「10代の妊娠が沖縄の貧困の原因」河野太郞大臣の覚悟が伝わる新沖縄振興計画
避妊・性教育・父親の責任明記の「前代未聞」- 河野太郎・沖縄担当大臣のカラーが「濃厚」な新しい沖縄振興計画の中身とは
- 貧困問題を重視。10代の妊娠を象徴的に問題視するも地元紙の報道で波紋
- 社会経済指標から見える切実な政策課題。「沖縄社会の闇」への切り込みは必要
2022年度から始まるあらたな沖縄振興計画の骨組みがほぼまとまった。総じていえば河野太郎・沖縄担当大臣のカラーがきわめて濃厚な振興計画になっている。

「河野流」沖縄振興計画の特色
永田町や霞が関では、「復帰後50年も経つのだから今さら振興計画も何もない」とか「いい加減自分の足で立つべきだ」と、振興計画そのものに否定的な意見も多いが、河野大臣はそうした声にも配慮を見せつつ、沖縄を継続して支援する方針を明らかにした。とりわけ沖縄の貧困解消に対する決意には並々ならぬものがある。
内閣府が8月24日に発表した「新たな沖縄振興策の検討の基本方向」によれば、「子供の貧困対策の強化」「米軍なども活用した英語教育の重視」「沖縄ブランドのさらなる育成」「高率補助や一括交付金の継続」「エビデンスに基づく展開と検証」といったところに特色があるとされるが、今回の「基本方向」における最大の特色は、期間を明確に定めていないところと、沖縄社会の歪みの象徴である貧困問題に大臣自身の言葉で言及したところにある、と筆者は見ている。
沖縄振興計画はこれまで「期間10年」を前提に考えられてきたが、「基本方向」で示唆されたように、「エビデンスがなければ打ち切る」という政府の姿勢が垣間見える。筆者は「計画期間5年で実施、最終年は効果の検証に充て、さらに効果があると見込まれるなら2〜3年を限度に延長」というのが望ましいと考えているが、今後予算を具体化する過程で果たしてどうなるだろうか。
もう一つの大きな特色は、貧困問題へのアプローチにある。河野沖縄相は、5月に行われた沖縄地元紙などのインタビューで次のように述べている(5月15日付『琉球新報』)。
「10代の妊娠」が貧困の始まり

「10代の妊娠率とか、未婚の妊娠率、それから、結婚しても割と早く離婚して母子世帯になっちゃう。そして大学進学率が全国平均と比べても低い。なんというか、貧困の再生産みたいなところにつながりかねないものには、やはり早く対応しないといけない。やっぱりスタートが、やっぱり若いうちに妊娠してというところが引き金になっているんじゃないかと僕は思っていて。だから、やっぱり沖縄の若い人の、例えば10代なら10代の何というのか、性教育みたいなものをちゃんとやって。ある程度、責任が持てる家庭作りというのを沖縄の若い人に徹底していく必要がある」
河野氏は、沖縄における貧困の連鎖の始点は10代の妊娠に象徴される性的無知・性的放縦にある、といった独自の認識を示したが、この発言はちょっとした波紋を呼んだ。
たとえば、同日付の沖縄タイムスは識者の言葉を借りながら、「沖縄に抱かれがちな『一般論』を表層的に語り、その背景が深掘りされていない。これが沖縄担当相の発言と思うと、悲しい」(おきなわ子ども未来ネットワーク・山内優子代表理事)、「沖縄の子どもの問題への認識が浅い。こういう発想で政治をしては困る」(沖縄県ファミリーサポートセンター連絡協議会会長・與座初美)、「(政府が)必要な施策をしないまま、問題点をすり替えるような言い方で、一国の大臣の言葉として許されない」(上間陽子・琉球大学教授)といった厳しい批判を展開した。
前代未聞の振興計画
こうした批判の背景には、「沖縄を見下す発言だ」という怒りの感情が見え隠れするが、河野沖縄相は、そんな声にもお構いなく、「新たな沖縄振興策の検討の基本方向」の冒頭部分(2−3頁)に、あえて次のような一文を挟みこんだ。
沖縄の子供の相対的貧困率は全国を大きく上回る水準にあり、ひとり親家庭の貧困率などの関連指標も沖縄の子供の貧困の厳しい現状を表している。
子供の貧困を解消し、貧困の世代間連鎖を防止するためには、多くの場合、母子世帯の所得の改善が必要であり、各般の施策を通じて、ひとり親の雇用の多くが非正規雇用になっている現実を改善するとともに、正規雇用と非正規雇用の格差の是正が必要である。
加えて、母子世帯の所得を改善し、子供の貧困を解消するためには、当然に、子供の未来に対して、子供の父親にも責任があることを明確にしなければならない。
また、沖縄の子供たちが自分の将来の人生計画を自己決定するために、避妊を含めた性の知識その他結婚、妊娠・出産、子育て、仕事について学べる機会を確実に提供することが必要である。
まるで「政治家・河野太郎」が自分の思いの丈をぶつけたかのような文章だ。従来の「基本方向」には、沖縄の社会的な歪みに言及した文言はほとんど見られなかった。経済的側面が重視され、社会的側面はあまり重視されなかったのである。沖縄政策に10代の妊娠・避妊・性教育、そして母親だけではなく、父親の責任を盛りこんだことは前代未聞といってもよい。
「子供の貧困対策」は3年ほど前から、政府の新たなる重点施策として登場したが、もっとも深刻な沖縄については、沖縄振興予算とは別枠で総額14億6千万円(令和3年度予算)の「沖縄子供の貧困緊急対策事業」が実施されている。加えて沖縄県だけ特別に9000万円の奨学金も設定されたが、コロナによる沖縄の景気や雇用情勢の急速な悪化に伴い、コロナ対策事業の影に埋もれてしまった感がある。
「沖縄の闇」を表す指標の数々

