QRコード決済戦争第2幕「勝利のカギ」は手数料率の安さではない
中国の先例に見る「進化系アプリ」のシナリオ- QRコード決済戦争第1幕は、大規模キャンペーンと決済手数料ゼロで急拡大
- PayPayなど有料化で第2幕へ。楽天ペイとau PAYの手数料ゼロ化で逆行だが…
- 第1幕への逆戻りはない。中国・ウィーチャットの進化系アプリの動向がヒント
QRコードやバーコードを使って支払いを行うコード決済は、2018年12月以降、QRコード決済各社が赤字覚悟の大規模キャンペーンと決済手数料ゼロを武器とした積極的な加盟店開拓、それに政府のキャッシュレス・ポイント還元事業のおかげで利用が急拡大した。その中でもPayPayは、本年8月時点で登録ユーザー数4100万人超、登録箇所数340万箇所超と、他社を大きく引き離して断トツの1位となったことは広く知られているところだ。
しかし、これでQRコード決済戦争の最終的な決着がついたわけではない。ここまでが第1幕で、これから第2幕に入る。
QRコード決済戦争第2幕
ちょうどジェット機が離陸時はエンジン全開で急角度に上昇するが、一定の高度に達するとエンジンの回転数を落として巡行速度で上昇を続けるのと同様に、QRコード決済戦争の第1幕では、大型キャンペーンや決済手数料ゼロといった、いわば力技でユーザーや加盟店の獲得を競い合ったが、いつまでも消耗戦を続けるわけにはいかない。
このためQRコード決済各社は以前から予定されていたことではあるが、今年7月ごろから次々と有料化に舵を切り、PayPayも8月19日に10月から決済手数料を1.98%(PayPayマイストア ライトプランを契約すれば1.6%)とすることを発表し、QRコード決済戦争第2幕の幕が上がった。
ところが、生き馬の目を抜くほど競争の激しいQRコード決済市場なので、すかさず楽天ペイが8月27日に、新規登録で年商10億円以下の中小店舗に限って10月から1年間決済手数料ゼロとする施策を打ち出してきた。楽天ペイはこれまで他社が決済手数料をゼロとする中で、3.24%の手数料を維持してきたが、ここにきて流れに逆行する形でゼロとするのだ。
そしてこれに続いて本来ならゼロ%から2.60%に決済手数料を引上げる予定だったau PAYも8月30日になって、新規か既存店舗かに関わらず、また売上の規模を問わず、来年9月末まで1年間、決済手数料の無料化施策を延長すると発表した。
楽天ペイとau PAYの決済手数料ゼロ化で、QRコード決済戦争はまた第1幕に逆戻りするのだろうか。私は、各社のシェアがある程度固まりつつある中で、こうした楽天ペイやau PAYの戦略はなかなか期待したような成果は上がらず、第1幕に逆戻りすることはないと思っている。
第1幕に逆戻りがない理由
もちろん手数料有料化に反発して加盟店を辞めるという店も若干は出てくるだろうし、決済手数料を有料化した会社の新規加盟店開拓のスピードも鈍るだろう。しかし、楽天ペイやau PAYが決済手数料ゼロといっても簡単に加盟店にできるところは既に加盟店になってしまっているし、決済手数料ゼロは1年間だけなので店舗側にとってそれほどのインパクトのある施策ではない。それに例えば既にPayPayの加盟店になっている店は、仮に楽天ペイやau PAYの営業努力が実って楽天ペイやau PAYと加盟店契約を結ぶことになったとしても、PayPayを解約することはせずに楽天ペイあるいはau PAYとPayPayを併用するようになると思うからだ。
加盟店としては決済の選択肢が多い方が顧客を呼び込むうえで都合がよいに決まっている。二つの決済手段を契約してコストが2倍になるのなら別だが、初期費用はゼロだし、ランニングコストは決済が行われた分だけに手数料がかかるのだから、PayPayをそのまま残しておいて、お客様がPayPayで支払うといえばその分だけ手数料を払ってお客様の要望に応えられる余地を残しておいた方がよい。
だから、決済手数料ゼロだけでは現在のPayPayの牙城を崩すには至らないだろう。QRコード決済戦争第2幕では、現在はオフラインとなっている実店舗の加盟店をQRコード決済のアプリに誘い込んでそれらをオンライン化し、ユーザーと店舗の双方にとって価値の高いサービスを提供することでQRコード決済会社の収益向上を図ることが重要になると私は思っている。
その具体的な例は中国にある。中国では2017年に、SNSのウィーチャット(WeChat)がスモールプログラム(小程序)というアプリ内アプリの運用を開始した。このスモールプログラムは、ユーザーと店舗の双方にとってとても使い勝手がよく、とくにユーザーはスマホの画面がアプリであふれかえったりすることなく、ウィーチャットのアプリだけで何でもできるし、店舗にとってもポイント付与などのプロモーションが容易にできるので、現在では非常に多くの実店舗がこれに登録している。
PayPayの狙いはスーパーアプリ?
例えば、スモールプログラム上でユーザーが興味を持っている商品のジャンルを選択すると、地図上に近隣の店舗が示されるので、ユーザーはその店舗の紹介を見て買いたいものがあれば、ウィーチャットペイ(WeChatPay)で支払いを済ませてその店に行って商品をすぐに受け取ることができる。そして実店舗まで行きたくなければ、店舗から生鮮品を始めとする商品の配送や料理の出前をしてもらうこともできる。今では物販や飲食だけでなく、旅行やゲーム、エンタメ、教育、医療など多種多様なサービスがスモールプログラムで展開されていて、中国人の日常生活に必要不可欠なものの一つとなっている。
PayPayが今目指しているのもこうした決済アプリから進化した形の「スーパーアプリ」だと思われる。だからこそ、PayPayマイストア ライトプランを契約する店舗には決済手数料を通常の1.98%から1.6%に引き下げて、PayPayマイストアの登録店舗を増やそうとしているのだろう。
9月1日からイオンもイオンペイ(AEON Pay)というQRコード決済を始めるとともに、これまでグループ内でバラバラだったアプリをアイイオン(iAEON)というアプリに統合したが、これもいずれはグループ外の外食や配車アプリなどを取り込んで、ウィーチャット・スモールプログラムのような進化形アプリにすることを目指しているのではなかろうか。
QRコード決済戦争第2幕は、手数料勝負ではなく、決済アプリの内容の勝負になりそうだ。
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