補者が「ゼロ当」で与党系の候補者や現職を打ち負かすのは異例だ。

逆に、菅首相にとっては、3月の千葉県知事選、4月の衆参3補選、6月の静岡県知事選に続いてお膝元の横浜市長選まで落としたことで、政権発足から1年近く、大型選挙全てで結果を出せなかったことになる。今後は衆院選に先駆けて、自民党総裁選を9月下旬に行うのかも含め、党内は「政局モード」に一気に突入。菅首相と二階幹事長、安倍前首相や麻生副総理らの党重鎮の間で虚々実々の駆け引きが激しく繰り広げられることになる……といった大まかな流れはどこのメディアも今夜から明日にかけて書き散らすことだろう。

選挙中から、SAKISIRUでも2度報じたように、横浜市長選の最中から山中氏の圧勝は情勢調査から予期されていた。永田町では横浜市長選の結果は織り込み済みで、週刊文春は17日発売の先週号で「菅 9.6 首相解任」を大見出しでトップ記事にしていた。パラリンピック閉会式の翌日、安倍前首相が首に鈴をつけに行き、菅首相が解散できずに首相を辞任する形で「菅おろし」が起きるという某新聞社の政治部デスク氏の見立てを紹介している。

仮に菅首相が“党内クーデター”を乗り切って、このまま選挙戦に突入しても厳しいのは変わりあるまい。個人的には菅首相が「保守かリベラルか」的な安易な党派性に陥らず、強い行革意識と問題解決志向で政権運営していたことは一定の評価をしていたが、横浜市長選の負け方は“ワーストシナリオ”に等しいと言わざるを得ない。

選挙戦を11月にまでできる限り遅らせ、ワクチンの接種率を向上させても、マスコミがワクチンの効果よりも新規感染者数を大々的に報じ続ける。なおかつデルタやラムダといった変異株の猛威が続けば負のループが続くだけで、有権者の心証が好転するのはかなり難しいだろう。すでに衆院選の選挙区情勢が厳しい現職議員の不満は爆発寸前で、政府側にいるある若手議員が筆者に「政権交代もありうるのではないか」と不安を打ち明けるまでになっている。

東京・永田町の自民党本部(oasis2me /iStock)

「政権交代」説の前に3つのそもそも論

しかし、本当に「政権交代の序章」になるかと言えば、それはまだ微妙だ。立民などの左派野党やその支持者、朝日新聞などのリベラルメディアは当面勢いづくであろうが、「横浜市長選の敗北=菅首相の大打撃」ではあっても、「横浜市長選の敗北=自民党政権の終わりの始まり」ではない。自民党総裁選でたとえば高市早苗氏が勝ったりするようなことがあれば、「初の女性首相」誕生となり、少なくともメディアからの攻勢はいまより少し和らいだ状態で選挙戦に突入することはできよう。

念のためだが、筆者の意見は渡瀬裕哉氏が述べるように、自民党は昨年の総裁選で圧勝させた菅首相を「顔」に選んだ以上、それで総選挙に臨むのが「筋」だとは思う。ただ、筆者の持論を抜きに「そもそも論」として、菅首相が続投したにしても、NHKの最新の政党別支持率(8/10調査)は、自民党が33.4%で、立憲民主党の6.4%を大きく引き離しており、野党が信頼を勝ち得てない客観的な数字は指摘しておきたい。

2つ目のそもそも論。民主党が自民党から政権を奪取したときの数字を振り返れば、民主党は自民党と支持率でトップを争うだけの競争力があり、選挙直前に自民を上回る状態で総選挙に突入した経緯がある。この点ひとつとってもいまの立民などの野党が受け皿となるだけの地力があるのか怪しいと言わざるを得ない。

横浜市長選に限っても「そもそも」がある。林市長の出馬強行はおそらく菅首相や自民党に春先の時点では想定外だったのではないか。選挙戦の実態としては「保守分裂」に過ぎず、そこに田中康夫松沢成文の知事経験者2人が参戦するという異例のカオスをもたらした中で生まれた自民党側のよもやの失策の連続を、山中陣営が逃さなかったと言えよう。

それでも「ムード」が政局の流れを作ることはある。コロナ禍の感染拡大、景気後退で国民は戦後経験したことのない「実戦」を強いられ、長期戦と化して疲弊しきっている。前例のない事態に直面しているのは政権与党も同じで、困惑と不安でパニックに陥りつつある。そうしたカオスの最中から冷静に先を読み、前例も正解もない中で、時に非情な決断を果断にかつ最適なタイミングで下した者が来たる政局で勝利するのではないか。

悲観主義者はあらゆる機会の中に問題を見いだす。楽観主義者はあらゆる問題の中に機会を見いだす」との名言を残しているのは、かのウィンストン・チャーチルだ。折しも夕方のツイッターで、企業再生コンサルタントの冨山和彦氏が「今、支持率を上げる政治手法の一つは、医師会が反対するコロナ対策施策を、反対をぶっちぎって断行して見せること。それで政治的にスタックしたら、小泉さんの郵政民営化解散のようにワンイシュー対決型総選挙に打って出ることではないか」との見解を示していたが、私も同感だ。週明けから始まる政治の季節、菅首相に限らず、ひさびさにこれはと唸らされる「決断劇」を望みたい。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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