中国AI軍事革命 #2 共産党政権がAIの進化で何を恐れているか?

『知能化戦争』監訳、慶大・安田淳教授に聞く
2021年06月27日 06:00
ライター・編集者
  • 中国にとって自律型AIと共産党の判断との間で齟齬が出た場合が問題
  • 「党の絶対的優位」を唱えるも、AIの自己判断をかじとりできるか不安
  • 『知能化戦争』著者「中華民族の偉大な復興」を明確な目標に掲げる

人民解放軍の自律型兵器導入構想とは?尖閣に自律型兵器が投入されたらどうなるのか?中国共産党100周年となる7月1日を前に、中国の現役軍人・龐宏亮が書いた『知能化戦争』を監訳した安田淳・慶応義塾大学教授に引き続き話を聞く。(3回連載の2回目)

CrailsheimStudio / iStock
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党とAIに齟齬が生じたら?中国最大の問題

――中国軍の「知能化」、つまり自律型AI兵器の問題。世界的にその方向に進んでいることは間違いありませんが、中国特有の課題があるとか。

【安田】『知能化戦争』の「解題」でも指摘しましたが、中国は自律型AIの判断と、中国共産党の判断との間で齟齬が出た場合、どうするのかという「党軍関係」について、『知能化戦争』の著者は触れていません。あえて触れなかったか、触れることができなかったのでしょう。

人民解放軍の機関紙などを読むと、「自律型と言っても、すべての行動を完全に機械任せにするわけではない」「人工知能の自己決定は、一概に否定できない」など、議論があることがうかがえます。

中国共産党にとって「党」を優先させることは対人間でもいまだに大きな課題で、今世紀に入ってからは特に「党の絶対的優位」や「人民解放軍は国軍ではなく党軍である」ことを説き、「党への忠誠」を誓わせようとかなりしつこく言及し続けています。これほどしつこく言うのは、やはり問題があるからでしょう。

それだけ悩ましい問題がある中で、果たして知能化兵器でそのあたりをうまくかじ取りできるのか。これについては彼らもまだ不安があるようです。

AI兵器の制約と限界は西側にも

安田 淳(ヤスダ・ジュン) 慶應義塾大学法学部教授。1960年東京都生まれ1989年慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得満期退学。1986年防衛庁防衛研究所教官。2005年慶應義塾大学法学部学部教授。この間、1988から89年中国・復旦大学留学。1997から98年米国スタンフォード大学訪問学者。専門は軍事を中心とする現代中国の安全保障。共著に『中国をめぐる安全保障』(ミネルヴァ書房)、『台湾をめぐる安全保障』(慶應義塾大学出版会)など。

――人間なら「粛清だ」「左遷だ」という脅しも効きますが、AIはそんなものは考慮しませんよね。

【安田】中国にとっては、党を守ってくれなければ意味がない。単純に考えれば、「党の命令は絶対」という制約をプログラムに課し、その範囲内での学習(計算)をさせればいいということなのかもしれませんが、『知能化戦争』でも人間の棋士に勝った人工知能のに言及するなどしながら、その能力の可能性と危険性の両方を見ている。彼らとしては、「AIが自分で判断して行動する」ことに対して、ものすごく強い恐怖心を抱いているのもまた確かです。ただ、それは我々だって同じことですよね。

――仕事が奪われる、機械に支配されるという懸念はよく指摘されます。

【安田】中国が思う「怖さ」は、主に自分たちが築き上げ、磨き上げてきた軍事力が、AIによって自分たちに刃を向ける危険性を見ているところからくるものでしょう。その意味で「知能化」が実は諸刃の剣でもあることを、彼らは我々以上に理解しているでしょう。

――中国の場合は「党の方針」というAI学習の制約がありますが、いわゆる西側、日米英など民主主義国家の場合には、生命倫理や国際法が制約になります。

【安田】そうですね。我々の言うところの制約は彼ら中国側にはありません。ひとえに、「共産党の言うことを聞いてくれるかどうか」。これに尽きます。

『超限戦』に匹敵する超重要文献に

――中国の軍人が書いた論文と言えば、1999年に発刊された『超限戦』が有名です。あらゆる領域が戦場となり、戦闘員と非戦闘員、あるいは平時と有事の区別もなくなるという概念を提唱し、話題になりました。『知能化戦争』は『超限戦』に次いで、中国軍の今後の動向を把握するうえで欠かせない一冊になりそうです。

【安田】本書の「おわりに」には、これを書いた龐宏亮の動機が明確に書かれています。

〈中華民族の偉大な復興には強大な軍隊が必要であり、軍隊が強大であるには、先進的な理論の導きと支えが必要である〉

日本人なら「先端研究の現在地と展望を示したい」とか「人類の歩みを追い、その先を捉えることに寄与したい」などと書くところですが、中国人の場合はそうではない。国家の発展、強大化のために研究している、今後、国家を押し上げるのはこの『知能化』の力なのだとはっきり書いています。ある意味、非常にわかりやすいですよね。

逆に言えば、我々は中国の狙いがこれだけよくわかるのだから、「不透明で、謎に包まれていて、実態がよくわからない」と言った虚像ではなく、実態を捉えたうえで中国を論じるべきです。そもそも、こちらは中国を「分からないもの」とみなしがちですが、むしろ、中国からすれば「日本の方が何を考えているか分からない」と思っているのですから。(#3に続く)

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