しかしながら、以下に掲げるような社会経済指標を見るかぎり、沖縄の貧困、とくに子供の貧困の改善は、沖縄にとってもっとも切実な政策課題と捉えるべきだろう【()内は47都道府県中の順位】。
データ内容 | 沖縄 | 全国 | |
(1) | 子供(17歳以下)の相対的貧困率 | 沖縄29.9%(順位不明) | 全国13.5% |
(2) | 1人当たり県民所得 | 沖縄239万円(47位) | 全国330万円 |
(3) | 非正規労働者比率 | 沖縄43.1%(1位) | 全国38.2% |
(4) | 母子世帯出現比率 | 沖縄2.6(1位) | 全国1.4 |
(5) | 生活保護率 | 沖縄26.6‰(3位) | 全国16.4 |
(註)‰(パーミル)は1,000人当たりの人数 | |||
(6) | 就学援助率 | 沖縄24.2%(2位) | 全国14.7% |
(7) | 高校中退率 | 沖縄2.3%(1位) | 全国1.3% |
(8) | 高校不登校率 | 沖縄2.7%(1位) | 全国1.6% |
(9) | 少年刑法犯検挙人員人口比指数 | 沖縄56.4(1位) | 全国25.5 |
(10) | 小学校不登校率 | 沖縄1.2%(2位) | 全国0.8% |
(11) | 結婚期間が妊娠期間より短い出産率 | 沖縄30.6%(1位) | 全国18.4% |
(註)いわゆるデキ婚率。嫡出第一子に占める割合 | |||
(12) | 未成年(15歳から19歳)出産率 | 沖縄8.4‰(1位) | 全国2・8‰ |
(註)同一年齢区分の女性人口に対する割合 | |||
(資料)内閣府「沖縄の子供達を取り巻く状況」(2021年)など。 |
こうしたネガティブなデータを知ると、河野太郞氏でなくとも子供の貧困と教育を最優先に考えたくなるが、大臣は性の問題にまで踏み込み、性教育の改善から始めなければいけないと説いている。沖縄のある教員は、「文科省じゃあるまいし、余計なお世話だ。若者のセックスに沖縄担当大臣が介入するのか。それはあらたな植民地主義であり人権抑圧だ」と息巻いていたが、大臣はセックスに介入したのではなく、未成年者の無防備で無計画な性的コミュニケーションが、学習や就労の障害となり、ひいては自分自身の人生設計を狂わすことになるといいたかったのであり、保護者や学校、あるいは沖縄の大人たちの責任ある行動を求めたのである。
誰が太郞の覚悟を引き継ぐのか
もちろん、突きつめていえば、政府と沖縄県の産業育成政策や過剰と思われるほどの補助金配分といった経済財政政策が問題の根っ子にあることは否定できない。が、こうした「沖縄社会の闇」ともいえる部分に政治的リーダーが斬りこんで、溜まっていた膿を出すような行動に出ない限り、おそらく沖縄振興計画もその他の沖縄政策もけっして成就しないだろう。これまでの沖縄振興計画は沖縄社会のネガティブな側面に目を瞑ってきた。いよいよそのツケを支払わなければならない時が訪れたということである。
河野沖縄担当相の沖縄社会に対するこうした認識と覚悟を、次の沖縄担当相は果たして引き継げるのだろうか?振り出しに戻って同じことを繰り返すのだけは避けてもらいたい。沖縄にも、日本にも、もうそんなに時間はないのである。
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