忖度?火消し?トヨタの自動運転車の事故報道、ネットで疑問視

5年連続広告費トップの存在感でタブー説

東京パラリンピックは28日、柔道男子の81㌔級の試合が開催されたが、2日前に選手村付近で自動運転の巡回バスにはねられ、頭などに全治2週間のけがを負った日本代表の北薗新光選手は出場を辞退した。バスの製造元であるトヨタ自動車の豊田章男社長は事故翌日の27日に自社のユーチューブ番組に出演し、「大変申し訳ない」と謝罪したが、民放局の初報時点ではトヨタ製であることが報じられなかったこともあり、事故直後からネット民の間では「大スポンサー」トヨタにメディアの追及が及び腰だったり、忖度しているのではとの見方が広がった。

事故について説明する豊田章男社長(YouTube「トヨタイムズ」8/27より)

“最強”広告主のプレゼンス

事故が明らかになった同日昼過ぎに流れた民放各局の初報では、日本テレビの「パラ選手村  自動運転バスと柔道代表が接触」、テレビ朝日の「選手村の自動運転バスと接触 パラ日本代表選手けが」のいずれも、事故車がトヨタ製であることは言及されていない。トヨタが今大会、車両を提供していることはすでに2年前に発表され、これまで車両を紹介する報道も大々的にあったことから、放送した局の記者が知らなかったとは考えにくい。こうしたことからツイッターのネット民の中にはニュースに自動車メーカー出さないあたり忖度になるんですかねと見る意見もあった。

元経産官僚で評論家の古賀茂明氏はツイッターで「トヨタが中国、米国の企業にはるかに後れを取っているのは周知の事実」「 こんな後進企業の自動運転を使ったのが信じられない」などと厳しく論じた上で、「豊田章男社長はタレント気取りでテレビに出てはしゃぐのは止めて真面目に仕事をすべきだ」と激辛の注文。さらに「マスコミは、大スポンサーのトヨタには頭が上がらないので、おそらく、こんな大ニュースでも、小さく報じるだけだと思います」との持論を述べた。

日経広告研究所が昨年11月にまとめた2019年度の「有力企業の広告宣伝費」によると、トヨタ自動車は5年連続のトップで、4708億円を計上。2位のサントリーホールディングス(3858億円)を大きく上回り、メガスポンサーとしての健在ぶりを示していた。

火消し?忖度?ジャーナリストの指摘

メディア関係者のツイートでは、フリーランスを中心に報道を疑問視する向きも。ライターの西牟田靖氏は「トヨタの自動運転車がパラ柔道の日本代表をひいて出場不能にしてしまった件、大問題だと思うんだけど、全然話題にならない。さすがの火消し」との見方を示した。また人身事故で負傷したにもかかわらず、「接触」という書き方をしていることについて、十数年来、トヨタの問題を指摘しているジャーナリストの渡邉正裕氏は日テレの記事を配信しているヤフーニュースを「この見出しの忖度ぶり、歴史に残るな」と酷評。「頭などに全治2週間のケガをした交通人身事故を「接触」ですってよ。しかも大事な試合の直前で、取り返しのつかない事故」と指摘していた。

ただ、どこか及び腰な印象のあるテレビ局より、新聞社はまだ取材する構えを見せているかもしれない。毎日新聞のパラリンピック担当記者のアカウント「毎日新聞パラ部」は27日夜、「事故は26日です。大会組織委員会は、選手村で事故があったことを公表せず、メディアから問われるまでだんまりでした」と指摘した。そもそも事故の情報開示の時点から、大会組織委が消極的だった疑いがある。

朝日新聞も27日夕方にデジタル版で配信した記事では、事故をいち早く詳報。自動運転車両のオペレーターの2人がトヨタの社員であることを明記

1人が発進や停止時のボタン操作を担当し、もう1人がドアの開閉を担っていたといい、事故当時はどこまで自動で運行を制御する状態だったのか、同庁は詳しく調べる方針。2人は、人がいることには気づいていたが、(バスが来たことを認識して)横断をやめるだろうと思った、という趣旨の説明をしているという。

北薗選手は当時、白杖(はくじょう)を持っていなかったという。横断歩道には交通整理の警備員もいたが、警備員やオペレーターは、視覚障害があることに気づかなかったとみられるという。

などと報じた。朝日の記事からはヒューマンエラーの疑いも強まっているが、元レーシングドライバーで自動車評論家の桃田健史氏は28日朝に掲載されたJB Pressへの寄稿で、「今後、自動運転を日本社会に広めていくため、トヨタのみならず自動車産業界全体として、なぜ今回の接触事故が起こったのかをしっかりと検証することが求められる」などと主張していた。

 

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