衆院選で維新が好調も、「棚ぼた」勝機の東京を席巻できるか?

過去の苦戦で見える東京都民と大阪府民の「ツボ」の違い
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役
  • 衆院選で大阪を中心に好調とされる維新。東京で勢力を伸ばせるか?
  • 岸田政権が改革路線見直し、小池氏の国政進出もなく「棚ぼた」の勝機拡大
  • 吉村副代表のドブ板応援の選挙区も。都民の訴求ポイントは大阪と違う?

衆院選の選挙活動期間も、残すところ2日余りとなった。先週半ばから今週明けにかけてメディアの情勢報道では、日本維新の会が本拠地の大阪を中心に、解散前議席数の3倍となる30を視野に入れる好調ぶりのようだ。

有楽町で支持を訴える吉村氏ら

大阪は絶好調、東京は未知数

大阪では、19小選挙区のうち15の選挙区に候補者を擁立。政界随一の精度を誇る自民党本部の情勢調査でも半数以上が首位をキープ。2位の候補者でも首位の自民党候補者らとほぼ横一線の激しい戦いを演じる人が多く、仮に敗れても比例復活の可能性が高そうだ。他の近畿圏を見回しても、知事選で初めて推薦候補が当選した兵庫では小選挙区の確保は微妙なものの、大阪の動向次第で比例復活できる健闘者は少なくない。

こうなると、維新にとっての課題は首都東京だ。2年前の参院選で音喜多駿氏が選挙区で勝ち上がり、東京維新の現代表を務める柳ヶ瀬裕文氏も比例で当選。この間の統一地方選で区議や市議の数も一定数増え、都知事選では推薦した元熊本県副知事の小野泰輔氏が61万票を獲得した。

しかし都議選では、自民党がやや復調し、都民ファーストの会も劣勢から第2党を確保した中で、維新は1議席にとどまった。「宿願」の全国展開に向け、東京で橋頭堡を確保するにも足場がまだ弱いことを浮き彫りにした。

同じ「保守系非自民」勢力で、存在感の大きい小池都知事や都民ファーストの会と支持層が競合するため、伸び悩みがちだったが、懸念されていた小池氏の衆院選出馬はなく、都民ファーストの会の国政進出は選挙日程の前倒しで断念。

さらに岸田新政権が「新自由主義からの転換」を訴え、小泉政権時代からの構造改革路線を否定したことで、逆に「改革」を旗印にしている維新にとっては、古い自民党を嫌う保守寄り無党派・中道層や、旧みんなの党支持層にアピールしやすくなった。他力とはいえ「棚ぼた」のチャンス拡大になっているのは間違いない。

吉村洋文副代表(大阪府知事)が選挙直前の17日に有楽町で街頭演説をした際、岸田政権について「新しい自民党も残念です。改革という文字がなくなってしまいました」「自民党との明らかな対立軸は改革です」などと訴えていたのは、都市部特有の改革志向の選挙民をターゲットにしていることがうかがえる。

東京2区候補者の木内孝胤氏、1区候補者の小野氏らと有楽町で訴える吉村氏

「切り札」吉村氏 全面投入

維新は東京の25ある小選挙区で17人を擁立。これは橋下徹氏と石原慎太郎氏が共同代表を務めていた2012年衆院選に匹敵する規模だ。しかし選挙戦中盤までの情勢調査を見る限り、「逆風はないが、追い風もない」状態となっている。

ただ、政界関係者の注目を集めそうなのが東京12区(北区と足立区の一部)だ。自民はここを公明党に譲って久しいが、選出議員だった同党の太田昭宏元代表が勇退。前外務政務官の岡本三成氏へのバトンタッチを狙うが、共産党の地盤でもあり元議員の池内さおり氏が野党統一候補として返り咲きを狙う。ここに、維新の阿部司氏が、北区出身で、学生時代からの盟友である音喜多氏の全面支援を得て殴り込みをかける。

阿部氏の選挙戦が「他党からも注目」と書いたのは、吉村副代表が首都圏では異例の「ドブ板応援シフト」を組んだためだ。吉村氏は26日に現地入りした際、日中に6時間も滞在。街宣車での演説だけでなく、阿部氏や音喜多氏とともに自転車パフォーマンスまでも披露した。コロナ対応で全国区の知名度を得た大阪の知事が東京の北区の津々浦々に出現するという「切り札」(音喜多氏)を見せた。昨年の都議選では、都民ファーストの会の候補者と無党派の票を分け合い共倒れしたが、今回、小池系が不在。小池支持層や、公明や野党を嫌気する自民党支持層への浸透を狙う。

「身を切る改革」都民に刺さらない?

ただ、阿部氏や、昨年の都知事選にも出馬した東京1区の小野泰輔氏らが比例復活を狙うにしても、都内全体の比例票で30〜40万票を掘り起こさなければ当選枠の確保はおぼつかない。読売新聞の序盤の情勢報道では「2議席をうかがう」としていたが、そうなると参院選で音喜多氏が獲得した54万票、都知事選で小野氏が集めた61万票を超える上積みが必要だ。

都民の政策的ニーズは何か?(Mlenny/iStock)

一方で、維新は先述したように都議選でも1人の当選に終わるなど首都では伸び悩んできた。大阪での10年に渡る維新行政で、知事や市長が報酬をカットし、府議会の定数を削減し、教育予算などに充てる「身を切る改革」の実績をアピールするが、長らく経済的な危機から遠ざかっていた東京都民からすると実感に乏しいためか「刺さっていない」という指摘が少なくない。“大阪流”にいえば「ウケるツボが違うんやわ」と言ったところか。

実際、小池知事が豊洲市場問題で4000億円を空費し、コロナ対応のためとはいえ1兆円もあった財政調整基金を使い果たしても、小池氏は都知事選で圧勝した。都民は日本の中では比較的恵まれているためか、税金の無駄遣いに無関心で、“鷹揚”な側面があるのだ。そうした中で、自民党や小池知事の勢力とどこが違うのか、都民に刺さる政策的な切り口は何か。類似の勢力がいなくなった、この選挙戦は維新の全国展開を占う試行錯誤の場になっている。

 
報道アナリスト/株式会社ソーシャルラボ代表取締役

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