「アフガン救出作戦」日本は出遅れ、韓国は390人移送……何が違ったのか
明暗分けた決定的要因は?- アフガンから救出、出遅れた日本と390人退避の韓国、何が明暗の差を分けた?
- 空港まで自力は同じ。韓国は米国に依頼し、バス手配などいち早く脱出路確保
- 韓国軍は20年間アフガン関与。退避したアフガン人を「特別功労者」扱い
日本政府は、アフガニスタンから8月27日、邦人1人とアフガニスタン人十数名を自衛隊機に乗せ、救出した。新聞は「移送は同日で終わりになる見込み」(朝日新聞、8月28日)と、何とも冷たい言葉で綴った。一方、韓国は同日までにアフガニスタン人390人移送の「奇跡の救出作戦」を成功させた。アフガニスタン人協力者救出への出遅れは、危機対応の弱さをさらけ出し、国際社会での日本への失望を招き信頼を失いかねない。なぜ日本は救出に出遅れ、韓国は成功したのか。

ひと月前から退避方法を連日連絡
まず韓国のケースを追ってみよう。
韓国に逃れたアフガニスタン人大使館元職員によると、カブールの韓国大使館はアフガニスタン人の職員に、カブール陥落のひと月前から最悪の事態の際の退避方法を説明し、毎日確認していたという。
駐アフガン韓国大使館の韓国人職員は、ソウルからの命令で8月16日にカタールに避難したが、大使館公使は「アフガン人職員に救出を約束した」と外務省本部を説得し、22日にカブール空港に戻った。この間も、職員たちとの連絡を欠かさなかった。
韓国は米政府との間に緊急事態の協力協定を締結していたので、移送を22日には決定した。韓国軍機が8月23日に隣国パキスタンのイスラマバード空港に到着し、アフガニスタンのカブール空港との間を往復した。
日韓ともに「空港までは自力で」
日本のケースと同様、韓国が救出対象としていたアフガニスタン人は、自力でカブール空港に到着しなければ飛行機に乗ることができなかった。だが空港に到着するまでに、タリバンの検問で拘束される危険があった。
そこで、米軍が警備するカブール空港の入り口通過を可能にするために、ウエンディー・シャーマン米国務副長官は8月23日に20カ国の外務次官らと電話会談し、米国が契約するバス会社のバス提供を約束した。このバスに乗れば、米軍兵士が警備する空港入り口は通過できる。韓国は6台のバスを割り当てられ、密かに集合場所を連絡した。
翌24日に移送作戦を指揮した韓国公使は、空港から10分ほどの場所を集合地点と決め、「集合時間の30分以上前に来るとタリバンに見つかるから早く来ないように」と細かく指示した上で、「時間に遅れたら飛行機に乗れない」と時間厳守を申し伝えた。
韓国公使は、タリバンと密かに交渉し空港への安全なバス運行の約束を得たが、当日の検問で「アフガン人職員の持つ旅行証明書はコピーだ、原本でない」と、バスが止められたという。10時間以上の交渉の末、大使館公使が旅行証明書の原本を空港の外で見せることで、ようやく決着した。冷房も切れ窓も開かないバスの中で、アフガン人職員家族たちは食事もなく15時間以上も閉じ込められ、泣き声も聞かれたという。
それでもカブール空港に入った職員と家族らは、同日パキスタンのイスラマバード空港に飛び本人確認を済ませ、第一陣が25日に韓国に出発した。最終的に韓国入りしたアフガニスタン人は、390人だった。
韓国軍、20年間アフガン支援関与
日本の場合はどうだったか。
自衛隊機は、韓国軍機がイスラマバード空港を離陸した25日に、カブール空港に到着した。結果的には、この1日の違いが命運を分けた面は否定できない。翌26日に、カブール空港近くで自爆テロが行われ、計画が狂ったからだ。
およそ500人がバスに分乗しカブール空港に入る予定だったが、移送が困難になった。
ただし、自爆テロだけが理由ではない。
韓国は日本とは異なり、韓国軍が2001年から20年間アフガン支援に関わりカブール郊外のバグラム空軍基地に軍部隊を派遣し、医療施設開設や職業訓練などに携わってきた。2007年に韓国兵士1人が爆弾テロで犠牲になり、2014年には一部部隊は撤退したが、医療、職業訓練などの支援は続けた。
韓国はこれまで、海軍輸送支援団、国軍医療支援団、建設工兵支援団、アフガン再建支援団を派兵し、韓国国際協力団も活動していた。バグラム基地には韓国を含む10カ国の部隊が駐留していた。
韓国世論が早期救出を後押し
また、韓国政府は、韓国のために働いたアフガン人の通訳や職員と家族が、427人いると明らかにしていたが、36人は残留を希望し1人は該当者ではなかったという。アフガニスタン人職員と共に働いた韓国人医師らが彼らの受け入れを訴えるなど、韓国世論とメディアはカブール陥落直後から救出を求めた。
韓国政府は、彼らを「難民」扱いせず「特別功労者」として、長期の韓国滞在を認めた。また韓国に滞在しているアフガニスタン人に対しては、アフガン情勢が安定するまで「人道的特別滞留措置」がとられた。
韓国入りした390人は、5歳以下の幼児たちが100人で、若者が半数を占めるという。韓国大使館で働いた職員は「タリバンは韓国のために働いた職員を探していたから、私と家族の命もなかった」と語った。
日本とは、軍の関与も、世論の声も、全く異なっていたのだ。
日韓の明暗を分けた決定的要因
つまり、日本のつまずきと韓国の成功の差は、事前の危機対応の準備とアフガン人協力者救出の使命感といえるだろう。
その差が外交対応の2日遅れにつながり、その間に起きた自爆テロで決定的なものとなった。韓国は、軍部隊を米軍のバグラム基地に派遣していたから、米国務省、米軍との頻繁な接触や交渉が行われたことは想像できる。
また、韓国外務省は外交官を一度はカタールに退避させたが、カブール空港に帰任した外交官の「使命感」は感動的だった。一方、危機管理面での日本外交の不手際が指摘されている。
「カブールが陥落した15日、岡田隆大使はアフガニスタン国内にはいなかった。17日に日本人大使館員12人は英軍機で出国したが、大勢のアフガニスタン人スタッフらが残され、政府は退避作戦に乗り出すことになった。」(朝日新聞、8月28日)
だが、新聞報道は、カブール陥落前後の日本外交の展開と対応の遅れの真実を、まだ説明してくれてはいない。韓国政府ができたことを、日本政府はなぜできなかったのか。自衛隊機が輸送したアフガン人14人は、米国の要請によるものだったという。将来の危機管理と国民救出のために、真相と教訓を明らかにするのが記者の使命だ。
日本は協力者すら救えない国ではないはずだ。韓国の成功には、外交官の覚悟があった。日本は何を学ぶべきだろうか。
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