工藤会トップに死刑判決:元ヤクザの猫組長「これで極刑は疑問が残る」
行き過ぎた厳罰か、画期的な判例か- 工藤会の判決、猫組長さん「トップが関与していないとは考えられない」
- 一方で、証言や証拠が不十分なことに「これで死刑は無理がある」
- 被告が裁判長に「生涯後悔するよ」発言、“お礼参り”の可能性は?
暴力団が起こした殺傷事件で、実行犯に対する命令など直接的な関与が確認できない中で、殺人罪などに問われた幹部を厳刑に処せるのか? 異例の注目を集めた刑事裁判で、福岡地裁は24日、九州地方最大の特定危険指定暴力団「工藤会」のトップで総裁の野村悟被告に死刑、ナンバー2で会長の田上不美夫被告に無期懲役をそれぞれ下した。今回の判決について、元山口組系組幹部で作家の猫組長(菅原潮)さんに見解を聞いた。

裁判では、4つの市民襲撃事件について野村被告が指示をしたと認められるかどうかが、争点となっていた。猫組長さんによると、トップの指示なしに部下が独断で襲撃事件を起こすことは考えにくいという。
「大きな事件にトップが関与しないということは、ヤクザの常識から考えたらあり得ない。とはいえ、実行犯に対してトップが直接指示を出すことはないので、極めて立証が難しいのです」
“疑わしきは罰せず”、“法の下の平等”といった法律論の原則から考えると、死刑判決はかなり厳しい判決と言える。一方では、暴力の歯止めとなる画期的な判決との声もある。猫組長さんは死刑判決について、複雑な思いがあるようだ。
「工藤会は、一般市民に対しても手榴弾を投げ込むとか、殺鼠剤をまくとか、容赦ない暴力を振るってきた。市民感情からすれば、死刑になって当然だ思う人がほとんどだと思う。ただ、それはあくまで感情の部分です」
明確な証拠がないまま極刑を下して良いのか、割り切れない思いがある。
「これで人を一人極刑にできるのは疑問が残る。永山基準から考えても、無理があるのではないか。こういう形で法律が運用されるのは、怖いです」
下の人間は意図を汲み取る
永山基準は、死刑を適用するかどうか、被害者が複数に渡るなどを考慮して判決を下す際に司法界で基準とされてきた。猫組長さんは、関係者を通じて判決骨子を入手。関与したと事実認定に至った理由としては
「被告人野村の意思決定によりなされたと推認できる」
「被告人野村の関与なしに、実行の指示をするとは到底考え難い」
といった文言が並んでいた。特に推認という言葉が繰り返し使われていたが、推認とは「推測し、認定すること」を意味する。トップが関与したという決定的な証拠はないということだ。
「トップから実行犯に至るまで、どういう経路で指示がおりていったのか。本来はもっと証拠を固めないといけない」
ただ、トップを守る力学の働く暴力団犯罪では、下の人間はなかなか口を割らない。
「うたう(自白する)ことはまずないです。それで刑が安くなるといってもたかが知れているし、それよりも組織から反逆者の烙印を押されることのほうがよほどマイナスになる。一生ヤクザ組織のなかで生きていくと腹をくくっている人間は、自白などしません」
トップや上層部からの指示も、あうんの呼吸で行われることが多い。
「証拠を残すようなマネはしませんね。一対一で『あいつちょっと何とかせなあかんね』、『あれ頭くるわ、気に入らんな』という曖昧な言い方しかしない。『誰々を殺せ』なんて明確な言い方は絶対にしないわけです。それでも、下の人間は意図を汲み取るのです」
含みのある言葉を忖度させ、テレパシーのごとく指示を出すというわけだ。
それでも、“疑わしきは罰せず”が法運用の原則ではある。これで野村被告の関与が事実として推認されるのであれば、安倍前首相の「桜を見る会」不正支出への関与も推認されて良さそうなものである。

「あんた生涯、後悔するよ」捨て台詞の理由
死刑判決の言い渡し終了と同時に、野村悟被告は裁判長に向かって
「なんだこの裁判は。全然公正やない。あんた生涯、このこと後悔するよ」
と言い放った。この発言がメッセージとなり、組員たちが“お礼参り”すなわち裁判官への報復を危惧する声もある。だが、猫組長さんはその可能性は低いと見ている。
「本当に報復するのであれば、あんな分かりやすいサインなど出さず、秘密裏にするでしょう。とはいえ、裁判官を襲撃するなんて大それたことをするメリットもないし、そこまでの力もない。お礼参りはまずないでしょう」
ではなぜ、そんな捨て台詞を吐いたのか。
「良くても無期懲役でしょうから、生きてシャバに出られないことは、本人も分かっている。最後までトップとしての威厳を保ちたかったのでしょう。堂々と振る舞うことが、トップの務めでもあるわけです」
猫組長さんは25年ほど以前に、野村被告と出くわしたことがあるという。
「暴力団関係者の葬儀の場で、見かけたことがあります。総裁になる前だったと思いますが、独特な空気というか、周囲が萎縮するような泰然とした雰囲気を感じました」
死刑判決は踏み込んだ判断だったかもしれないが、“ヤクザの力学”の前では、法律の建前論だけでは社会正義が実現できないのかもしれない。控訴審でどういう判決が下されるのか、注目したい。
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