「人と人が繋がるモニュメントを」協栄産業が隈研吾氏と展望する「21世紀のものづくり」とは
創業75周年、東品川から始まる「新しい物語」2022年7月、創立75周年を機に、慣れ親しんだ渋谷松濤から品川シーサイドに社屋を移転した協栄産業株式会社。新社屋には世界的建築家、隈研吾氏プロデュースのモニュメントが設置されました。
創業時の金属雑貨に始まり、近年の3Dプリンターなど時代に合わせた「ものづくり」に挑戦してきた同社と、デジタルとSDGsの潮流にあって建築の世界に新たな価値をクリエイトし続ける隈氏。両者がモニュメントに込めた思いとは?協栄産業の平澤潤社長と隈氏が語り尽くします。(聞き手はフリーアナウンサーの根本美緒氏)。
デジタル技術の特徴最大限に
【根本】協栄産業さんが新社屋の建設に当たり、モニュメントを隈さんに依頼された経緯をお話しいただけますか。
【平澤】私の友人が隈事務所のディレクターで「よかったら新オフィスに隈先生の作品を加えてみたらどうか」と提案を受けたのがきっかけです。これもご縁だと思い、ぜひお願いさせていただいた次第です。
【根本】依頼に当たって特に重視されたポイントはあったのですか。
【平澤】お客様、仕入先様が当社にお集まりになることも多いので、私どもだけでなく、お客様、仕入先様も含めた三者がリラックスして、できれば創造性を発揮できるような場所にしたかったのです。協栄産業の協の字は力が三つ。お客様、仕入先様、私どもが「三方よし」になることは、当社が創業時に社名に込めたほどのこだわりでもあります。
【根本】会社のそもそものコンセプトが、皆さんにハッピーになるようにというものなのですね。隈さんがこだわったポイントはどのあたりだったのでしょうか。
【隈】新しい時代が必要とするモニュメントへの挑戦です。モニュメント自体が美しいものは世の中にありますが、コミュニケーションが自然に起こるような、人間をつなげるモニュメントを作りたい思いがありました。
【根本】実際に協栄産業さんの技術も使われたと伺いました。
【隈】今回の作品を作るのにすごく役立つ面白い技術を協栄産業さんが既にお持ちでした。木のピースを集積しているモニュメントは、一つとして同じジョイントがありません。その複雑なジョイントを、協栄産業さんの3Dプリンターといった、デジタル技術の特徴を最大限生かしました。
モニュメントがこの形にできたのも、一つ一つ違うものが大量生産のように簡単に作ることができるという今のデジタル技術の特徴を最大限生かしたからこそなのですね。そして、それを結実させる協栄産業さんの技術なしには実現しなかったと思います。
【根本】隈さんにとっても、新たな発見があった作品になったのですね。
【隈】たくさん発見がありました。建築は、実は割と古い技術で作られた世界なのですが、協栄産業さんが手がけておられるデジタル技術を見ていると、建築の世界も大きく変わっていくことができるという実感が、このモニュメントを通じて確認できました。
今、建築はものすごい転換期。20世紀は、コンクリートと鉄で大量生産という世界でしたが、これからはデジタルの技術によって、再現性の難しい希少なものでも大量生産と同じように作りやすくなります。一方で、コロナで私たちのライフスタイルの変化もあって自然に回帰したいという変化もあります。そうした潮流と技術革新が一緒になって、すごく面白い時代が来ましたね。
【根本】平澤社長、いかがですか?
