横浜市長選敗北で「土俵際」菅首相に逆転の秘策はあるのか

「比例で自民」37%→16%の調査も
ジャーナリスト
  • 横浜市長選で惨敗。コロナで不人気の菅首相が小此木氏の足を引っ張ったとの評価
  • 内閣支持率の下落止まらず、自民調査でも比例投票先で激減したとされる
  • 公明党は遠山前議員の不祥事もあり戦々恐々。菅氏も二階氏も地位保全に必死

8月22日に投開票された横浜市長選は、立憲民主党が推薦する山中竹春元横浜市立大学教授が50万6392票を獲得して勝利した。当初は優勢とされた前国家公安委員長の小此木八郎氏の得票数は32万5947票で、これに及ばず。2017年の市長選で59万8115票を獲得した現職市長の林文子氏は19万6926票と、40万票も減らしている。

昨年12月、国土強靱化推進本部で、小此木氏(当時、防災担当相)と会議に臨む菅首相(官邸サイト)

ハマの名門を“潰した”責任

祖父の代から国政に携わった小此木氏が、本拠地の一部である鶴見区以外の全ての区で新人候補の山中氏に負けたことは深刻だ。しかも衆議院神奈川3区支部長の座は8月3日に中西健治財務副大臣に渡しており、退路を断った戦いだった。落選が明らかになった22日夜、小此木氏は政界引退を表明した。

「これで名門・小此木の名前は横浜から消えた。菅首相の責任は重い」
自民党の中から批判の声が上がっている。菅義偉首相は小此木氏の亡父で建設大臣や通産大臣を歴任した故・小此木彦三郎氏の秘書を務めていた。そのような関係で菅首相は自民党の推薦を得なかった小此木氏を応援したのだが、コロナ対策で苦戦する不人気の菅首相が小此木氏の足を引っ張った--多くの人がそう信じている。

もっとも衆議院選、自民党総裁選を控えた菅首相が横浜市長選をテコにしようとしたのは明らかだ。昨年9月に政権が成立して以来、今年4月の3つの国政の補選(衆議院北海道2区、参議院長野県選挙区、参議院広島県選挙区 ※広島は再選挙)を始め、千葉県知事選、静岡県知事選など主な選挙で菅首相が率いる自民党は負け続けている(衆議院北海道2区補選は不戦敗)。

自民党本部
oasis2me/iStock

止まらない自民離れ

さらに内閣支持率の下落が止まらない。対面調査を行うために「先行指数」とされる時事通信は、7月に支持率29.3%と、危険水域である30%を割り込んだ。菅首相が信頼を寄せるNHKの世論調査でも、8月の内閣支持率は29%、不支持率も52%と政権発足以来の不人気ぶりだった。実は自民党本部が8月半ばに行った世論調査は、「これよりもひどかった」と言われている。公表はされていないが、「『比例で自民党に投票する』との回答が、37%から16%に下落」というデータもあったのだ。

そうした世論の傾向を露呈したのが、横浜市長選だった。投票率49.05%は前回2017年(37.21%)を11.84ポイントも上回った。史上最高の8人が出馬したという話題性もあったのだろうが、むしろ横浜市民が積極的に自民党菅政権への批判票を投じたに違いない。一部は田中康夫氏や松沢成文氏、中には菅首相に梯子を外された林氏への同情票があっただろうが、侮れない受け皿となったのが立憲民主党が推薦した政治経験のない山中氏だった。

共産党の支持が付いたことも強味だった。立憲民主党は共産党の選挙協力を拒否したが、なんとしても国政選挙で野党共闘を実現させたい共産党は、ここぞとばかりに山中氏を熱心に応援した。

公明党も危機的状態

その一方で小此木氏から創価票は逃げたようだ。投開票日のNHKによる出口調査では、公明党支持層の80%が小此木氏に入れていたが、自己申告の調査では実態は把握できない。そもそも創価票が必ずしも自公の枠組みと連動するとは限らない。2016年の東京都知事選では、数多くの婦人部(今年5月から女性部と改称)票が小池百合子知事に入ったと言われている。

遠山氏(財務副大臣時代、官邸サイト)

致命的だったのは8月4日に貸金業法違反容疑で衆議院議員会館内にある2つの公明党議員の事務所に東京地検特捜部の強制捜査が入ったことだ。これには今年1月に緊急事態宣言中に銀座のクラブで飲食していたことが週刊誌で報道され、2月に議員辞職した遠山清彦前衆議院議員が深く関与していたと言われている。遠山氏は次期衆議院選で上田勇前衆議院議員の神奈川6区を受け継ぐはずだったが、この事件は不正を嫌う婦人部(当時)の逆鱗に触れ、公明党は同選挙区から“永遠に”撤退せざるをえなくなったと言われている。

これに内閣支持率の低迷と相まって、次期衆議院選で公明党は危機的状況に陥ると言われる。とりわけ北海道10区と広島3区は取りこぼす可能性も小さくなく、戦々恐々の状態だ。

しかも与党で過半数を割った場合、日本維新の会との連立の話も出ている。同党の馬場伸幸幹事長は8月22日にBS番組に出演し、次期衆議院選後に「与党に対していろいろな協力は考えうる」と述べた。これは維新と近い菅首相にとって生き残るための“秘策”だろうが、存在価値が低くなる公明党にとって面白いものではない。

暗雲漂う永田町(kanzilyou/iStock)

そのような中で菅首相には地位の保全しか目に入らない。二階俊博幹事長も同じだ。もっとも衆議院選が心配な二階派の議員たちは「菅擁立」に全面的に賛同というわけにはいかないが、これを二階氏は「勝馬に乗れる」と抑え込む。安倍普三前首相も、口では菅再選に賛同しながらそれを阻止すべく高市早苗前総務相を総裁選に押し出し、すでに20人の推薦人を確保したともいわれている。

そして満を持して総裁選に挑もうというのが、岸田文雄前政調会長だ。昨年の総裁選では、麻生派などの助力でなんとか議員票を積み増して石破茂元幹事長を得票数で上回ったが、将来の総理総裁を狙う岸田派の林芳正元農水大臣が衆議院への鞍替えをめざすことが決まった以上、うかうかとはしていられない。8月26日に出馬表明したものの、安倍前首相の命で岸田氏に切られた古賀誠元岸田派名誉会長の怨念など、その道を阻む者は少なくない。

8月26日午後9時現在でコロナウイルスの累計感染者は136万8338人で、死亡者は1万5757人。27日からはこれまでの13都府県に加えて、新たに8道県に緊急事態宣言が発令される。コロナは一向に収束しそうになく、政治も安定していない。日本が生き残るためにはやはり、次期衆議院選で「根本原因」を取り除くしかないのだろうか。

 

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