「安倍前首相、高市氏支援の意向」で総裁選は始まる前に終わるのか

岸田氏の禁断の一言が引き金か
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

今回の自民党総裁選は、仕掛けや駆け引きが過去にないほど激しく繰り広げられている。4日午後になり、安倍前首相が、推薦人確保でやっとというくらいの高市氏を支援する意向だという報道を日経新聞やTBSなど各社から流れ始めた。まだ報道に懐疑的な向きも一部にあるが、安倍氏に最も近い産経新聞以外の複数社が報じている点で総裁選の潮目が大きく変わりそうな気配だ。

2019年の第4次安倍第2次改造内閣で高市氏は総務相に(官邸サイト)

岸田氏の禁断の一言が契機?

石破氏以外の候補であれば、誰が勝ってもキングメーカーとしての求心力を保持するのが本音と見られていただけに、筆者自身も一報を聞いたときは意外な驚きを持って受け止めた。

ノートを掲げる岸田氏(YouTube岸田文雄チャンネルより)

ただし冷静に振り返ると、菅首相の続投という安倍氏の基本戦略だったわけだから、それが覆ることで、安倍氏から見て自身の求心力、そして党勢の維持にはどの選択肢が良いか(安倍氏が消費増税の時に用いたフレーズ)「新しい判断」が必要な局面だ。菅氏以外でとなると、首相時代に禅譲も考えていた岸田氏が順当のはずだが、その岸田氏は「二階外し」の大胆な戦術が功を奏しすぎ、勢い余ってBS-TBSの報道番組でこんなことを言ってしまった。

自民・岸田氏、森友問題「さらなる説明を」TBSのBS番組で(朝日新聞デジタル 9/2)

森友問題をめぐる再調査を菅首相が否定しており、菅氏との差別化を狙ったつもりもあったのだろう。また本人がそもそも森友問題をめぐる安倍官邸の対応に実は疑念を持っていたと感じさせるものだ。当然、朝日新聞は喜んで記事化するわけだが、安倍シンパの保守論客を筆頭に保守層は当然のことながら激怒。安倍氏の反応はまだ表面化していないが、少なくとも麻生氏に取っては不愉快の極みだろう。

仮に岸田氏が本音で再調査の必要を感じていたとしても、安倍氏、麻生氏の「2A」の支持を取り付けることが戦略上不可欠であるのは自明の理なわけだから、ことの是非は別にして、少なくとも政略的にはわざわざ明言する必要があったのかは不思議だ。岸田氏の真の狙いがよくわからないが、いずれにせよ、安倍氏が岸田氏に不信感を抱いた可能性はある。

財務省ツイッターより

麻生氏の判断が次の焦点

さて、こうなると総裁選の行方に関しては凡百の政治記事や政治評論家によって裏舞台の動きも含めあとは詳報されるであろうが、永田町に毎日は出入りしているわけではない筆者でも見通しはある程度立つ。安倍氏の出身派閥で、最大派閥の清和会(細田派)はこれで高市氏支持に傾くだろう。下村氏は一度降りてしまったこともあり、安倍氏の存在を当てにしていただけに、再度の出馬表明は困難ではないだろうか。

河野氏(官邸サイト)

次の焦点は志公会(麻生派)の動向だ。というより、派閥オーナーの麻生氏がどうするか。既に河野太郎氏が出馬の意向を固めているが、麻生氏としては岸田氏の選択肢は先述のことで逆鱗に触れられため消えたはずだ。石破氏はもってのほか。となると、自派の河野氏か、安倍氏と同調して高市氏を押して流れを決定的なものにするかどうかだ。河野氏は昨年の総裁選で出馬を見送った経緯があり、麻生氏があまりにも強く反対すれば派閥の分裂含みも伝えられている。(追記:麻生氏は既に河野氏出馬を容認しているようなので、あとは派を挙げて全力支援するのかどうか)

菅政権の中核だった志帥会(二階派)は、新たな「主」探しでどうするか。昨年は2Aの機先を制する形で菅圧勝の流れを作り出すことに成功したが、高市氏については安倍氏が先鞭をつけてしまったため、「一番乗り」の功名はもうない。石破氏を担ぎ出すとの見方もあるが、「猟官運動」を優先するのであれば、安倍氏や麻生氏と歩調を合わせるのか動向は注目される。

平成研(竹下派)は茂木外相が不出馬の方針を変えない限りは、今回も勝ち馬に乗る戦略が基本方針だろう。安倍、石破一騎打ちだった2018年総裁選の時は平成研の参議院が石破氏を支援したが、その後の距離感は離れたままだ。

菅首相はどう動く?

高市氏が推薦人確保でやっとどころか、安倍氏の後ろ盾を得たことで大穴から本命に躍り出るという可能性も浮上してきた中で、もし河野氏が出馬すれば麻生氏の後見のあるなしにかかわらず、党員投票で大衆的な人気がどこまであるか見せつけ、議員票に流れを持ち込む戦略になる。

総裁選不出馬を表明する菅氏(3日、官邸サイト)

政策的には、ナショナリストの高市氏とグローバリストの河野氏という形で二極化し、その中間にバランサーの岸田氏、地方重視の石破氏(出馬なら)という構図になるが、個人的には退任を決めた菅首相が水面下も含め、どういう動きをするのか非常に興味がある。

そのあたりはまた日を改めて書いてみたいが、菅首相は自身の選挙すら危うい状況になりつつあり、党内にも居場所をなくしかけている。政策的には、党内の中でも改革志向(新自由主義との親和性)のポジションだから、ここまでの河野氏との近さも含めて、オモテは小泉氏、ウラは菅氏という陣立てになるのか。もしその流れなら菅氏と安倍氏との裏対決になるが、果たしてどうなるだろうか。

また、党員投票という点では、河野氏は自民支持層の中でも高い支持率を持つ。岸田氏の数字が爆上がりした日経の先の調査では、自民支持層の中で河野氏は菅首相の20%に次ぐ18%と支持を集めたのに対し、高市氏は4%に止まった。菅氏が不出馬となり、高市氏が安倍氏の後ろ盾を得たことでこの数字が大きく変わるのか、党員投票の情勢がどこまで流動化するかも注目される。

日経電子版より引用

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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