激化する「ワクチン争奪戦」取り残される氷河期世代の悲哀

“即行列”の渋谷「若者専用」接種は妥当なのか?
医学博士、医療ジャーナリスト
  • 新型コロナワクチン、40-50代が未だに打てていない自治体も少なくはない
  • 「人気アーティストの予約並みの争奪戦、同じ自治体の同世代でも格差が出る理由
  • ワクチン供給量の増加が第一だが、現状で40-50代の接種を進めるためには?

「ワクチンを打ちたいけれど、予約ができない」そんな声が、全国的の様々な自治体に住む人から寄せられている。ワクチン接種状況は、自治体よってかなり異なっており、中高生や若い人にまで接種を進められている自治体もあれば、希望する40-50代が未だに打てていない自治体も決して少なくはない。首都圏でも、東京都に住む筆者の友人たちは、40-50代だけではなく20代も、一回目の接種はほとんど完了していたり、予約がとれているが(東京でも区によって差があるようだ)、筆者の住む横浜市では非常に予約がとりにくい状態となっている。

また、地方でも比較的人口の多い自治体は苦戦している。そんな中、東京都は渋谷区に、「予約なしでぶらっと行ける」16-39歳を対象とした接種所をもうけ、27日から運営を始めた(初日から長蛇の列となり、一日300人の抽選制となった)。一方、世田谷区で行われている、楽天の職域接種にかなりの空きがあると聞く。

Aphithana Chitmongkolthong /iStock

予約は「人気アーティスト並み」

8月25日時点でワクチン接種率は、2回接種完了者は全体で42.5%、高齢者で86.5%となっている(1)。高齢者に続いて、基礎疾患のある人や施設従事者が接種され、現在では、ほとんどの自治体で40-50代、あるいはもっと低い年齢まで対象になっている。

接種が高齢者に限られていた頃には、「東京の自衛隊大規模会場には空きがあるようだ」(自衛隊の大規模接種は、都民ではなくても予約が可能)という声もきかれたが、現在では様相が一変し、数日おきに予約枠が解放されていた自衛隊大規模接種は、予約時間になると即座に満了になり、そもそも、予約ホームページにアクセスすることすらできない状態が続いていた。現在は、2回目接種のため、新しい予約日程の案内はない状態だ。横浜市などの首都圏近隣の大規模都市、中規模以上の地方都市でも、「予約時間になったとたんにいっぱいになってしまい予約できない」「人気アーティストの予約のようだ」という声が多く聞かれる。予約をしようとして何度も失敗し、「もう疲れた」と言っている人も少なくない。

地方都市に住む、筆者の友人(非医療職)は、非常に涙ぐましい努力をして、家族全員分の予約をとった。具体的には、自治体で予約できる接種会場の予定を全て調べ、予約時間の30分以上前にホームページに入り、リロードせずに待機し、予約時間になって数分後にしか画面がきりかわらないが、それまで粘り強く待つ。また、近隣のクリニックや病院などで、いつ予約開始がされるかの情報を、知人や、クリニックにかかっている人々から集める、あるいは、クリニックの「予約待ちLINE」に登録し、情報を得る、などである。しかし、現役世代は仕事や子育てに忙しい人も多く、ここまで時間と労力とをワクチン予約にかけられる人は少ないだろう。

CHUNYIP WONG /iStock

ワクチン接種に「格差」あり? 

同じ自治体で同世代でも、打てている人と打てていない人がいる。その違いはなんだろうか。

ワクチン予約に困難を抱えることが想定される人々について考えてみた。

大企業に勤務していない、中小企業者自営業者、パート・アルバイト

ひとつは、「職域接種」の存在だ。大企業を中心に行われる職域接種では、若い人までかなり接種が進んでいる。この問題点は、中小企業に勤務する人々、必ずしも大企業勤めではないエッセンシャルワーカー、自営業者、派遣やパート・アルバイト社員の接種が自ずと後回しにされてしまうことである(派遣やパート・アルバイトでも職域接種ができる企業も少なからずあるが)。

しかし、感染リスクはどちらが高いのかというと、リモートワークができる大企業社員ではなく、通信インフラに乏しく実際に出社しなければならない中小企業、エッセンシャルワーカー、人に会って仕事をとる必要がある自営業者だろう。また彼らは、感染したときの休業補償も、大企業より乏しいことが多く、ひとりでやっている自営業者にいたっては、感染が廃業の危機につながることもあり得る。しかし、現在、ワクチンの予約ができていない人は少なからずこういう人々だ。

●かかりつけ医がいない

また、40-50代は、まだ定期的に病院にかかっておらず、主治医のいない人も多い。開業医などにかかりつけがある場合には、そのクリニックでワクチン予約が可能だが、開業医にはかかりつけ以外を受け入れていないところも多いので、やはりワクチン予約のハードルが高い。かかりつけ以外でも予約を受け付けるクリニックもあるが、クリニックに供給されるワクチンの量は限りがあるため、10月まで予約がいっぱいというところもある。

●家族や親しい友人・知人がいない

また、ワクチン予約ができにくい要因として、広い意味での社会的な孤立もあるかもしれない。家族がいれば、忙しい場合は代わりに予約をとってもらうこともできるし、友人や知り合いからワクチン予約がしやすいルートの情報を得ることもできる。職域接種や病院関係者の接種には、家族やそれに準じる人などの関係者が受けられる場合もあり、実際に、少なからずの人がそれで予約を取っている。現在、ワクチンの予約は、開始日時が決まっており、開始と同時に満席になることも多く、多くの場合は平日の朝から夕方までの、一番忙しい時間帯の日中にパソコンの前にスタンバイする必要がある。現状のワクチン予約をひとりで行うのは、特に仕事をしている現役世代は非常にハードルが高い。

