時計、お米、焼肉…五輪パラの選手に大会後の「ご褒美」を聞いてきた

大会も大詰め:重圧からの解放で見せる「素顔」
ジャーナリスト、大和大学社会学部教授
  • 新聞社時代から五輪パラを取材してきた筆者の定番質問「自分へのご褒美は?」
  • 重圧からの解放もあってのぞく素顔。思わぬものが話題に出て会見場で大爆笑も
  • 焼肉、スイーツなど食べ物もあるが、今回パラはホロリとさせるエピソードも

熱戦が続く東京オリンピック・パラリンピックの期間中、日本選手団は悲願のメダルを獲得したアスリートを対象に、試合が終わった翌朝に「メダリスト記者会見」を開いている。激戦から一夜明けた朝に、改めて大会の感想やメダルに対する思いを聞き、アスリートの言葉をお茶の間に届ける貴重な機会だ。

実は、筆者はここでいつも共通の質問をぶつけている。「大会を終えた今、自分へのご褒美はなんですか?」。緊張した面持ちで会場に入ってくるアスリートがふっと素顔をのぞかせる瞬間。彼らは時に笑みを浮かべ、サービス精神旺盛で、興味深いエピソードや回答を伝えてくれる。

「優等生」ではない素顔を見る

筆者はこの質問を2016年リオデジャネイロ大会から続けてきた。アスリートたちは本番の試合が終わった直後、主にスポーツ・運動部に所属する「番記者」たちから質問攻めにあい、メダル獲得への率直な思いや試合シーンを振り返る問いかけには、散々、答えている。一夜明けたメダリスト記者会見には同じことを聞いても繰り返しになってしまい、記者として聞くべき「旬の質問」でもなく、これでは記事になりにくい。

それではどんな質問がいいかを同僚と考え抜いて、生み出したのが「ご褒美」質問だった。アスリートは学校で言うなら、クラスを代表する真面目な学級委員長のような存在。どんなことを聞いても、お世話になった家族や支援者への感謝の言葉を忘れず、負けたのなら悔しさをバネにして次回は雪辱を期す、勝ったのなら気を抜かずに連覇する、というような形で優等生的な回答を行い、なかなか素顔をのぞかせることは少ない。

ところが「ご褒美」質問では、4年に1度のオリパラへの重圧や過酷な練習への解放感からか、表情がなごみ、普段、仲間と話しているような口調で答えてくれる。会見を生中継している大会運営スタッフから「表情が豊かになるので、ぜひご褒美質問をしてほしい」と頼まれたこともあるぐらいだ。

大爆笑も…オリンピック編(リオ大会)

まずはリオ・オリンピックで「ご褒美」質問に応対したアスリートを紹介したい。

陸上400㍍リレーの山県亮太選手
「とりあえず、マクドナルドを食べたいです。ずっとがまんでしていたんで。試合が終わって解放された日は、あのお。体にあんまり、どうなんですかね(隣の桐生祥秀選手を見て、メンバー大爆笑)、でも、本当にどこにいっても安定した味がしているんです(報道陣も笑い)。自分のご褒美としては、考えていないのですが、父親と釣りに行きたいです」

EllenMoran /iStock

競泳個人メドレーの萩野公介選手
「僕の食べたいものはラーメンで決まっています。5月末から食べていないんで、そろそろ危ないような状況なんで、精神がおかしくなってしまう(報道陣から笑い)。あとは、まずはみんなの応援をしたい。最高のパフォーマンスをしてくれると思います。会いたい人は家族なんですけど、僕の200㍍個人メドレーを見ずに(日本に)帰ってしまったので、ちょっと一言いいたいです(笑)」

卓球女子の伊藤美誠選手
「私は焼肉が大好きなので、(日本に)帰ったらお肉をがつがつ食べたいなと思っています。会いたい人は静岡の地元で応援してくださった方、練習をたくさんしてくださった選手のみなさんやトレーナーにあって、メダルを見せたいと思います」

柔道女子の松本薫選手

2016年8月、リオデジャネイロで行われたメダリスト会見で会場の爆笑を誘った柔道女子、松本薫選手(左)と大野将平選手(筆者撮影)

「うーん、食べたいものはマシュマロチョコ。20円の。知ってます?すごいんだよ(周りは大爆笑。隣にいた大野将平選手にも話しかける)。マシュマロすごいんですよ。チョコレートもしっかりしていて、クオリティーも高いんですよ(笑)。それで、やりたいことは温泉につかりたいです」

ilechka75/iStock

アーティスティックスイミングの乾友紀子選手
「私は、体重が減りやすいので、食事をたくさんたべるように気をつけてきた。(試合が終わって)体重を気にしなくてよくなったので、何を食べたいかというよりは、体重を気にしなくていいなとほっとしている気持ちです。ご褒美は、今の自分の気持ちは、早くメダルをたくさん支えてくれた人にみて喜んでもらいたいという気持ちです」

レスリング男子フリーの樋口黎選手
「帰ったら、マカロンが食べたいです。ご褒美は大相撲の優勝賞品で出てくるでっかいマカロンがあるのですが。あれを食べようと思っていたんですが。昨日衝撃の事実が発覚して、あれは食べられないということがわかった(周りは大爆笑)。すごいショックを受けています」

リオ大会では、多くの選手が大会まで食事制限をしていたので、大好物のラーメンや焼肉を食べたいと言っていたが、唯一、アーティスティックスイミングチームが練習中に疲労回復のために高カロリーの食事をとっており、大会後は逆に「自分のペースで食べたい」と言っていたのが印象的。またレスリングの樋口選手はおとなしそうな外見で、いきなり「マカロン食べたい」と言い出して、会見場が大爆笑に包まれたのを覚えている。

