日本版デジタル市場法がもたらす中国・ロシアのマルウェア天国

「文春砲」で不倫発覚議員の問題も...
国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員
  • EUのデジタル市場法に見る日本のIT事業者規制の問題点は?
  • サイドローディングの義務化で懸念されるセキュリティ問題
  • 規制を進めた「文春砲」不倫騒動議員の問題点とは…

EUは3月7日からデジタル市場法の全面適用を開始した。この法律は、アメリカのIT大手をターゲットにした規正法である。従来までの独禁法は最終消費者に無料でサービスを提供して市場を寡占状態に置くサービスへの統制は困難であり、それがアプリストアなどを利用するコンテンツ提供者への過剰な影響力行使に繋がるものとみなされてきた。

今回のデジタル市場法では、このような影響力行使を制限することを通じ、アメリカIT大手のプラットフォーム事業者がEU域内で大手を振ってビジネスを行う機会を奪おうとしている。

イラストAC

サイドローディング義務化の懸念

EUにはアメリカのようなプラットフォーム事業者は存在していない。優れたプラットフォーム事業は米国で開発されて世界中にサービスが展開される状況となっている。そのため、EUは独禁法の亜種として、上述のデジタル市場法を制定することを通じ、米国企業の活動を制限し、巨額の課徴金を支払わせることを狙っている。

米国のような強力なプラットフォーム事業者が存在しないという点は、日本も同様だ。そのため、日本でも2019年から内閣官房に設置されたデジタル市場競争会議において、モバイル・エコシステムに関する規制の研究が進められてきた。ところが、昨年6月に同会議から「モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告(案)」が提出された際、大きなハレーションが発生した。同法が情報セキュリティ上問題があるのではないか、というパブリックコメントが多く寄せられたのだ。これは一体どういうことなのか。

問題になった点は「サイドローディングの義務化」だ。サイドローディングの義務化とは、簡単に言うと、アップルストア以外からアプリを容易に入手できるようにするということを意味する。これはAppleが提供する公式アプリの審査を受けていないアプリのスマホへのダウンロードが常態化することを意味する。一般の人々がサイドローディングを利用することで、従来までは発生しにくかったサイバーセキュリティ上の問題が生じることは明らかだ。

驚くべき拙速な政治日程

特に問題視されることは、中国やロシアなどのマルウェアが蔓延する事態が生じることだ。既に中国やロシアではハッキングやマルウェア開発などは一大産業となっており、それらのサービスが裏ビジネスとして提供されている。つい先日もニューヨークタイムズが中国ハッキング会社の実態に関して、すっぱ抜き記事を出して話題になったばかりだ。彼らが新たに生じるセキュリティホールを利用することは容易に想像がつく。というよりも、その可能性を想定しないことは極めて愚かだ、とすら言えるだろう。

BUCCH_astoria /PhotoAC

実はEUはこの問題について明確な対応策を持っていない。アメリカのプラットフォーマー憎しでサイバーセキュリティ度外視でデジタル市場法をゴリ押ししている状況がある。実はEUはデジタル市場法制定後の昨年9月に、モバイル・エコシステムに関する調査に関わる調達を開始している。この調達はIT担当部局であるDGコネクトが主導しているもので、サイドローディングに関するセキュリティ上の懸念を解消するためのソリューション探索が含まれてきた。

そして、この調査結果の報告は今年の4月以降に行われることになっている。つまり、驚くべきことに同法の全面適用後に初めてセキュリティのための方法に関する調査結果が出るスケジュールとなっているのだ。同法が十分な検討が行われず、極めて拙速なものだったことが分かる。(日本の最終答申も昨年6月であることからも同様の問題に目を瞑ってゴリ押しした感が否めない。)

アメリカのプラットフォーム事業者はサイバーセキュリティの要であるとともに、国家安全保障上も重要な存在だ。同事業者の能力等を徒に低下させることは、中国やロシアなどによるハッキング行為等に有意性を与えることになる。そのため、同規制に関する議論は極めてセンシティブなものだ。

「文春砲」不倫騒動議員の責任

山田太郎氏(官邸サイト)

しかし、日本版デジタル市場の競争政策に関するプロセスには、その政策策定に関わった国会議員にも問題がある。この問題に深くかかわってきた国会議員の1人は、昨年「文春砲」による不倫騒動で文部科学政務官を辞任した、山田太郎参院議員である。同氏は中国の国防七校である北京航空航天大学と深い関係を有しており、同校の名誉教授の地位に長年就いてきた人物だ。(同校関係者と日本で長年関係を継続してきており、同校関係の日本親睦会の役員にも名を連ねてきていた)

実は山田議員は、自民党競争政策調査会において部会長として、プラットフォーマーの優越的な地位を問題視してきた人物でもある。デジタル市場競争会議が前述の答申案を議論していた際には、デジタル庁政務官及びNISC(内閣サイバーセキュリティ)担当に就任していた経緯もある。政府の上記の役職に就いていた時代に、上述の不倫疑惑すら分からなかった政府の身体検査能力は極めて疑問であり、アメリカであればセキュリティクリアランスに抵触する懸念がある国会議員がプラットフォーマーに関する規制やサイバーセキュリティに関する議論に関わってきたことは驚愕すべきことだ。

そのため、山田議員が過去にどのように同政策の議論に関与してきたかを全て明らかにして公表することは、政府・与党としての最低限の義務であろう。まして、日本版デジタル市場法を新たに提出することなど論外だ。

日本版デジタル市場法は、サイバーセキュリティに関する懸念、安全保障政策上の懸念、立法に関与した人物に関する懸念など、極めて問題が多すぎるものと思う。日本政府は拙速な法案提出は見送るべきである。

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国際政治アナリスト、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員

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