自民党の裏金問題「真のヤバさ」とは?上場企業の経費不適切支出と比べてさらに見える化
民間では「当たり前」のことが...- 元上場企業関連会社役員の渡瀬氏が自民党の裏金問題を企業目線で切る
- 今週、社長の経費使用への疑義が公表されたばかりの上場企業と比較
- トップの不適切な支出が露呈する理由とは?問われる自民党のケース
自民党の裏金問題がメディアを賑わしているが、ところで、これは民間企業の場合はどのぐらいヤバい話なのだろうか。政治家たちは納税者から受け取った資金を私的に流用した可能性があるわけだが、株式が公開されている上場企業の資金を私的に流用するのと何が違うのだろうか。
直近、2024年2月15日に東証スタンダードに上場している株式会社セプテーニホールディングスが公開した経費の不適切利用に関するプレスリリースを見てみよう。
代表取締役による経費の不適切利用と再発防止策に関するお知らせ
社長経費に疑義、セプテーニの事例
さて、同社のプレスリリースによると、代表取締役佐藤光紀氏による経費の不適切利用が 2023年9月に確認されたことを受けて、同社は、実態の解明、原因の究明等に努め、その結果を踏まえて、再発防止策を策定・実施するに至ったとされている。
具体的には、会社経費とした費用(主にハイヤーを中心した旅行交通費)の一部について、業務上の必要性に疑義が認められていることが判明したという。これは2023年6月に取締役からの指摘に基づいて監査役会が調査したものであり、2200万円を自主返納するように勧告し、佐藤氏は既に全額自主返納したとされる。なお、佐藤氏は、24年3月27日に株主総会で代表取締役及び取締役から退任するとのことだ(同社の説明では上記の不適切利用と退任自体は関係ないとしている)。
かつて上場企業のグループ会社で役員をしていた筆者の経験でも上場会社及びその関連会社の役員が辞める時には、監査によって根掘り葉掘り支出をチェックされるものだ。その結果として、何らかの私的横領の疑いがある支出の有無が精査される。上記プレスリリースでは役員から申請された経費のチェック体制強化などの様々な再発防止策が講じられることになった。
さて、この件を今回の自民党の例に当てはめてみよう。政治資金規正報告書への組織的な不記載は政治資金規正法上の大問題であり、この点については論ずるまでもなくアウトだ。そもそも経理処理しない裏金をパブリック(税金が入っている)な組織で支出するなど話にならない。
その上で、現在問題となっている政策活動費(党幹部が領収書無しで支出できる資金)をセプテーニ社の事例と比べると、その酷さが更に分かることになる。
上場企業の持ち主は公開された株主であり、その持ち主は代表取締役ではない。そのため、その経費の私的利用は当然に禁止されており、その支出の妥当性には疑義が入るのは当たり前だ。他の取締役や監査役が指摘された場合、その真偽を確認して上記のような文書を当然に公開するべきだろう。
しかし、政治家の政策活動費の場合、そもそも支出内容をチェックするための資料がなく、まさに掴み金で幾らでも支出して良いことになっている。これでは党幹事長がそれを私的に使用したか否かすらサッパリ分からない。当然であるが、周囲の党幹部(取締役に相当)が不正を指摘することもできないし、まして国民による監査も不可能だ。このような制度があることが如何におかしいか、上述の民間企業の例と比べれば一目瞭然だ。
自民党にガバナンスはあるのか?
また、トップの様々な不適切な支出は、適切なガバナンスの欠如によって生まれる。上述のセプテーニの例を挙げれば、現在の社長への変更前の体制を見てみたが、取締役2名に対して5名の社外取締役が就任していた。プレスリリースを見る限り、代表取締役ではないもう1名の取締役が不適切支出を指摘したということだろう。一般的に社外取締役は代表取締役との距離感で本当にガバナンスが効くのかを疑問視されることがある。そのため、取締役と社外取締役の比率や関係はガバナンスが適切に機能するためには重要だ。
また、同代表取締役については業務上の必要性に疑義がある支出をしたにも関わらず、親会社の電通が単なる役員交代で済ませ、代表取締役とその友人と思われる社外取締役をそのまま放置しているのは民間企業でも甘い措置だと感じる。
一方、自民党には様々な役職者、派閥の領収、そして既に党を離れた派閥オーナーなどの様々なステークホルダーがいるため、一体誰が責任を取るのかが極めて不明瞭だ。
その中で、党幹事長の権力が肥大化し上述のような政策活動費の問題が黙認されるとともに、関係者が多く無責任体質な派閥の裏金問題が発生している。お友達的なナアナアの雰囲気の中で従来までの不適切な支出(原資は税金が含まれる)が続いてきたと言えよう。
結局、セプテーニ社の場合は内部の他取締役からの指摘で問題が発覚し、その上で監査委員会の監査が入り、報告書と再発防止策が作られて、当時の代表取締役が全額自主返納することが決まった。
自民党は外部から指摘されて問題が発覚し、自主チェックしかせず、名ばかりの対策をし、内容不明で返金措置すら行うことができない。本来は、民間企業の場合では当たり前であるが、党幹部は全て辞任してその責任を厳しく追及されることは当然だ。その点については国民が自らの手で有権者としてジャッジするしかない。
最低限、民間の上場企業と同様に不適切な行為があった場合には、その内容と責任者を公表し、再発防止策と全額自主返納することは当然ではないか。一般国民の大半どころか政治記者たちですら忘れているが、自民党は22年10月に政党初の「ガバナンスコード」を制定し、政治資金について疑義を持たれた時には「厳正なコンプライアンス対応」をうたっていた。結局、この裏金問題の対応により、全く空文化していることが露呈した。民間の上場企業で実施されている当然の是正措置を実行するべきであるし、それが本当のガバナンスというものだろう。
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