ヤフー、ANA、アミューズ…企業の「都心オフィス離れ」は本物か
「脱東京」も続々…オフィス市場今後は?- 大手企業オフィスの「脱東京」「脱オフィス」の流れは本物か?
- 今年だけ、東京だけ企業が逃げ出しているような報道だが、注目すべきデータ
- 筆者は「脱東京」の情報に懐疑的。コロナ後も続くかどうかは全くの未知数

企業の都心オフィス縮小や、地方移転の動きが相次いでいる。Zホールディングス傘下のヤフーは、都心の2拠点(千代田区、港区)のオフィスを約4割縮小する方針だという。
※参考:ヤフーが東京拠点4割縮小 進む在宅、オフィスに転機(日本経済新聞 8/25)
また、ANAホールディングスは、東京都内のオフィス面積を2021年度末までに15%縮小することをすでに明らかにし、汐留の本社オフィスも約1割程度削減する予定だ。他にも総合エンタメ企業のアミューズや人材派遣大手のパソナなどが本社機能の地方移転などをすでに実行または計画している。
このような企業の動きは「脱東京」や「脱オフィス」と表現される。コロナ禍によるリモートワークの普及や働き方改革によって、都心の企業がオフィスの縮小や、地方移転を選択するのは当然だろう。これまでオフィスで行っていた業務の多くが在宅勤務に置き換われば、企業は割高な賃料を支払って都心のオフィスを維持する必要がなくなる。
また、都心から地方への企業の本社機能移転は、企業とともにそこで働く人の移住も期待できるのだから、経費節減を図れる企業だけではなく、人口減に苦しむ地方行政にとっても、この流れはまさに僥倖といえるだろう。
いいことづくめのような「脱東京」「脱オフィス」だが、しかし、企業の「都心のオフィス離れ」という動きが今後も続くかどうかは全くの未知数であり、筆者は懐疑的な立場だ。
都心オフィスの空室率は上昇傾向、しかし…
企業のオフィス面積縮小や、地方移転などを受けて、都心オフィスの空室率は上昇傾向にある。日経新聞によると、7月の東京都心オフィスの空室率は前月比で0.09ポイント上昇し、6.28%だったと伝えている。
※参考:7月の東京都心オフィス空室率、0.09ポイント上昇の6.28%(日本経済新聞 8/12)
昨年7月の空室率(新築・既存含む)が2.77%だったことを考えるとかなり急激に空室が増えたことが分かる。
空室率の上昇に伴い、都心オフィス賃料についても下落傾向が顕著だ。オフィス仲介大手の三鬼商事(東京都中央区)のデータによると、東京ビジネス地区の2020年7月の平均賃料が23,014円(1坪当たり)だったのに対し、今年7月の平均賃料は21,045円まで下落している(前年比マイナス8.5%)。
このデータだけを見ると、東京都心では確かに「オフィス離れ」が進行しているようだ。だが、注意しなければならないのは、これらのデータは面積が100坪以上の大型オフィスのものであるという点である。
小規模オフィス賃料も下落傾向だがかなり小幅
不動産情報サービスのアットホーム株式会社(東京都大田区)では、東京20エリアの小規模オフィス募集賃料のデータを公表しており、その内容からは大型オフィスと小規模オフィスが少し違った動きをしていることが分かる。このデータによれば、東京20エリア2021年上期 の超小型(5坪~25坪)・小型(25坪~50坪)の募集平均賃料はともに下落しているが、その下落幅は大型オフィスと違いかなりの小幅だ(アットホーム調べ)。
超小型オフィスの募集賃料は前期比マイナス1.8%、前年比マイナス0.3%、小型オフィスは前期比マイナス0.3%、前年比ではプラス0.8%となっており、大型オフィスの前年比マイナス8.5%と比べると明らかに下落率が低い。
これら二つの調査結果について、対象やエリア、調査手法に差があるため単純比較はできないが、それらを踏まえてもコロナ禍の影響を大きく受けているのは明らかに大型オフィス市場で、小規模オフィス市場が受けている影響は「現段階」では少ないと考えられる。
脱東京、脱オフィスだけに目を奪われる既存メディア
「都心のオフィスは空室率が上がり続けているから企業の脱東京、脱オフィス化が進んでいる!」と、既存メディアはこぞって報じている。もちろん、大型オフィスの空室率は上がっているし、都心のオフィスを縮小したり地方に移転している企業がいくつもあるのだから、メディアがそう報じるのは間違いではない。
2021年上期に首都圏外へ転出した企業は186社となり、6月時点で150社を上回ったのは過去10年で初めてで、このペースが続くと、今年、首都圏から転出する企業は2002年以来19年ぶりに300社を超えそうだ(帝国データバンク調べ)。
これは当然、リモートワークの普及や働き方についての意識が企業単位で変化したことの表れだと言っていいだろう。
参考:帝国データバンク 企業の「脱・首都圏」、過去最多ペース 首都圏外への本社移転、半年で初の150社超
だが、ここで注意したいのは、首都圏から地方への転出は今年に限ったことではなく、毎年一定数の企業が首都圏から地方へ、または地方から首都圏へという移動が常に行われているという点だ。

今の報道だけを見ていると、まるで今年だけ、東京からだけ企業が逃げ出しているような印象を持つ。しかし、今年上期の首都圏への転入企業は172社で、年間の転入企業数が過去最多だった2015年に並ぶ高水準となっていることにも注目しなければならない。都心オフィスの物件数増加、賃料の値下がり、その他さまざまな要素が影響していると考えられるが、いずれにしても今年の上期は首都圏からの転出企業も増加したが、首都圏への転入企業も増加したのである。
今年、首都圏の企業数動向は2010年以来11年ぶりの転出超過が予想されている。ただし、首都圏で緊急事態宣言が延々と繰り返される状況を考えれば、転出超過はむしろ自然だろう。
今後の都心オフィス市場の動向は
コロナ後のオフィス市場を占ううえで欠かせないのは、なぜこれまで多くの企業が都心にオフィスを置いたのかという根本理由を知ることだ。国土交通省がコロナ前に国内上場企業を対象に「東京都内に本社機能を置く理由」を聞いたところ、もっとも多い理由は「取引先が多いから」で、次が「社員等を雇用しやすいから」だった。
これらの理由をリモートワークや働き方改革などで補完、置き換えられる企業については、コロナ後もオフィス縮小や地方移転が続くと考えられる。特に、リモートワークがコロナ後も社会に定着すればオフィスの小型化は避けられないだろう。
一方で、都心部の顧客の多さや雇用環境の良さをリモートワークや働き方改革で補えたとしても、政府機関の集積、海外アクセスの良さ等を考えれば、企業が都心にオフィスを置かないデメリットは多大だ。本項冒頭で紹介したヤフーも、あくまでオフィス面積の縮小を行うだけで、本社機能は都心に置いたままだし、ANAも同様だ。
山梨へ本社を移転したアミューズも渋谷のオフィスは並行して使用する。淡路島への移転で話題となったパソナも、営業部門などの社員約3400人は東京大手町に残留するのである。
これらを踏まえてあらためて言うが、都心の大型オフィスのあり方が今後問われるのは間違いないが、脱東京、脱オフィスの流れがコロナ後も続くかどうかは全くの未知数であり、筆者は懐疑的な立場である。
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