安芸高田市長にヤッシーが喝!田中康夫氏「やり方が下手っぴ。頭でっかちな偏差値坊や」

議会運営に必要な「創造的葛藤」とは?
ライター/SAKISIRU編集部
  • 広島県安芸高田市の石丸伸二市長と市議会の対立が長期化して全国的に注目
  • 今回の件について、ヤッシーこと田中康夫・元長野県知事に話を聞いた
  • 「一人で空回りしていきがっている感じ」石丸市長の政治手法の欠点は?

広島県北部に位置する安芸高田市で、石丸伸二市長と市議会が対立していることが注目されている。東京キー局の情報番組でも話題になっているこの騒動。かつて長野県知事として県政に新風を吹き込みつつも、議会運営に苦慮することもあったヤッシーこと、作家の田中康夫氏は、今回の件をどう見ているのか。

安芸高田市の石丸伸二市長(YouTubeの同市公式チャンネルより)

石丸市長は京都大学経済学部卒業後に三菱UFJ銀行に就職し、シニアアナリストの肩書を持ち、ニューヨークで働いた経験もある人物。

石丸市長は市議会議員の定員を現在の「16」から「8」に半減させる条例改正案が提出したが、賛成1、反対14で否決された。市長は本会議で「居眠りする、一般質問をしない、説明責任を果たさない、これこそ議会軽視の最たるもの。『恥を知れ! 恥を』と声が上がってもおかしくない」などと、議員らを厳しく批判し、対立を深めている。

自治体で首長が改革しようとして、議会と対立する事態はこれまでもあった。田中康夫氏は2000年に知事選で初当選し、全国から注目を集めたが、2年後、田中知事の「脱ダム宣言」に反発した県議会が不信任案を可決。しかし田中氏は出直し知事選で5人の新人を大差で破って圧勝した。

「創造的葛藤」欠けるスタンドプレー

その田中氏は今回の騒動をどう見ているのか。田中氏はまず首長と議会の二元代表制の問題について指摘する。

地方議会では首長(市長などのトップ)と議会は「車の両輪」だと言われます。でも、緊張感が稀薄な“なあなあ”で、タイヤの溝も摩耗してブレーキも効かない両輪だと、住民不在の行政になってしまう。全国を見渡せば、職員に書いて貰った質問文をそのまま読み上げる議員も少なくない。こうした中、河井克行衆議院議員(当時)から60万円受領で前任の市長が辞職し、“よそ者”として市役所に乗り込んだ新市長は、義憤に駆られて議会を挑発したのでしょう。

ただ、安芸高田市の議会に改善すべき点があるとしても、市長の一存で一方的に動かせるものではないという。

だって、市長も議員も住民が選んだ代表ですから。海外にも困った議会は沢山有ると思いますが、「クリエイティブ・コンフリクト」つまり創造的葛藤という緊張感を双方が持って、議論すべきという考え方があります。議場以外でも意見を交わして第三、第四の道を創造的に模索しようという。

石丸市長には、この「創造的葛藤」が欠けていたと指摘する。

官でも民でも、事なかれ主義な組織のなかにだって、茶坊主ではない志のある人間はいるはずです。そうした人間を安芸高田市の職員から探し出して、部長や副市長に登用する方法もあったはず。なのに、最初の打ち上げ花火が副市長の公募だったでしょ。しかも、4115人も応募してきた中から選んだのが、大阪の堺市出身で秋田市の大学を卒業後、商社に勤務していた30代。「グローバルな事業経験を持つ即戦力になる女性だ」と太鼓判を押されても、議員だけでなく職員の多くも「なんだかなぁ」と感じたんじゃない? 市政運営がある程度軌道に乗ってから外部から人を入れたなら、摩擦は少なかったと思うけど。

「改革」を急ぐあまり、独りよがりになってしまっていたのかもしれない。

地元出身とは言え、京大からメガバンクという優等生の異物を鎧兜(よろいかぶと)で待ち構えていた市議や幹部市職員の警戒心や反発心を溶かすこともせず、北風を吹かせてしまった。外部から首長に就任しても実績を積み上げる人物は少なくないから、まぁ“純粋真っ直ぐクン”な彼の性格かなぁ。

田中氏は、皮肉混じりにこんな見解も示した。

今回の唯一の功績は、安芸高田という名前が全国的に知られるようになったことだね。これまで何と読むのだろう、「あんげいたかた」?「やすげいたかだ」? 新聞もネットメディアも振り仮名を振って欲しいよねと思っていた僕も含めて、「あきたかた」と正しく読めるようになったんだから(苦笑)。

2002年9月、県議会の不信任案可決による出直し知事選で圧勝した田中康夫氏(写真:Reuters/AFLO)

数字で従わせるのではなく心をどう動かすか

議員の定数削減は、必ずしも良いことばかりではないと、田中氏は議員や市民の気持ちを代弁してみせた。

2004年に6つの町が合併して誕生した安芸高田市は、24→20→18→16と選挙の度に議員定数を削減しています。定数を削減すると、地元選出の代表者が一人もいない(合併前の町や村の)地域も生まれてしまう「平成の大合併」の「弊害」が全国で問題視されている。「ニューヨーク帰りの野郎」に反発した市議だけでなく、これまでの市議会に不満を抱いていた住民でも、「俺たちの代表がいなくなってしまう」と感じた人は少なくないと思う。今回初めて足を踏み入れた東京や大阪のTV局の人間には分からない点だね。

本会議での「ガチンコ勝負」の前に、旧来型の根回しとは違う意味でのやるべきことがあったとも田中氏は語る。

これは議会制民主主義の大きな課題でもあるけど、日本の政治の劣化の原因は小選挙区制だと誰もが思っていても、自分たちの利害と直接関わる選挙制度改革には二の足を踏むのが当事者。その意味では、市民を始めとする外部の人間で定数や市議会のあり方に関して審議する場をまずは設けるべきだった。一足飛びに物事を進めてしまったのが、対立を激化させた原因。しかも定数半減の条例案は、現在35歳の女性が副市長に選ばれなかったことへの意趣返しでしょ。とにかく、やり方が下手っぴ。頭でっかちな偏差値坊やだよね。悔しかったらなおのこと、議員の心を開くような方法を考えないと

政治家というのは、人心を捉える能力が試される。

もちろん多数決という議会の採決は数字が全てだけど、それはデータサイエンスという統計学の数字とは違うわけで、周囲から一目を置かれた昔の「保守政治家」は、田中角栄や中曽根康弘だけでなく、人の心の機微を捉える達人だったでしょ

改革が必要だったとしても、やり方が強引ではうまくいかないようだ。

そもそも住民に対しての説明も足りなかったんじゃないかな。記者相手の市長会見だけでなく、僕が行ったように各地域に出向いての住民との車座集会や職員との対話を始めとして、さまざまな機会を自ら設けないとね。いかにも「意識高い系」な彼がいまさら「北風」から「太陽」へと方針転換するのは難しいかな。まぁ、お手並み拝見だと思います

安芸高田市の議会に、創造的葛藤は起きるだろうか。

ライター/SAKISIRU編集部

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