「安倍路線の継続」を警戒 〜 韓国紙は「ポスト菅」をどう報じたか
石破氏には希望的観測、高市氏は「眼中なし」- 韓国でも菅首相の自民党総裁選不出馬には衝撃。次期首相占う報道を分析
- 「安倍路線と決別するか」が関心事。岸田氏ら候補者についても一面的な報道
- 日本の記者が書けないことを書き、偏見を捨て日韓関係に資する記事を求む
韓国のメディアは、菅首相の自民党総裁選辞退に衝撃を受けた。聯合ニュースは、時々刻々の状況を速報するほどの関心を示したが、5日以降は静観の姿勢に変わった。日本政治の展開を見通せないのだ。韓国メディアは、ポスト菅の行方に大きな関心を寄せるが、日本政治を分析する力が不足し、先を見通せる記者がいないという実態を露呈している。

「安倍路線と決別するか」が関心事
文在寅政権を支持するハンギョレ新聞は9月6日、日本の次期首相について観測記事を報じた。他の東京特派員は沈黙し、日本政治の行方を分析できずにいる。
ハンギョレ新聞の東京特派員は、日本の政変を「安倍晋三路線から日本政治が決別するかどうかの分かれ目になる」と書いた。この視点はなかなかよくできており新聞記事としては評価できるが、分析はかなり弱い。
まず「安倍晋三路線」とは何かについて、きちんと説明していない。韓国では「安倍晋三」と書くと多くの読者が反感を覚えるため、その感情と偏見を利用し、定義も説明もないままにごまかしているに過ぎない。
次期首相候補の人物評も“切り取り”気味
次期首相候補について、ハンギョレ新聞は次のように書いている。
- 岸田文雄=自民党リベラルだが、当選狙いの安倍路線
- 石破茂=安倍前首相最大のライバル、日韓関係を劇的に改善するだろう
- 河野太郎=最大の知韓派だが韓国と対決政策
- 高市早苗=極右女性政治家で当選可能性はない
1人ずつ見ていこう。
まず岸田氏だが、「リベラル路線」とはいえ、2015年に「日韓慰安婦合意」を外相としてまとめた当事者であり、当然、合意を反故にした文在寅大統領に怒っていることについては、指摘されていない。
石破氏については「日韓関係改善」の期待がかかっている。これはハンギョレ新聞の報道だけでなく、韓国世論も同様のようだ。だが単に、「石破なら韓国の主張を受け入れる」と誤解し、希望的観測を抱いているに過ぎない。しかも現実の石破氏の状況といえば出馬さえ微妙で、出ても当選の可能性が低いことは伝えなかった(現に6日夕方現在、石破氏は出馬を取りやめ、河野氏の支持に回るとの報道も出ている)。「安倍首相の最大のライバル」というのも事実と異なる。
河野氏については「最大の知韓派」とする分析は正しいが、「だから韓国にはっきりものを言う」というもう一つの面には、ハンギョレ新聞は触れていない。外相時代の2019年に、徴用工問題を巡り、韓国の南官杓駐日大使を外務省に呼んだ際、韓国側の発言を遮って「きわめて無礼」と述べたことを忘れているのか、淡い期待があるようだ。また、河野氏が、父親の河野洋平氏が「慰安婦への軍の関与があった」と表明したことを批判している点について書かないのは、お粗末極まりない。
高市氏に至っては「極右政治家」とレッテルを貼り、切って捨てている。韓国の報道は、安倍晋三首相も「極右政治家」と決めつけるが、日本では極右の政治家は日本の首相にはなれないし、なれたとしても長期政権を維持できない、との日本社会の現実が、わかっていないようだ。「極右」であることを理由に、端から物の数に入れていない。
誰がなっても日韓関係改善はない
はっきり言ってしまえば現実には韓国が期待するような対応は、誰が総理になったところで起きない、と断言できる。日韓関係悪化の本当の原因は、日本側ではなく文在寅大統領の対日政策失敗にあるからだ。

韓国紙は新総理の誕生で「冷え込んだ日韓関係に新しい風が吹く」「韓国は、日本の首相交代のチャンスを生かすべき」との期待も報じた。また、岸田氏や河野氏、石破氏を「韓国に理解ある政治家」と説明している。
だが、慰安婦合意を破り捨て、徴用工裁判での「日本製鉄への賠償支払い」判決を文在寅大統領が承認し国際法に違反した、と日本政府ならびに多くの日本国民は感じている。その反省と取り消しを韓国が明らかにしない限り、誰が首相になっても「対韓強硬路線」、つまり韓国が言うところの「安倍路線」を変えることはできない。
だが、この真実を韓国の新聞は書かないのだ。
日本の記者が書けないことを特派員は書くべき
韓国紙にはもう一つ、注文を付けたい。ハンギョレ新聞は、左翼系のメディアだから自民党政治が嫌いだとしても、日本政治の現実を事実通り伝えてほしい。
新聞の海外特派員は、その国のメディアが書く内容を、そのまま転電する「木霊(こだま)記事」は書ける。しかし、日本の記者も「菅退陣」の本当の理由や真実を、なかなか書けていない。取材力がないのか、忖度なのかはともかくだ。
だいたい日本の新聞記者は「菅首相総裁選挙辞退」情報を、前日の夜に入手できなかった。発表前日の深夜には、自民党元老のもとに「菅辞退」の情報が届いていたにもかかわらず、だ。なぜ、そこまでの取材力が日本の記者にはなかったのか。これを韓国の記者なら書けるはずなのだ。
菅首相は「総裁選辞退発表」の前日に、自民党の二階幹事長を尋ね会談した。この話し合いに異変を感じるのが新聞記者なのに、直後に「総裁選出馬の意向」と報道した。その日本メディアの報道に、真実を知る記者や政治家に「本当か」と問いただすのが、海外特派員の取材力とセンスだろう。
にもかかわらず、韓国の東京特派員は一様に、「支持率低下で退陣」「党員票、議員票集まらず」など日本の新聞記事をなぞった。
偏見を捨てて日韓関係に資する記事を
韓国の東京特派員は、「日本の新聞記者にも書けないことがあり、遠慮している事情がある」との現実を理解する必要があろう。それを遠慮なく書ける特派員の使命を考えてほしい。
本来、隣国の政治の行方と流れを書くのは、海外特派員の使命である。また、日頃の取材の積み重ねに加え、歴史観がなければ、将来の見通しを書くことはできない。それを、「極右政権の継承か否か」といった偏見ばかりの記事を書くようでは話にならない。
少なくとも過去の日本人特派員は、韓国について日本人の偏見を批判し、誤解を解く記事に挑戦し続けたから、あえて言わせてもらうが、韓国の記者にも韓国社会の日本に対する偏見を解くような解説を、今後は期待したい。
それこそが、日韓の未来のためになるのである。
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