【平澤】当社は3Dプリンターの販売から造形サービスまで手掛け、それなりに腕を磨いてきたつもりではあるんですが、先生に認めていただけて、本当にありがたいです。
「柔らかい空間」求める時代
【根本】今回の対談を機に、協栄産業さんを初めて知った読者の方もいらっしゃるかもしれませんので、平澤社長から改めてお話いただけますでしょうか。
【平澤】今年で75周年。設立当初は金属雑貨や電気器具の販売をしておりました。現在は半導体、電子デバイス、金属材料、産業機器、システムのソフトウエア、ソリューション開発、それに加えましてプリント配線板や電子機器の製造をやっております。時代と共に、世の中から必要とされるものを供給できるように、常に変革を推進してきました。
【根本】隈さん、そうした「時代」への意識は建築にも通じませんか。法隆寺の建築にご自身の作品を重ね合わせたという記事をお見かけしたことがあるのですが、隈作品の特徴といえば、木をふんだんに使われるところ。多様性や共生、今でいうSDGsといったコンセプトに近いものを以前から意識されていたのでしょうか。
【隈】SDGsという言葉は21世紀になってからですが、昔から「もうコンクリートと鉄の空間にはいたくない、きっともっと優しい柔らかい空間にみんなが引っ越していく時代が来る」という直感がありました。いま実際に、SDGsや環境が重視され始めましたが、そこでキーになるのが、自然素材とデジタル技術をつなぎ合わせること。それによって本当に環境に優しい建築が造ることができる時代の大きな波があると思います。
その意味では、協栄産業さんが培われてきた技術は、まさに今回のモニュメントのように、自然素材と組み合わせることで建築の世界を変えていくことができる力をお持ちなのだと思いました。
【平澤】隈先生にそこまでお褒めいただいて恐縮です。社員一同、誇りに思います。
今も息づく創業者の哲学
【根本】木材を使った温かみのある隈作品の代表作といえば、なんといっても国立競技場です。47都道府県から取り寄せた木材を使っていることで知られていますが、平澤社長のおじいさまが秋田で木材のお仕事をされていると伺いました。
【平澤】母方の祖父が、秋田杉の製材と販売をやっていまして、その流れで全木連(全国木材組合連合会)の会長も務めさせていただいたこともありました。個人的な思い入れになってしまうのですが(笑)、隈先生が木をモチーフにされているところがすごく共感、共鳴をします。ご縁がありますね。
【根本】父方のおじいさまが会社の創業者でもある平澤貞二郎さん。詩人の顔もお持ちで、詩の世界の芥川賞と言われるH氏賞を創設されました。新人発掘への思いは、詩の世界が持続的に続いてほしいという願いがあって、まさにサステナブルな気持ちがおありだったのですね。
【平澤】H氏賞が永遠に存続するよう、祖父が基金を出し、弊社も60周年のタイミングで基金をバックアップさせていただき、現在も続いています。そのようにすることで、文化を醸成し、持続的に続けていくことが社員にも誇りにしてくれたら嬉しいですね。創業者の思いが今後もつながってほしいと思います。
【根本】企業理念にも、おじいさまの哲学が受け継がれていると感じられるところはありますか。
【平澤】先ほど申し上げたように、時代に合わせて幅広く事業を展開できたのも、「常に一業に安住してはならん」という創業者の思いがあるからだと思います。
コロナ禍での「発見」
【根本】デジタルと環境の時代、価値観の変化についてここまでお話をしてきましたが、逆に変わらないこと、変えたくないことはありますか。隈さんはいかがでしょうか。
【隈】20世紀、人間は“生き物”だということが忘れられていました。しかし、森から生まれ、木や大地に育まれてきたのが人間です。この本質は変わりようがありません。
人間は“生き物”だから病気になるし、すごく弱い。だからこそお互いに助け合いながら、自分たちの未来を“弱い生き物”として築いていくことが時代のテーマだと思うのです。そのことを僕たちはコロナに直面して再確認したと思います。
【平澤】一方でコロナ禍は不安をもたらしたと同時に、私たちにどうすればいいのかを考え、ライフスタイルを根底から見直す機会になりました。新しい働き方という点では、リモートでも仕事ができる今の時代に合わせた方が、社員も幸せではないのかと気付いたことも今回このようなオフィスを造るきっかけになりました。
【根本】なるほど、昨今のトレンドが、今回の新社屋のコンセプトへとつながっているわけですね。
【平澤】はい。このタイミングで隈先生とご一緒に、このような素晴らしいモニュメントを作ることができたのは、本当に光栄だなあと思っています。
【隈】今回は、普通だと諦めてしまうような難しいことにも挑戦できました。協栄産業さんとのコラボレーションは、無限の可能性を感じるプロジェクトになりました。
【平澤】本当にうれしい限りでございます。ご期待にお応えできるように、私どもも、しっかり技術を磨いていかなければなりません。
【根本】最後になりましたが、協栄産業株式会社は今年が75周年。100周年に向けてのビジョンをお聞かせいただけますでしょうか。
【平澤】いま世の中はモノビジネスからコトビジネスへ移行していて、お客様の困りごとを解決できる企業が求められています。当社のビジネスにおいて力を入れている建設DX化は、「BIM」というプラットフォームをキーワードに、建物を作るところから維持管理まで一貫して行うという意味では、建物を長期活用でき、サステナブルに通ずるのではないでしょうか。
これからも建設DXをはじめとしたICTの技術を使って世の中を良くしていくことに注力していきたいと考えています。
【根本】これからも協栄産業さんと隈さんのコラボレーションが皆さんをワクワクさせるものを生み出しいただけるのではないかと期待しております。本日はありがとうございました。
(終わり)
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