創刊SP対談 松田公太さん #2 政治と報道をダメにするのは何?

分断の時代、新しいメディアに期待すること

SAKISIRU創刊スペシャル第3弾のゲストは、松田公太さん(エッグスンシングスジャパン代表取締役、元参議院議員)です。#1 では、外食産業の危機打開に奔走する中で、5年ぶりに垣間見た永田町の裏舞台について生々しく振り返りました。#2 では、議員時代に痛感した、政治の非合理的な意思決定ぶりや、同じようなメディアの問題について新田編集長と語ります。

「#1 外食危機、今思う政治のウラ舞台」はこちら

読者が自分の考えを構築できるように

【新田】話題がメディアに及んだので、ここで松田さんにお聞きしたいことがあります。

日本を30年停滞させた戦犯は、政治も財界はもちろんメディアもだと私は思っています。同調圧力が強くて「突破」しようとする人の足を引っ張るところがあるというか。

松田さんが思う「こういうメディアがあってほしい」というのはありますか?

【松田】SAKISIRU(サキシル)には両論を併記するメディアになってほしいですね。いろいろな方が書いた記事を載せると思うんですけど、それぞれの主張を編集長が分析して両サイドの主張を載せられたら良いなって思います。そうすることで記事を読む人が自分の考えを構築できるようになりますから。勿論それは非常に大変な作業ですけどね。

【新田】なるほど。色々な方の意見を載せることは大事ですね。今回私は「右でも左でもなく前へ」というのを掲げているんですけど、リベラルであれ保守であれ、リアルな現場意識を持った人の書いた記事を載せていけたらなと思っています。今のご提案は検討したいと思います。

松田公太(まつだこうた)エッグスンシングスジャパン代表取締役、元参議院議員 1968年生まれ。筑波大学卒業後、銀行員を経て1997年、タリーズコーヒー1号店を銀座にオープン。翌年タリーズコーヒージャパンを設立し、2001年に株式上場。300店舗を超えるチェーン店に育て上げた。同社社長を退任後、ハワイで人気のパンケーキ店「エッグスンシングス」の日本進出を手がけ、パンケーキブームの火付け役に。2010〜16年、参議院議員。現在はエッグスンシングスジャパンの経営に復帰。し、コロナ時代の外食経営のモデル構築に奔走している。

【松田】ちょっと違う話ですが、「まん防」(まん延防止等重点措置)が発表されたとき、ある新聞では緊急事態宣言とまん防の違いについて一覧を掲載していました。罰金制度や適用範囲などの違いが一目瞭然。政策においても与野党の違いをわかりやすく表示する、そういった視点があるといいですね。

コロナへの対応についても、正しいか間違っているかとはわからなくても、考えさせられます。テレビは一部を切り取らざるを得ないので、そこで見られないものに気づける点でネットはメリットもありますよね。

【新田】両論併記は、大変重要な観点だと思う一方で、バランスをとろうとし過ぎると個性がなくなってしまう難しさもありますね。政治の世界でいえば「第三極」的な立ち位置というか、今までにない視点を提供したいと思います。

【松田】私がかつて代表を務めた政党「日本を元気にする会」はまさにそうでした。党内で意見が分かれると徹底的に議論してその様子を、ネットを通じて可視化していきました。

実はどこの党でも議員間の意見が違うのは一緒なんですよ。夫婦別姓に関しては自民だって分かれていますから(笑)。議員それぞれの経験や知識がありますからどんなテーマでもそうなるはずなんです。

メディアにも党派色をつけたがる日本

【松田】ところで「SAKISIRU」の名前の由来は何でしたっけ?

【新田】孟子の「先知先学」(せんちせんがく)という言葉があって、そこの「先知」の部分からいただきました。

コンセプトは「右でも左でもなく前に進む」。去年はコロナとトランプ(前アメリカ大統領)でメディアが壊れてしまったことを痛感したんです。

【松田】といいますと?

【新田】「左」のメディアがテレビを中心にコロナの恐怖を過剰に煽る。松田さんたち外食産業は、まさにその被害者だと思います。科学的な根拠のあることよりも目先の分かりやすい話に終始してしまいました。

ところが「右」は右で、大統領選で「バイデンがこんなに得票してオレたちのトランプが負けるわけがない」、はては「“闇の政府”が投票結果を操作している」という陰謀論まで飛び出す始末。陰謀論が多くの人を巻き込む怖さを実感しました。

ちょうどその頃、アゴラを辞めて新しいメディアをやりたいと思っていたので、私と同じようにメディアの状態に危機感を覚えていた方々に投資いただけないかと思ったのです。

【松田】経営者に声を掛けていったんですか?

撮影:武藤裕也

【新田】そうですね。メディアに対する問題意識を持っている経営者に声を掛けました。ありがたいことに法人と個人合わせて7者の方々が増資を引き受けてくださいました。ただ、過半数の方々がお名前の公表は辞退されました。特定のメディアの「色」がつくと世間で思われますからね。

【松田】欧米ではメディアに出資している人たちは(自分の政治主張に対して)堂々としてますよね。大統領選なんて明確に立場が分かれるじゃないですか。あれは逆に堂々と発信しないほうが「あいつは何も考えていないんじゃないか」と思われてしまうから。堂々ということが自分たちの責任だと思っているんです。

日本ではタレントや有名人がそうした発言をしたらNHKをはじめ各局から干されてしまいますよね。

私も選挙に出たとき、友人の有名音楽プロデューサーが応援したいと言ってくれて、街頭演説の話もあったんですが、結局NGに。本人はよくても彼の手がけるアイドルグループの子たちまでテレビに出れなくなるからとのことでした。そこまで影響するのは異常だなと感じましたね。私は放送法の改正も必要だなと思ってのちに活動もしました。

ビジネスの常識は政治の非常識?

