消費税増税を不問とする高市早苗氏の「増税話法」

安倍氏のような「類稀なる才能」!?
国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員
  • 自民党総裁選に立候補した高市早苗氏の増税に関する話法を考察
  • 金融所得増税などの話題を作り、真の狙い(消費税増税維持)を浸透
  • 安倍元総理のように支持者を誘導しながら、増税を実現する能力?

自民党総裁選挙に立候補している高市早苗氏の増税話法が見事であったので、その手法について論評したい。

高市氏が消費税増税論者であることに異論はないだろう。実際、彼女は総裁選挙立候補の記者会見で「消費税を再び増税することは政治的な困難が伴うため、消費税の引き下げは行わない」という趣旨を述べている。まるで二階氏のような消費税増税を肯定する発言だが、彼女は2017年衆議院選候補者アンケートでも消費税10%増税に「賛成」と回答していることから、その消費税増税に対する姿勢は筋金入りと言って良い。

高市氏(総務相時代:総務省サイトより)

高度なセルフイメージコントロール

一方、高市氏は総裁選挙出馬時に月刊Hanadaや自身の著作で、個人の金融所得課税を20%から30%に引き上げる増税案、企業が保有する現預金課税の導入、炭素税などに言及したことで、その積極的な増税姿勢に対して厳しい批判を浴びることになった。

そのため、増税批判を受けた直後、高市氏は自らに親和的な動画番組である虎ノ門ニュースに出演し、インフレ率2%達成するまでは上記の金融課税等を見送ることに言及し、自らの増税姿勢に対する批判を打ち消す行動に出ている。その結果、同番組視聴者を中心にSNS上で「高市さんはインフレ率2%を達成するまでは金融所得増税などは行いません。同番組で真意を見てください」とする主張が拡散されるようになった。

筆者は高市氏の支持者向けセルフイメージのコントロールに非常に感銘を受けた。

普通に考えたならば、高市氏が主張するインフレ率2%目標を達成するには「安倍政権が10%に引き上げた消費税を引き下げること」が近道であることは議論の余地はない。しかし、上述の通り、高市氏は消費税増税論者であるため、消費税減税というインフレ率2%目標達成に向けた王道を歩むことはできない。

そこで、高市氏はあえて一連の金融所得増税などに触れて話題を作り、その上で「増税を先送りにして見せた自分」を支持者向けに演出し、自らの支持者の視線を「消費税増税肯定論者としての高市」から逸らして見せた。最初から自分が通したかった真の狙い(消費税増税維持)を支持者に受け入れさせる「増税話法」として極めて高度なやり方だ。

写真:ロイター/アフロ

本人も応援議員も増税にシレッと

また、インフレ目標2%達成後に一連の増税案を導入することを示唆すること自体が経済活動に負の期待を醸成するため、インフレ率の目標達成を困難にすることなどには触れない点も見事だ。その結果として、一般の動画番組視聴者には分かるはずがないので、増税示唆の問題点も触れられることなく、「新たな増税は遥か未来の関係ない話」という理解だけが作り出されることになった。

さらに、高市氏を推す国会議員には昨年春に「消費税減税を求めて記者会見を開いた国会議員」が少なくない。そのため、本来であれば、その消費税を巡るスタンスの矛盾は問題となってもおかしくない。しかし、税制の論点自体から消費税減税の是非を外したことで、それらの国会議員らが消費税増税論者の高市氏をシレっと何事もなかったかのように応援することが可能となっている。

このように高市氏の増税話法が極めて巧みであることは認めざるを得ない。

彼女には安倍元総理のように、支持者の意識を誘導しながら、消費税再増税や金融所得課税の増税を実現する能力がある。仮に自民党総裁になった場合、今後も支持者をうまく乗せながら、増税政策という難題を実現していくことができるはずだ。

これは他の総裁候補には無い類稀なる才能と言えるだろう。

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国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員

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