パラリンピック編

東京大会では、今度はパラリンピックのメダリストたちに同様の質問をしたところ、やはり表情がなごみ、面白いやり取りになった。まずは監督を含めて、12人の選手たちが登場した車いすラグビーチームの会見から。

30日、東京・晴海で行われたメダリスト会見に出席した車いすラグビー日本代表のメンバー(筆者撮影)

小川仁士選手
「僕自身はホルモンが大好きなので、ホルモンを山ほど食べたいと思っています。あと、支えてくれた家族に対して、東京大会にむけて、練習で家を空けることが多かったので、一緒に過ごす時間があれば。旅行とかはいけないんですが、公園とか、子どもと一緒に遊びたいと思います。僕も車をお化粧するのが大好きです。奥さんに銅メダルをかけながらそっと、お願いしたいと思います(ほほ笑み)」

倉橋香衣選手
「はい。なんですかね。旅行が好きなので、この状況ではなかなか難しいんですが、旅行にいけたらな思っています。友人や家族とかとゆっくり過ごしたいなと思っています。甘いものというよりも貝とかモズクとかが好きなので、それをいっぱい食べれるようなところに行きたいです。あとは昨日、カップラーメン食べて満足です」

会見日が誕生日だった中町俊耶選手
「いままで池崎さんにたくさん焼肉に連れて行ってもらっていて、ここまで強くなれたんで、はい、この後、いままでで一番いい焼肉に連れて行ってもらって、焼き肉を食べたいと思います。(池崎さん)お願いします(笑)」

多くの後輩たちに「焼肉おごって」と言われた池崎大輔選手を締めとして
「おごっていたというよりは、自分なんかもラグビーを始めたころ、すごいごちそうしてもらって、成長できた。してもらったことをやっぱり後輩にしてあげたい。ただ、ごちそうするだけでなく、肉をたらふく食って強くなる。自分たちは身体を鍛える、やっぱり肉には肉を!というので、練習後の焼肉は『これは食トレだぞ』という意味を込めて、期待をこめて、たくさんをたべてもらうようにつれていきました。これからもみんなでトレーニングしながら、食トレしながら、心身ともに強くなって行ければいいなと思っています」

chrisho /iStock

パラ競泳の14歳、山田美幸選手
「あのお、昨日もご褒美で食べてしまったのですが、試合前は脂もの、甘いものはだめなので、昨日、ケーキとたこ焼き、お好み焼きを食べました。(新潟に帰ったら)お米食べたいです。お米最高です。(おかずは?)なめたけが食べたい。あとはノリの佃煮が好きです。(やりたいことは?)私は今年、受験で、まず、勉強で集中したいなとおもっています。やりたいのはゲームで、『デイリークエスト』をほったらかしにしていたので、少しやりたいなと思っています。(将来の夢)私には精一杯やらないと届かない夢があります。外交官を目指しています。人と人とをつないで、国と国をつなぐ仕事はいいなと思って、今、あこがれています」

パラ競泳チームのキャプテンでメダル5個の鈴木孝幸選手

「やりたいことは髪を切りたい(笑)。そうですね、趣味で将棋を指していますので、オンラインでの対戦を含めて将棋をしてリフレッシュしたいと思っています。あとはやはり、イギリスから帰ってきて、そのまま大会に臨みましたので、まだ家族であえていない。家族を含め、応援してくださった方々にご報告したいなというのはある。やらなければならないことというと。博士課程の論文をやらなければならないなあと思います(笑)」

柔道(視覚障害)女子の小川和紗選手
「ご褒美はずっとほしかったのですが、ロレックスの時計がほしいです。目が見えずらくて、文字盤が見えずらいものもあって。すごく欲しくて欲しくて、かっこいいので、今まで頑張ってきた自分へのご褒美で買いたいなと思いました。食べたいのは焼肉が食べたいです(笑い)」

パラ陸上男子の佐藤友祈選手

「妻とは2019年に結婚したのですが、その時に約束したことが1個あって、それをかなえようかなと思います。結婚指輪は当然しているんですけど、東京大会で金メダルをとったらもう1個指輪、リングを買うよと約束していたので、それをプレゼントしたいと思います」

自転車競技で2冠、50歳の杉浦桂子選手

コーチにメダルをかけたのがご褒美、と語った杉浦佳子選手=(4日、筆者撮影)

「こういう結果になるとは思っていなかったので、ご褒美は何も考えていなくて。一番のご褒美は(もう)いただきました。コーチがこんなに喜んでくれたのは見たことがなかったので、それが私にとってのご褒美でした。コーチにメダルをかけてあげました。(食べたいものは?)何だろう。身体に悪いもの(笑)。(具体的には)それを言っちゃうと、その食べ物を批判することになるので、具体的にはいいませんが(笑)、いままでに身体に悪いものとか言われていたものをあえて食べに行きたいなと思います(笑)。(同世代へのメッセージ)年齢が高い方でも、運動が苦手な方がいらっしゃると思いますが、そういう方でも教え方によってすごく伸びる可能性があることを示せたかなと思います。運動が苦手な人ほど、こういう風に練習すると早くなるとか、こういう練習方法をすれば楽しくなるということを広められたかなと思います。今、ちょっと体力が衰えてきたりとか、運動苦手な人がいたら、ぜひ希望をもっていただきたい」

メダリスト会見はあす5日の大会最終日まで行われる。「Tokyo2020」のYoutube公式チャンネルで生配信しているので、ぜひ見てほしい。

 
ジャーナリスト、大和大学社会学部教授

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