ほりりょー/Photo AC

●ITリテラシーが低い

現在、ワクチンの予約情報を得るのは、インターネットがメインだ。自治体のワクチンページは、次回の接種予約があるたびにこまめに更新され、情報発信がさかんな自治体では、空き枠が出るたびにTwitterで告知しているところもある。40-50代は、比較的パソコンやタブレットなどは使える人が多いだろうが、そうではない人もいるし、自治体の情報も一元化されていないことが多く、こまめにチェックするのは難しい。

いくつかの自治体ではワクチン予約が激戦化しており、わずかなパイを争わざるをえなかった氷河期世代の就職を彷彿とさせるのは、果たして偶然なのだろうか。氷河期世代は正社員になれなかった人が多く、その結果、家族を持てずに地域で孤立してしまっている人もいる。争奪戦がはげしくなると、上記の要素を多く持つ人と、そうではない人の間で、おのづと「格差」が開いてしまい、弱肉強食ともいえる状態になってしまいかねないが、そういった現状の姿は、果たして、生命を救うワクチンの公平な分配として、正しい姿なのだろうか。

予約開始のアストラゼネカの効果は?

原則40歳以上を対象として、主にワクチンの足りない自治体で開始されたのがアストラゼネカのワクチンだ。アストラゼネカのワクチンは、当初、血栓症という合併症が報告され、また、効果もファイザーやモデルナよりも低いとして、日本では使用が留保されていた。

アストラゼネカ接種開始に当たって、Twitterなどでは、「質の悪いワクチンを氷河期世代にまわして、氷河期いじめだ」という声も散見された。

ワクチンも氷河期世代が受難(サンサン/Photo AC)

たしかにアストラゼネカのワクチンは、ファイザーやモデルナよりも従来の株での効果は低い。現在流行しているのはほとんどがデルタ株で、デルタ株に関しては、イギリスの研究では、2回接種後の効果はファイザーが88%に対して、アストラゼネカは67%と報告されている(2)

イギリスで報告された査読前の研究では、2回接種後のデルタ株での感染予防効果はファイザー80%、アストラゼネカ67%と違いがあるが、ファイザーは比較的早く効果が落ち、一方でアストラゼネカの効果の低下はそれほどはなく、3−4ヶ月経過した後の効果は、ほぼ同等ではないかと報告されている(もちろん査読前なので、こう結論づけるには慎重でいなくてはならない)(3)

副反応に関しては、血栓症の頻度は低く(ワクチン接種10-25万回に1回)(4)、接種のメリットのほうが大きいと考えられる。

筆者の考えは、今の日本の感染状況、ワクチンが足りない状況では、「ワクチンの種類にこだわらず、どのワクチンでもできるだけ早く打つのがベター」というものだ。アストラゼネカのワクチンは国内生産できるので、今後供給量も増えていく可能性があり、空きがあればぜひ申し込んで欲しい。

争奪戦、どうすれば改善? 

ワクチン供給量が増やすことが第一だが、現状で、40-50代の接種を進めるためには、余っているところから、足りないところにまわすことも必要だろう。

例えば、筆者は、以下のようにしたらどうだろうと考える。

  • 楽天の職域接種を、世田谷区民以外の都民や近隣の県民にも解放し、予約が取れない地域の住民も打てるようにする。
  • 渋谷の「若者専用」接種は、「若者」の年齢制限を撤廃するか、あるいは、「若者専用接種」自体をやめて、東内や近県の接種にまわす。

開始された「若者専用枠」は、数が少なく、結局抽選になったので、「ぶらっと遊びに来た、ワクチンにあまり関心がない人にも打ってもらう」という目的を達成しない。「街を歩いている、あまり関心のない人にも打ってほしい」のであれば、ワクチンが希望する人におおむねいきわたってからでもよいのではないだろうか。また、その際も、年齢制限を設けないほうがいいというのが筆者の意見だ。「予約しないで打てるワクチン」を必要としているのは、若者だけではない。

上の二つはいずれも東京の話だが、地方でも、ワクチン接種が局所的に早く進んでいる地域があれば、他県から希望者を受け入れたり、足りない地域に回すことは今後必要になるのではないだろうか。これはあくまで、筆者の提案にすぎず、現場では色々と難しいこともあると思われるが、いずれにせよ、今まで接種できず、こぼれ落ちている人に届く政策が必要だと思われる。

また、将来的には、マイナンバーや個人の診療記録の一元化により、効率的で公平なワクチン分配ができるようになるとよいのではないだろうか。

参考文献

  1. 首相官邸 新型コロナワクチンについて
  2. Bernal JL et al. “Effectiveness of Covid-19 Vaccines against the B.1.617.2 (Delta) Variant” N Engl J Med 2021;385(7):585-594
  3. Pouwels KB et al. “Impact of Delta on viral burden and vaccine effectiveness against new SARS-CoV-2 infections in the UK” doi:https://doi.org/10.1101/2021.08.18.21262237
  4. 厚生労働省新型コロナワクチンQ & A

 
医学博士、医療ジャーナリスト

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