【新田】放送法といえば、松田さんが議員時代、高市早苗さんが前に総務大臣をしていた時で、放送法4条(政治的公平性)違反を繰り返した放送局には電波停止の可能性があると発言して騒ぎになりました。不思議だったのは、当時、安倍政権を猛烈に批判している人たちが放送法改正に反対だったこと。

本当に政権批判をバシっとしたいのなら、むしろ4条を改正したほうが良いと感じたくらいだったのですが、私は「メディアは、本質的に最適な判断で動いているより立ち位置を維持するためのポジショントークしかしない」と痛感しました。

【松田】政治の世界もそうです。集団的自衛権の是非が問われた「安保法制」審議のとき、与党も野党もポジショントーク。私は当時の安保法制への態度を決めかねていたので、当初は、野党の党首に会合に出席してくれと頼まれた。私は「自分はもっと法案の中身をみないと態度は決められません」と言いましたが、それでも出席してくれと言われたので参加しました。与野党両サイドの意見をじっくり聞いて精査し、それで自分の案を最終的に提示しようと考えていたのです。

ところが野党側は、私が与党の話を聞こうとすると「裏切り者」扱いをしました。

electravk/iStock

【新田】参議院で法案を採決する際、松田さんたち「日本を元気にする会」など3つの少数野党は、修正の条件付きで賛成に回り、成立しました。修正内容は、国会の事前承認を必要とするように働きかけたのでしたね。

【松田】集団的自衛権の発動にあたって存立危機事態を宣言するわけなんですけど、首相を含めた4大臣会議だけでそれを決めるのではなくて、一度国会の採決を経てから宣言したほうが良いと私は思っていたんです。歯止めが効かなくなりますからね。

残念ながら時間切れで修正案には至らなかったものの、閣議決定の中で約束頂くという形で決着がつきました。

【新田】ご著書『愚か者』(講談社)にも書いてありましたが、サッカーで「0対10」で負けるよりは1点でも取り返しに行ったほうがいいという現実的な判断ですね。ほかの野党のように反対一辺倒だと、後世に大きな禍根を残しかねないからという。

【松田】サッカーよりもビジネスで例えたほうがわかりやすいかもしれませんね。交渉の場で相手は大手企業で勝ち目がないという時、「どうせ勝てないならうちの会社はこのプロジェクトに参加しないよ」ではなくて「10のうち1だけうちの社を参加させてくれ」という風にします。それをすることで少しは考えを反映させ、次のビジネスにつながる可能性が出てきますからね。

ノウハウをつかんで色々改善して次回以降勝てるようにする。「0対10」で負けると何も残らないのがビジネスの世界です。ビジネスと政治は違うとお叱りを受けそうですが。

問題解決より選挙優先

【新田】ビジネスだけではなく課題解決の思考法ですよね。日本では、政治もメディアも課題を解決するということに合理的に動けない。

でもそれ以上に(安保法制に関しては)もし今後、強権的な政権が出来て、国会の承認なしで決議がされたら、と思うと未来に大きな禍根を残すことになります。やはり、くぎを刺す人が必要なんですよ。なんで野党はそこを臨機応変に動けないのだろう。

【松田】ほかの野党が反対し続けのは「選挙のため」なんですね。何かに対して「賛成」と「反対」があって、そこの「反対」の票を取りに行く。反対を表明している議員でも「実は賛成なんじゃないか?」と思わせる節がある人もいるんです。でも反対し続けなければいけない。これがポジショントークの一例です。

票をとるために自分の政策を組み立ててしまうのは不健全。メディアも野党も与党もあまりにポジショントークに固執しすぎるとおかしなことになってしまいます。本来であれば、なぜ賛成したのか、どう修正させたのか、各議員が自分の選挙区でそれを説明すればいいのに。元気会は5人の少数政党だったから、政権側も閣議決定で済まされてしまいましたが、もし当時の野党全部で声をあげたら、本文も修正できたのではないかと思います。

撮影:武藤裕也

【新田】日本は党議拘束が厳しすぎますよね。小選挙区になってから拍車がかかってます。

【松田】もし党議拘束がなければ、相当意見が割れたと思いますよ。自民党の議員でも反対に回った人もいただろうし。政治家はそういう姿をもっと見せてもいいんじゃないかなと思います。アメリカの政党には党議拘束がないので例えば共和党の議員が信念に基いて民主党の案に賛成するようなことが良くあります。反対したからと言って罰せられることはありませんし。

そもそも反対して罰せられるということは考え方の自由を制限されているわけですから、

議員としてどうなの?って思います。国会議員は自由に自分が思ったことを発信すべきなのに、党議に縛られているようでは、国民は誰についていけばいいのかわからなくなってしまう。

【新田】党議拘束と選挙における公認システムが統制的になりすぎて、意見の多様性を奪っちゃっていますよね。政治を他山の石として、メディアも新しいあり方を考えて実践していかねばなりません。貴重なお話の数々、ありがとうございました。(おわり)

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