7年前に逮捕で辞任した初の女性役員が復帰、トヨタが示したメッセージとは

豊田社長、当時の記者会見で「かけがえのない仲間」
危機管理/広報コンサルタント
  • 7年前に逮捕で辞任したトヨタ自動車の元女性役員が復帰。トヨタの意志を読み解く
  • 危機管理広報を手掛けてきた筆者が当時「唸った」と言う豊田社長の会見ポイント
  • 今回の復帰で示すトヨタの意志とは?本当の信頼回復コミュニケーションはなるか?
トヨタに復帰したハンプ氏(2015年4月撮影、写真:東洋経済/アフロ)

7年前にトヨタ自動車初の女性役員となり、就任2か月後に薬物輸入の疑いで逮捕され、辞任したジュリー・ハンプ氏が6月20日付けで復帰したことが日経新聞で23日午後3時に報じられました。

北米トヨタの「シニアメディアアドバイザー」に就任し、グローバルでの広報業務を支える役割を担うとのこと。7年前も含めてハンプ氏に関する姿勢に、トヨタ流のメッセージを感じずにはいられません。これはリカバリーコミュニケーションではないかと見えます。当時の会見を振り返りながら、トヨタのメッセージ戦略を読み解きます。

初の女性役員就任直後の逮捕劇

ハンプ氏は、米ゼネラルモーターズなどで広報を担当した後、2012年にトヨタ米国法人に入社、副社長に。2015年4月、トヨタ初の女性常務役員として来日して就任。当時のトヨタは女性や外国人登用に後れをとっていたことから、約100人だった女性管理職を2020年に3倍の約300人に、30年に約500人に増やす計画を2014年に発表。女性で外国人であるハンプ氏は、トヨタが進めるダイバーシティの象徴的な存在として注目を浴びました。ハンプ氏のポジションがCCO(チーフ・コミュニケーション・オフィサー)であったことから私自身も活躍への関心を寄せていました。

ところが、2か後の6月18日、いきなりハンプ氏が逮捕されるとのニュースに衝撃が広がりました。

組織犯罪対策5課によると、ハンプ容疑者は今月11日、米国から麻薬成分のジヒドロヒドロキシコデイノン(通称オキシコドン)を含む錠剤57錠を輸入した疑いがある。米国から成田空港に着いたハンプ容疑者宛ての国際郵便の小包を東京税関が調べたところ、荷物の底で袋に入れられた状態で見つかったという。厚生労働省によると、オキシコドンなどの医療用麻薬を個人が日本に持ち込むには、医師の診断書などを示して厚労省の許可を得る必要がある。処方された本人が携帯する場合に限られ、郵送での持ち込みは認められていない。

(朝日新聞 2015年6月19日)

つまり、アメリカで認められている鎮痛剤を持ち込もうとしたところ、携帯すればよかったものの、郵送の荷物に入っていたから麻薬輸入となってしまった。57錠なら携帯すればいいくらいの分量ですが、一体どうしてこのようなことになってしまったのか、誰もにとってもショッキングな報道であったことは確かです。

筆者が当時唸った豊田社長の会見

これに対し、トヨタの対応は予想以上に早く、翌日には記者会見を開催しました。しかも、豊田章男社長自らが説明。特に注目したメッセージは、「役員は直属の部下であり、子どものような存在」と親の心情を語り、「ハンプ氏はかけがえのない仲間。どうしたら支えになるか」と仲間を思う気持ちを前面に出したことです。

ハンプ氏逮捕直後、謝罪会見に臨んだ豊田社長(2015年6月、写真:AP/アフロ)

豊田社長は「法を犯す意図はなかったことが明らかになることを信じる」と現在の気持ちを表現しつつ、「責任」といった言葉を使わなかった構成に思わず唸りました。子を思う親の心情や仲間を思うメッセージは、共感せずにはいられないから、誰かに何かを言わせる余地がありません。「仲間を信じる」人に対して任命責任の質問はしにくい。一方、「日本に常駐する外国人役員は初めてで全社として準備不足だったかもしれない」とサポートが弱かった部分を述べ正直な姿勢でした。強気一辺倒ではなく、反省部分も織り交ぜているコメントが誠実さを表しています。

ハンプ氏登用の理由は「一言でいうと人柄。私は現場を任せられる人かどうかを重視している。ハンプ氏は10分ミーティングで全員とコミュニケーションを実施していてその中で、英語がわからない人にはゆっくり話すなど、部下とのコミュニケーションを大切にする。また、日本に溶け込もうと人一倍努力していた。チーフ・コミュニケーション・オフィサー(CCO)を任命したのは、ニュースリリースや会見の時に、お客様にどう理解されるのか、海外ではこう言った方いいとアドバイスをしてくれた」と回答。人柄、コミュニケーション能力、アドバイス力を高く評価しているとコメント。

この会見は、逮捕直後でほとんど何も情報がない中、章男社長は逮捕を知ったのがいつか、その後どう考え行動を起こしたか、なぜ記者会見を開くのか、今わかっていることと今後の方針、と危機管理広報の基本をカバー。ダメージを最小限に抑える機能を果たしており、クライシスコミュニケーション(危機管理広報)としては、ほぼ完ぺきと言える内容でした。

復帰で示すトヨタの意志とは?

1点だけ残念だったのは、眼鏡のサイズが緩く、繰り返し上げていたこと。落ち着かない印象を与えてしまいました。章男社長の他のプレゼンテーションでもそうですが、黒ぶちと黒目が重なるシーンもあり、眼鏡のサイズが合っていないと感じることがたびたびあります。眼鏡は黒目が中央になるよう普段からサイズを合わせるといいのですが、案外サイズが合っていないまま着用している人は多く、放置すると眼鏡を触る癖や人相への影響が出てしまうので要注意。

あれから7年。ハンプ氏を復帰させる決断にトヨタの強い意志を感じずにはいられません。リスク・クライシス関連のコミュニケーション活動には、平時のリスク情報開示を「リスクコミュニケーション」、危機発生時の説明を「クライシスコミュニケーション」、そして信頼回復に向けて平時の活動に戻す活動を「リカバリーコミュニケーション」と言います。ハンプ氏については「麻薬輸入」「麻薬密輸」「逮捕」に連動する言葉が残っています。彼女にとっては不名誉な形で印象形成がされている現状を考えると、今回の復帰はハンプ氏にとしても名誉挽回の貴重な機会。トヨタとしては「かけがえのない仲間は忘れない」「リカバリーのチャンスを与える企業」といったメッセージにもなりそうです。

ただし、どこかの時点で、ハンプ氏本人が7年前のことを説明する必要はあるのではないでしょうか。それをしてこそ、本当のリカバリーコミュニケーションになるといえます。

【参考資料】

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